53話 模擬戦開始
次の日、朝早くに目覚めた俺は宿の裏にある広めの裏庭に出て素振りをする事にした。
もちろん、部屋から出る前に狼人族へ変身しておくのも忘れずに。
「ふっ!」
素振りで身体を動かし10分ほどした後、仮想敵を想像で思い浮かべて斬りかかったり回避したりと実践式で仮想敵と戦うイメージで動く。
「んー、イマイチ」
「!?」
急に声が聞こえて振り向くと、いつの間にか間近でクロエが俺の動きを見ていた。
「い……いつの間に」
「んふ。背後を取られたことに気付かないとは、まだまだ修行が足りない」
いや、クロエの気配消しが上手いだけじゃ……? こういうのって確か隠密って言うんだっけ?
「なぁ、さっきイマイチって言ってたが……やっぱり俺の動きって良くないのか?」
「んーっと、動き的に敵を想定して動いてたから、それはいいと思う。ただ、動きがぎこちない、接近戦慣れてない?」
「俺は元々魔法使いで、カエデの力を借りて接近戦をしてるからな。この能力にも目覚めてまだそんな日も経ってないから、クロエの言う通り慣れてないってのはあるかも」
やっぱりクロエの目には俺の接近戦は変に見えるみたいだ。
カエデとシェミィがクロエと共に裏庭に行った時から思ってたが、クロエって相当にやれる人なのだろう。
観察眼が凄いのと、他人にアドバイスや指南出来る知識と実力、そして先程の隠密……何処を見ても強者感がある。
「なるほど、それは接近戦の場数を踏むしかない。頑張らないとカエデに負けるよ?」
「だよな……魔法で差別化出来るとはいえ、きつい事には変わりないかもな」
「んー、魔法との近接の組み合わせは結構なアドバンテージになる。組み合わせ方を色々意識してみるといい」
「ありがとう、意識してみるよ」
「ん! カエデはまだ寝てる?」
「あぁ、多分まだ寝てる。そろそろ起きてくると思うけど」
「そ。なら、カエデの準備が終わるまで私が相手になる」
「良いのか?」
「もちろん。カエデの相手が不甲斐ないと面白くない」
「それは確かに。じゃ、お願いします」
お互いに二刀流ナイフを構え、俺から仕掛ける。
身体強化を掛けてからアクセルブーストで詰め寄って、急所を狙った一閃を入れるが余裕を持ってガードされる。通り抜けぎわに後ろから斬ろうとしても振り向く事も無くナイフで防がれる。
何で見ずにガード出来るんだ!?
「んー、わかり易すぎ。気配を読むまでもなく何処に攻撃が来るか分かる」
「見なくても分かるって……ヤバくないか?」
「神経を研ぎ澄ませれば誰でも出来る。特訓してみる?」
「機会があればな!」
俺は一旦クロエから離れ、ナイフに風魔力を纏わせる。
「んーなるほど、魔力操作が上手い」
「そりゃどうも!」
再度アクセルブーストで加速し、姿勢を低くして足元を狙う。しかし真上にジャンプして躱されるが、思いっきり踏ん張り宙に浮いたクロエを追撃に向かう。
ジャンプで浮いたクロエの身体が下がってくるタイミングで斬り掛かるが、流石は猫だ。華麗な身のこなしで俺のナイフを弾きながら身体をくねらせて綺麗な着地を決めて、更にはバックステップで距離を取られる。
そのバックステップでの離れ際に、ナイフに纏わせた風魔力を集結させて風刃を放ち追撃した。
「風刃」
「ん、なるほど……風刃!」
「なっ!?」
クロエが一瞬でナイフに風を纏わせて同じ技を放ち、風の刃が相殺される。
「同じ技!?」
「ん、追撃用として悪くない。これもらった」
「嘘だろ、一瞬で真似された……?」
見ただけで技を盗めるなんて……ヤバすぎるだろ。
全く勝てる気がしない。
ダークミストを目眩しに使って攻撃するも、並外れた神経で気配を感知されて防がれる。
パラライズサイズで拘束しようにも、発動して拘束するほんの少しのラグの間に魔法ごとナイフで斬られてしまう。
「す、凄いな。何をどうすればそこまで強くなれるんだ……?」
「命を張って経験を積み上げたら出来るようになる。人は死に直面すればする程、身体の限界を超えようとする。その限界を何度も何度も超えた先に、見える物がある」
「……」
何処か遠くを見て語るクロエに、俺は言葉を失う。
まるで、クロエが何度も死にかけてその強さを手に入れたと言っているような気がして。
「……風刃っていう面白い技を見せてくれたから、また1歩強くなれた。お礼に、一瞬だけ本気を見せてあげる」
「!?」
クロエが目を瞑ってふぅーと息を吐き出す、そして両手を地面に置くと凄まじい魔力が吹き荒れる。
その魔力は、やがて大きな猫と牙を型取って双牙となった。
「くっ!? 何だ、この尋常じゃない魔力は!?」
「被憑猫・双牙!」
技名が聞こえた瞬間……クロエが消えた。
一瞬だった。何も分からないまま、クロエは俺の背後へと移動していた。
……何が、起きた? いつの間に、クロエが後ろに……?
