50話 流れ者、御子柴光希
ノイシュ観光に乗り出した俺達4人とシェミィ、そこにサリーナさんも加わり、5人+1匹の大世帯で移動することになった。
ノイシュを観光する男1人と女性4人にストームキャットという組み合わせなのだが、やはり目立つのか周辺の人達に凄く見られている。
それに狼人族で人族より耳が良いからなのかコソコソ話がチラホラと聞こえてくる。
「おい、ストームキャットがテイムされてるぞ」
「ストームキャットって確か危険度Bランクよね!? 誰がテイムしたんだろ!?」
「あの真ん中にいる男じゃないか? ハーレムとか羨まし過ぎるぞけしからん」
「妬みが漏れ出てんぞお前。てかよく見たら男と1人の女除いて全員奴隷じゃねぇか、あの男が無理矢理くっつかせてるんじゃね?」
「やだー、卑猥な事もされてるんじゃない?」
「ハッ! 良い身分だよなぁ!」
近くにいた3名から言いたい放題言われて多少腹が立つ所だが、我慢した。
男2人と女1人の3人PTで男2人が人族、女が鬼のような角がある所を見るに鬼人族ってやつか?そのような種族があるのか分からないが、やっぱり鬼っぽい。
「ご主人、気にしないでいいっすよ。自分達は自分の意思でここに居るっすから」
「そうね、コウガ様は堂々としてればいいのよ。それとは別にアイツら叩き潰してやろうかしら……」
「メイラン、我慢我慢っす!」
「フーーー!」
「カエデも、ダメだよ」
殺意を放つメイランをなだめるソルトに、毛並みを逆立てて威嚇するカエデをなだめるサリーナさん。
あの3人組も冒険者みたいだし、もしかしたら武闘会の団体戦に出るかもしれないな。
「気にせず行くぞ、観光なんだから楽しまなきゃな」
「っすね、ほらメイラン行くっすよー」
「カエデも行くよ」
「うにゅ、分かった……」
カエデは素直に従ったが、メイランは怒りが抑えきれないようで、ソルトが背中を押してアイツらから引き離してくれた。
実の所、俺も心の内では怒りを覚えている。
しかし、奴隷というのはそういう扱いにされることも珍しくないので、そう思われても仕方ない部分はある。
「カエデ、メイラン、ありがとうな怒ってくれて」
「だって……ご主人様は何も悪くないのに、あんなに言われるなんて許せないもん」
「悪く言う奴は排除よ排除!」
「メイラン我慢っす……ここで問題起こしたら武闘会も出れなくなるかもしれないっすよ」
「ソルトの言う通りだ、言わせておけばいいさ」
「もしアイツら武闘会に出てきたらボコボコにしてやるわ……」
ボコボコにすると誓った所でようやく怒りを沈めたメイラン、あんなに怒るの初めてかもしれない。
「それよりノイシュを楽しもうか、昼飯もまだだし何か食べよう! サリーナさん、この辺りに美味しい飯食べられる所ある?」
「ん? そうだなぁ……なら、冒険者ギルドの横に酒場とか、武闘会会場近くには食事処がいっぱい並んでたはずだよ。どっちか見に行く?」
「なら食事処にしようか、案内頼めるか?」
「いいよ! こっちね」
サリーナさんの案内で食事処へ向かう、道中もカエデとソルトとサリーナさんが一緒になってワイワイ話している。
俺は少し後ろの方でメイランと話しながらその光景をみていた。
「こうして、みんなでワイワイして旅をするのも悪くないわね」
「だな、フード野郎を追い掛ける使命はあるとはいえ、旅を楽しむくらいはしなきゃな」
「そうね、ん? ねぇコウガ様、ソルトの尻尾……」
「ん? ソルトの尻尾?」
ソルトの尻尾を見ると、カエデと比べて艶がなくなって少しごわっとしている、そして少し汚れてしまっていた。
「いつの間にか汚れちゃってるな。そういえば、ソルトの尻尾の手入れってまだしてやれてないな……」
