85話 瞬殺
2回戦開始宣言がミーサーから下された。
カエデにやられた男は長剣を持っており、もう1人の男は槍を使うようだ、鬼女は大き目のハンマーを持っている。
「すぅ……身体強化」
「身体強化」
ソルトが極限集中状態へと移行し、俺と同じように身体強化を掛ける。
「シャープネス、スピリム」
更にバフ2連をソルトに掛ける、この状態のソルトを止められる奴は……恐らくこのステージ上には居ない。多分俺ですら無理だ。
「瞬歩」
ソルトが瞬歩で迫った相手は槍を持つ男だ。
カエデにやられた長剣の男は既に恐怖で脚が動いていない。ソルトはそれを判断して、もう1人の男を狙ったようだ。
「っ!? ぐおっ……ガハッ……」
ソルトの余りの速さに、気付いた時には既にソルトは槍男の足元にまで迫っており、腹に膝がクリーンヒットして吐血する。
「……」
ソルトは恐ろしい目をしたまま敵を見下し、ソルトの肘鉄が槍男の後頭部へ。
「ガッ……」
槍男はそのまま顔面を地面に叩き付けられ、めり込む程まで頭が地面に沈む。
一瞬で気絶まで持っていき、ステージ外へ退場させた。
「……ふう」
ソルトは極限集中を解除、限界になる前に解除する方法を俺がバフを教えて貰っている間にレインから聞いていたらしく、倒れる前に解除出来たようだ。
試合開始宣言から1人仕留めるまでの時間は僅か6秒、まだ敵は脚を動かしてすらいない。
恐らく俺達がどう出るか見ようとして、そのまま動けていないらしい。
「……え?」
「う、嘘だろ……瞬殺?」
鬼女と長剣男の動揺している、僅か6秒の間に1人が為す術なくやられたのだから。
「アクセルブースト」
続いて俺は長剣の男へ迫る、既に装纏させているシェミィの魔力は、形を変えて双牙となる。
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
きっとカエデにされた事を思い出しているのだろう、恐怖の顔をさらけ出す。
どうせ倒すなら……カエデと同じようにしてやろう。
「装纏猫、双牙」
「ひっ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
長剣男を双牙で噛み砕く、またしても上半身と下半身が裂けたように見えたが、元通りとなりステージ外へ弾き出される。
試合開始からここまでの時間は……僅かに10秒。
「……え、え?」
鬼女は余りの出来事に腰を抜かして尻餅をつく。
俺はそのまま鬼女の元まで歩いていく。
「……何か言いたい事はあるか」
「えっ……?」
話し掛けられるとは思わなかったようで、何を言ったのか理解出来ず聞き返してしまった。
「だから、何か言いたい事はあるか?と聞いてるんだ」
鬼女にそう問いている間に、ソルトとメイランが俺の後ろまで来ていたようで3人で鬼女を見下す。
ソルトの目は未だに恐ろしく、メイランは翼を広げて威嚇、俺は魔力を纏わせたまま圧力を掛ける。
「ひっ……!」
思わず手に持っていたハンマーで俺達を振り払おうとするが、氷の壁がそのハンマーを防ぐ。アイスウォールの即時発動なぞ容易い事だ。
「……抵抗するって事は、俺達にかける言葉はないんだな?」
「うっ……」
鬼女はハンマーを手放し、俯いて黙り込む。
「……はぁ、メイラン……やるか?」
「正直、こんな状態の相手を制裁した所で、気分は晴れないわね……場外にして終わらせるわ」
メイランは鬼女へ歩いていき、胸ぐらを掴む。
「ほんと最低ね、人を貶しておいて責められたら黙り込むなんて」
「……」
鬼女は黙り込んだまま動かない、メイランは鬼女の腕を掴んで低空飛行でステージギリギリまで運ぶ。
「さようなら……もう関わってこないで。私達はみんな、自分達の意思でコウガ様に仕えているのだから」
メイランは鬼女を場外へ投げ捨てた。
「き、決まったようです。何やらあのPT同士でいざこざがあったようですが……ウインドウルフが勝利を収めました! 試合時間は僅か30秒です!」
俺達は、何とも言えない顔のままステージを後にした。
正直、気分は全く晴れていない。
「はぁ……ただ貶されただけなのに、こんな事する俺達も……喜ばれる物ではないな」
「そうかもしれないわね、でも私個人としてはあの3人は許せなかったもの、私は後悔してないわよ」
「自分もっす」
「……そうだな」
俺達はあまり軽い足取りではないが、俺達を待つ仲間の元へ戻るのだった。
「ご主人様……」
カエデはみんなの戦いをみて、3人の心情をある程度察していた。
「ママ」
「……! シェミィ」
シェミィはコソッとカエデの影から顔を覗かせていた。
試合が終わった瞬間にこちらに来たのだろう。
「パパ達、元気ない……」
「……そうだね、2人で癒してあげようね」
「……ん」
シェミィは誰にも見られていないのを確認してから、こっそりと影から出てカエデの隣に座る。
「カエデ、一体マスター達に何があったのだ? 顔色が良くないようだが……」
「あ、そっか……セシルさんと知り合う前だったから、知らなくて当然だね」
カエデはノイシュに到着した際にあった出来事をセシルに説明した。
「なるほど、そんな出来事があったのだな」
「うん、ご主人様も表面上は気にするなって言ってたけど……心の内では怒ってたみたい」
「それはそうだろうな、仲間を貶されたとなれば黙ってはないだろう。試合で仕返しするのも分かる気はするよ」
「そうだね、私も怒ってアイツ噛み砕いちゃったし……ご主人様も私と同じ攻撃で仕返したのは少しスカッとしたかな」
「ふふ、あれは一生のトラウマになるだろうな」
「だね、多分もう逆らっては来ないね」
そうして話していると。
「ただいま」
「おかえりご主人様、みんな。……大丈夫?」
「大丈夫は大丈夫なんだが……まぁ、あんま気分いい物ではないな」
「そうね、何か気分晴らししたい所ね。誰か付き合ってくれないかしら?」
「自分はちょっと休むっす、極限集中使ったの若干後悔してるっす……」
ソルトは席に座ると、背もたれに倒れてぐでーっとする。
「そりゃそうよ。アイツらが許せないのは分かるけど、それまで使う必要あった?」
レインからごもっともな言葉が返ってきた。
「うっ、それはそうっすけど……」
「まぁまぁレイン、そう言ってやらないでくれ」
レインの言うことも分かるが、今はソルトの擁護に回る、俺も装纏使う必要なかったが使っていたからな。
「はぁー、仕方ないわねぇ」
レインは溜息を吐きながらも、これ以上口を挟む事はしなかった。
「メイラン、私が良ければ鬱憤晴らしに付き合おうか?」
セシルがメイランの鬱憤晴らしに付き合ってくれるみたいだ。
「あら、ありがとう。付き合ってもらうわね」
「うむ、それでは行こうか」
セシルに連れられてメイランは会場の外へと向かう。
俺はそれを見送ってから席に座ると、隣にカエデが座りに来た。
「ご主人様。ほら、尻尾触ってもいいから元気出して」
カエデの尻尾が俺の手に当たる。
あぁ、ふわふわだぁ……。
「パパ、元気出して」
シェミィも俺の前に立って頭を撫でこ撫でこしてくれる。
「ありがとうな……カエデ、シェミィ」
「いいの、ご主人様が辛い時は私も背負ってあげるから、ね?」
「ん! 私も!」
ほんと……良い子達だよ、こんな子達に出会えて本当に良かったと思う。
俺は暫く、カエデのもふもふとシェミィの癒しを堪能し続けるのであった。