地面の抉れが俺の目の前にまで伸びている。先程の2つの牙が真っ直ぐ俺に向かって放たれていたって事だ。
要するに……クロエと本気で戦っていた場合、何も分からないまま攻撃を受けていた事になる。
「ん、今ので本来は死んでたね」
「な……何だったんだ……今のは……」
「分からない方が正常、今のが防げるなら間違いなく武闘会で優勝出来る。良いもの見れたね」
クロエはクルっとナイフを回転させて鞘に収める。
ミツキさん、貴方はなんて人を護衛に持ってるんだ……。
「ちなみに、私は武闘会には出られない。強過ぎて昔に出禁になったから」
「そ、そりゃそうだろうよ……」
頭を抱えながら話していると、裏庭に出るドア奥からドタドタと足音が複数聞こえてきた。
「ご主人様! 今の魔力は一体!?」
「尋常じゃない魔力だったっすよ、今の!」
カエデとメイランとソルトが慌てて裏庭に走ってきたのだが、寝間着のままだった。
「あ、あぁ。今のはクロエの魔力だ」
「クロエちゃんの……?」
「ん、ようやく起きたね。起こす手間が省けた」
「まさか、カエデを起こすのも計算にいれてあれを放ったのか!?」
「まさか、そこまでは考えてない。たまたま」
流石に目覚ましとしてあんな魔力を放出されたらたまったもんじゃないな。違って良かった。
「何も無いなら良かった……取り敢えず、すぐに準備してくるね!」
カエデ達3人は着替えに自室へ戻った。
「ね、まだやる? カエデが来るまでなら付き合うよ」
「お願いしようかな。これだけ強い人に指導してもらえる事なんてそうそう無いだろうからな」
「ん、いい心意気。やろう」
再びお互いにナイフを構えて、カエデ達が準備終わるまで特訓再開。
結論からいうと、1発すら当てることは出来なかった。
しかし、打ち込んでる最中も「遅い。これだと読まれやすい、こうした方がいい。今のこうすると相手にプレッシャー与えられる。こうすれば対処の選択肢を狭められるから先が読みやすい」とアドバイスを入れてくれるので、有意義な特訓となった。
「ご主人様! クロエちゃん! お待たせ!」
「お、準備出来たか。クロエ、ここまでだな」
「だね、また機会あれば見てあげる」
「その時は頼む。今日はカエデとシェミィを頼むな」
「ん、任された。主呼ぶからちょっと待ってて」
クロエがポケットに手を入れると、小さめの何かを取り出して耳に当てた。
「主、みんな準備出来たみたい。来て」
あれ、もしかしてスマホみたいな通信機的な何かなのか……?
「なぁ、それって魔道具か……?」
「ん? そう、主が作ったの。何かあったら連絡取れるように」
「いいなぁ、それ……」
「確か予備がまだあったはず、主に聞いてみたらいい」
「ありがとう」
電話してから3分後、ミツキが迎えに来てくれたので全員でミツキの家に向かった。
カエデとシェミィは、クロエに連れられて別の場所で特訓するとの事なのでリビングで別れて、残りのメンバーはティナが先頭でミツキ宅の裏庭へと向かった。
「さて、コウガ殿。丁度3人と3人だが、どうする?」
3VS3なら団体戦の練習が出来るとは思うが、まずは個人のレベルUPが重要かなと思う。
「今日は1人ずつでお願いしたい。連携練習は明日で」
「分かった。そうだな……コウガ殿は私が相手になろう。コウガ殿は魔法と接近戦を両方扱うと聞く、相手するなら私が1番適任だろう」
ティナか、タンクだからジルさんと同系統だろう。
タンクと言えどタンク兼アタッカーな場合もあれば防御特化の可能性もある、どちらにせよ注意しなければ。
「なら私は、同じ狼同士でやりたいわ。ソルトだったかしら? お願い出来る?」
「もちろんっす! お願いしまっす!」
レインはカエデと同じ狼人族で、装備的にはショートソードっぽい。やはり狼はスピードを活かしたいのか、軽めの武器になりがちなんだろうな。
「なら、それがしはメイラン殿か、宜しく頼む」
「よろしく。ツバキさんの姿って確か、忍びって言うのかしら? 初めて戦うわ」
「忍びが珍しいのは当然。見慣れぬ技に翻弄されぬよう……」
「ええ、頑張るわ」
ツバキは、前世でいうくノ一。要するに忍者だ。
忍者の武器と言えばクナイや手裏剣といった小道具を使ったり忍術を使うイメージだが、この世界にその武器や道具があるのか否か、その辺は興味ある。
だが、今は対戦相手であるティナに集中しないとな。
ミツキの家の中庭はとても広い為、3人で散らばって訓練しても充分な広さがある。
これなら周り気にせずやれそうだな、カエデの力……借りるぞ。
それぞれ3組が散らばり、いい距離を空けた所でミツキから声がかかる。
「みんな準備はいい? 怪我したら俺の作ったポーションや塗り薬があるから、遠慮なく言って! それじゃ、始め!」
3組それぞれ模擬戦による特訓が始まった。
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