「今日の寝る前にしてあげたらどうかしら? コウガ様だってしたいでしょう?」
「そうだな、初日でいきなりやる訳にはいかなかったし……昨日も野営でやれる環境じゃなかったからな。さぁて! 今日はたっぷり可愛がってやろうじゃないか、ふはははっ!」
「コウガ様、急に人が変わるのやめてもらえないかしら……ちょっと引くわよ……」
前にバレない程度に性癖を解放する俺、それにドン引きするメイラン。
その気持ち悪さを少し感じたのか、ソルトが身震いする。
「ううっ、寒気がしたっす……何か嫌な予感が」
「ソルトちゃん大丈夫?」
「多分、大丈夫っす。ただ、後ろからただならぬ圧を感じるっす……」
ソルトが後ろを振り向きそうになったので、顔を横に向けて口笛をする。
「なーんかご主人の顔がおかしいっす」
「コウガ様、バレてるわよ」
「何!? 何故バレたし!?」
「バレて当たり前よ……コウガ様って、もふもふの事になると急におバカになるのは何なのかしら?」
「バカじゃない! もふもふにご執心なだけだ!」
「行き過ぎておバカになってる事に気付きなさい、このおバカ」
「なにおう!?」
俺とメイランが漫才のようなやり取りをしているのを見て、笑い出す前を歩いていた3人。
こういうほのぼのした日がたまにあっていいよな。
食事処に着いたのだが、とある店でノイシュ名物の大食いチャレンジとやらが開催されていた。
コッケイ鳥という鶏に近いような鶏肉を揚げた料理、要するに唐揚げ的な物の大食いチャレンジをやっているようで、折角なのでチャレンジする事にした。
チャレンジするのは俺とカエデ、30分以内に4kgある唐揚げを食べ切れたら成功。成功すればタダ、失敗したら4kg分の料金を支払う事になる。
内容は割愛するが、成功したのはカエデのみだった。俺は3kg食べた地点でギブアップしたが、カエデは残り2分を残して完食。
カエデのお腹が見事に膨れていた、丸々になったカエデも可愛いな……うぷ。
カエデが大食いに成功したので、魔法で写真を取られて店に飾られる事になったのだった。
思い出が出来た所で、食事処から出て武闘会会場近くにある土産物屋を回ることにした。
ノイシュは比較的、イベントがある時に周辺から集まる冒険者から利益をあげるような街で、その為の土産物屋が多いのだそう。
なので土産物屋を作る施設や、冒険者もよく集まるのでそれに従って鍛冶屋が多いのが特徴だ。
「色んな土産物があるな、この彫刻なんか見事なもんだ」
俺が目を付けたのは、クマが鮭を咥えてる姿を彫った彫刻だ。
……てか、こんなクマや鮭なんてこの世界にはいないよな? まさか日本人か!?
「お、お客さんお目が高いね! これはとある錬金術師が作った一点物だよ!」
店主が錬金術師の一点物だと言った。俺が知っている錬金術師で、元の世界を知っていそうな人物はただ1人。
「もしかして、錬金術師のミツキ・ミコシバの作品ですか?」
「お客さんよく知ってるな! そうさ、これは錬金術師ミツキ氏の作品だ! ミツキ氏はここで活動してる有名な錬金術師なのさ。俺はミツキ氏と契約をしていてな、こうして作り出した作品を代理販売してるのさ」
俺が1番最初に知った流れ者がノイシュで活動していたとは! 是非会ってみたいものだが……。
「店主さん、そのミツキさんに会ってみたいのですが……難しかったりしますか?」
「聞いてやろうか?」
「良いんですか!?」
「あぁ。お前さん、流れ者だな? 黒髪に黒い目の人がミツキ氏に会いたいって言うのはほぼ流れ者だ。ミツキ氏は流れ者と交流したいと仰るお方だ、忙しくなければ会ってくれるだろう。少し待っててくれ」
店主は店の裏手へ、待ってると小さくとだが店主の話し声が聞こえてくる。
もしかして通話手段があるのか!?
