37話 VS巨大トレント②
野ウサギの生き血により傷を回復させた巨大トレントは、野ウサギを守るのをやめたようで巣から動き出した。
「巣穴守るのをやめたか……厄介だな」
何が厄介かと言えば、根っこ攻撃が今までより激しくなったことだ。
飛びながら避け続けるが、いくつかの攻撃が避けきれなくなりナイフで受け止めるも力負けして吹き飛ばされる。
「ぐうっ!?」
空中で何とか体勢を整えるが、追い打ちをかけるように葉っぱを飛ばしてくる。
吹き飛ばされて距離が空いていたので、ブレスが間に合い葉っぱを全て燃やし落としていく。
距離が空いたからかは分からないが、向こうからの攻撃は一旦止んだようだ。
目を凝らしてよく見ると、またしても野うさぎの生き血を吸い始めている。
「危ない危ない、馬鹿力過ぎだろ……」
「コウガ様!」
木々の合間からメイランが飛び上がってきた。
「メイランか、どうした?」
「私達の方は何とか終わったわよ。コウガ様は……苦戦中みたいね」
「そうなんだよ。少し弱らせた所までは行ったんだが……野ウサギの生き血を吸って回復しやがってさ。しかも野ウサギの巣穴を捨てて自由に動き出すようにもなって……」
「それは厄介ね……どうする? 一旦逃げてサンビークに報告するのも手よ?」
「……いや、巣を守るのをやめたって事は、ここから移動する可能性がある。野放しにすれば近辺の村に被害が出るかもしれんし……流石にもう逃げる選択肢はないな」
「なるほど。なら、みんなで倒すしかないわね」
「あぁ。普通のトレント同様、木の根攻撃と枝の攻撃がかなり激しい。あと頭の葉っぱを飛ばす攻撃をたまに放ってくるから、気を付けろよ」
「えぇ、分かったわ。カエデとシェミィに伝えてくるわね」
「頼む、ただ無理はすんなよ」
「了解」
メイランが下に降りていく。1人ではキツかったが、みんなが居ればどうにかなるかもしれない。
「さて、もうひと踏ん張りだ」
俺は再度巨大トレントに挑むべく飛び出していく。
「ギギギギギィ!」
巨大トレントに近付くと向こうの攻撃が再開し、枝や根っこがこちらに向かってくる。
でも今回は俺だけじゃない!
「アクセルブースト!」
木々に隠れて近付いてきていたカエデが加速して巨大トレントに向かっていく。
巨大トレントもカエデに気付き、残してあった根っこのリソースを吐いてくるが、俺のブレスにより妨害を受ける。
トレントは火に弱いのは想定通りで、消火が最優先になる。
そのスキをついてカエデとメイランが殴り込み、シェミィも追撃の爪攻撃も入れていく。
「ギギィッ!」
ダメージが入った事により枝の攻撃も激しくなるが、3名+1匹全てに攻撃を振り分けるのは難しいようで、ダケが向いていないメンバーが着実に攻撃を入れていく。
俺もドラゴン族と狼人族を巧みに入れ替え、ナイフを持って巨大トレントに近付きながら枝を切り刻んだりブレスでダメージを与えていく。
攻撃の最中、巨大トレントの口が塞がり身体が震え出した。
「な、なんだ?」
危険察知は反応しないが、嫌な予感を感じ後方へ飛び上がる。
すると、ピンクの瘴気が巨大トレントの口から吐き出された。
メイランは瘴気の当たる位置にいなかった為に当たらなかったが、正面に近い位置に居たカエデが瘴気を浴びてしまった。
「んぐっ!?」
カエデが急に膝から崩れ落ち、巨大トレントの根っこによる薙ぎ払いで弾き飛ばされてしまった。
「がぁっ!」
「カエデ!」
俺は吹き飛ばされたカエデを空中で抱き抱え、急いでトレントの攻撃範囲から出る。
こちらを見たメイランは事情を察してくれたようで、シェミィに指示を出して遊撃に打って出てくれた。
「ご、め……しゅ、じ……」
謝ろうとしているのは何となく分かるが、きちっと聞き取れなかった。
呂律が回らず声が震えているような感じからして、恐らくは麻痺か……?