「ご主人様、ミツキさんって?」
「あぁ、みんなにプレゼントした装備品あるだろ? それを作った腕のいい錬金術師だ。俺と同じ流れ者なんだ」
「そうなんだ! そのミツキって人がここに?」
「そうらしい。俺ってここに来てからまだ流れ者には会ってないからさ、1回会ってみたくて……もし会えるなら会っていいか?」
「もちろん! みんなも良いよね?」
「えぇ、良いわよ」
「自分も構わないっすよ」
「私もいいよー! お兄さんに任せるよ」
「ありがとう、みんな」
こうして話してる内に店主が帰ってきて、親指をサムズアップした。
反対側の手で通信機らしきものが耳に当てられているのも見える。
「お客さん、許可が出たぞ。今からでも良いらしいが、どうする?」
「なら今から行きます! 何処に向かえば?」
「いや、ミツキ氏が直接来てくれるから、ここで待ってな」
「えっ!? わざわざ来てくれるんですか!?」
「あぁ、すぐ来ると思うぞ。ほら来た」
店主が指さすと、その先には黒髪で作業着的な服装で歩いてくる人が居た、あれがミツキさんか。
そして両脇には猫耳猫尻尾の黒くて小さな女の子と、狼人族の女の子が一緒に居るのが見える。
2人とも奴隷だ。でも猫族?の女の子とミツキさんが手を繋いで歩いてきている、俺と似たような奴隷の扱いをしてるみたいだ。
「初めまして。俺は御子柴光希、錬金術師をしています。2人は家族で護衛してくれているクロエとレインです」
「クロエだよ」
「私がレインよ」
向こう側から挨拶してくれた。よく見てみると、ミツキさんはやっぱり日本人な見た目だな。
「初めまして、氷室高雅です。こっちではコウガで通してます。狼人族がカエデ、ドラゴン族がメイラン、砂狼族がソルト、人族のこの子が友達のサリーナさん、そしてカエデがテイムしたストームキャットがシェミィです。わざわざ御足労頂きありがとうございます」
「いえいえ、俺の魔法があればここまですぐですから、気にしないでください」
初めて会った流れ者ミツキさん、やはり生まれが同じ世界なので、何となく親近感が湧いてくる。
「では俺の家に行きましょうか、少し細路地に入ってもらっていいですか?」
「分かりました」
細路地に入って人気のない所に来た。
「すみません、この魔法はあまり他人には見せたくない物でして」
「いえ、大丈夫です。しかし、見られたくない魔法ってことは……まさか」
こうして細路地に来て魔法を使って家に向かうってことは……俺の脳裏に浮かぶ魔法はただ1つ。転移魔法。
連絡がいって即ここに来たからな、そうとしか考えられない。
「コウガさんにはお察しかもしれませんね。転移魔法です」
やはり転移魔法か! もしかして空間魔法を持ってるのか!?
「もしや……空間魔法ですか?」
「ご存知でしたか。そうですね、空間魔法のレベルが上がると習得します」
「マジですか! 俺も空間魔法を持ってまして!」
「そうでしたか、仲間ですね! でも転移を詳しくは知らない様子……となれば、空間魔法はまだレベルが3以下って事ですね」
「実はまだ1から上がらなくて……」
「なるほど、ならば家に着いてからその辺のこともゆっくり話しましょうか。皆さん、俺に掴まってください! 俺に触れてないと転移出来ないので」
ミツキさんが掴まってくださいと言うので、全員腕や身体に手をつく。
シェミィが触れられない様子だった所をミツキさんが手を伸ばした。
「シェミィだったかな、この手に触れて貰えるかい?」
「にゃ」
シェミィは素直に従ったみたいだ、シェミィは賢いし人の言葉を理解するからな。
「皆さん掴まりましたね? 転移します! 転移し損ねた人が居たらそのままここで待っててください、数秒で迎えにいきますので! では……転移!」
視界がグワンと歪んだと思ったら、いつの間にか家の中のリビング的な所に居た。
これが転移か! 俺も早く覚えたいな。
キョロキョロしていると、ミツキさんの家に住んでいるのであろうエプロン姿の美しい人族が、お茶を持って姿を表した。
「いらっしゃいませ。私は家事やご主人様の補佐をメインにやっております、ヴィーネです。以後お見知り置きを」
「ご丁寧にありがとうございます」
ヴィーネさんに挨拶と自己紹介を済ませた後にソファーへ案内される。
「では、コウガさんには色々話したい事があるので、ゆっくり話しましょうか」
俺も同じ流れ者の仲間として色々話したい事がある、これは話が長くなりそうだ。
ご覧頂きありがとうございます。