「待ってろよ、すぐ治してやるからな。鑑定!」
カエデを鑑定すると、麻痺毒の状態異常になっていた。
「麻痺性の毒か……確か、ミラさんから預かってた魔導書に解毒魔法があったはず……」
ストレージから1冊の魔導書を取り出す。
これはミラさんとの特訓の時に使っていた魔導書なんだが、「私はもう使わないし、良かったらコウガくんが使ってね」って言ってくれたので貰ってたんだよな。
状態異常回復魔法を探すと、初級にキアル(麻痺毒解除)、中級にリカバー(全状態異常解除)、上級になると状態異常解除+体力回復するキュアーズ等があった。
今は緊急を要する為、初級のキアルのスキルを魔導書を介して発動させる、イメージが難しい為に詠唱も行う。
ヒールを使える者なら適性があるらしいから、恐らく使える……はずだ。
「癒しよ、かの者の毒を浄化せよ! キアル!」
魔法の発動が確認出来た瞬間、カエデに癒しの波動が纏っていく。無事に発動出来たみたいで良かった。
なんと、スキルとしてキアルも習得したようだ。
「ふぅ……なんとかなったか」
「ありがとう、ご主人様」
カエデはムクリと起き上がり、ぴょんぴょんと跳ねて身体の調子を確かめる。
「うん、もう大丈夫そう!」
「良かった。今はメイラン達が戦ってくれてる、すぐに戻るぞ!」
「うん!」
念の為にカエデにヒールをかけた後、急いで巨大トレントの元に戻る。
「離し、なさい……ぐあぁぁっ!」
「にぃぃぃ!」
メイランが根っこに捕まり巻き付かれていた。
シェミィが助けようと飛びかかったり風の刃を放ったりするが、枝によって全て防がれていた。
「メイラン!」
「メイランちゃん! 今助けるよ!」
カエデがアクセルブーストを発動しながらメイランに向かって駆けていく。俺も援護する為にブレスを本体に向けて放ち、枝と根っこのタゲを取る。
「メイランちゃんを離せえぇぇぇぇ!」
根っこに連撃を加えて、ラストに思いっ切り拳を叩き付けると、根っこが砕け散りメイランが解放された。
「メイランちゃん大丈夫!? 立てる!?」
「えぇ、何とかね。助かったわカエデ」
「一旦離れるよ! 捕まって!」
カエデに抱きかかえられ、メイランは一時退避。
カエデはすかさずアイテム袋よりポーションを取り出し、メイランに飲ませてあげた。
「はぁ、中々に手強いわね……」
「そうだね……ご主人様みたいに風を纏わせて攻撃とか出来たら、もっとダメージを与えられると思うんだけど……」
「風ねぇ……そういえば」
何か閃いたかのようでメイランはカエデを見る。
「ねぇカエデ。貴方って確か、魔法の適性はあるのに魔力が少なくて扱えないって言ってたわね?」
「う、うん。それがどうしたの?」
「でも、テイムの時にシェミィから魔力を借りて、所持魔力以上になったって言ってたわね?」
「うん」
「なら、もしかしたらシェミィから魔力を借りれば、シェミィのように風を纏わせた攻撃を出来るんじゃないかしら?」
「あっ、確かに!」
カエデは驚いて目を見開いた。
魔法のように魔力を使う攻撃をする事を諦めていたカエデだからこそ、魔力をシェミィから借りられるようになってもそれを攻撃に使う発想にまでは及ばなかったのだ。
「ほ、本当に出来るのかな……」
「大丈夫よ、カエデ。自分を信じなさい」
「う、うん!」
カエデはシェミィを一時的に呼び戻し、魔力を借りる為にテイム紋へ手をかざす。
「シェミィ、魔力を借りるね?」
「にゃうっ!」
いくらでも持っていけ!と言わんばかりに元気に返事をしたシェミィ。その様子を見たメイランも少しばかり頬が緩む。
魔力の譲渡も一瞬で終わり、カエデの体内にはシェミィの魔力が沢山充電された形となった。
「……うん、いける」
グッと握り拳を作り、そこへ魔力を1点集中させていく。
「どんどん風が、激しくなっていく……何て力……」
これは間違いなく、当たれば一撃必殺になる。
そう思わせてくれる程に、カエデの拳から放たれる魔力が凄まじいものだった。
これがカエデとシェミィの魔力を集結させた力なの……?と、メイランは呆気にとられる。
「メイランちゃん、これどう当てればいいかな?」
「そ、そうね……私とコウガ様で道を切り開くから、シェミィと連携して胴体へ1発……って所かしら」
「分かった、いくよっ!」
カエデはトレントへと一直線に向かっていき、その隣にはシェミィが並走しつつ援護。
俺はこちらに走ってくるカエデの様子を見て、どデカい一発を叩き込むつもりなのだと即座に察知。
ドラゴン族のブレスでダケを取る方針に切り替える。
カエデが攻撃される前に俺がブレスを放ち、火を使う天敵の俺を集中狙いするように仕向ける。
トレントは弱点である火を使う俺やメイランを狙ってくる事が多いので、ダケを取るのは比較的簡単だ。
ブレスでカエデの道を切り開きつつ、自分に向かってくる攻撃もブレスやガードで防いでいく。
何故回避じゃないのかって? それは、俺の背後で火魔法を詠唱してるメイランを守る為だ。
「準備出来たわよ! 赤き炎よ、吾が手に集い、降り注げ! バーンストライク!」
大きい火球が2つ連なって、巨大トレントに向かって落ちていく。
1つ目は根っこを使って爆発させるが、2つ目を防ぐ事が出来ず本体に命中し爆発する。
「こんな感じよ、コウガ様。出来るかしら?」
メイランがこちらを見た。
大丈夫だメイラン。先に使ってくれたお陰でイメージはバッチリだ、ドラゴン族に変身している今なら俺にも使える!
「燃えろ! バーンストライク!!」
先程のメイランが放った火魔法と同じ物を詠唱破棄で放つ。
先程の爆発で前が見えていなかったようで、巨大トレントは更に2つの火球が命中し大爆発が起きた。
「ギィヤァァァァァァ!」
巨大トレントは根っこと枝を激しく振り回し、胴体から上の消火にリソースをほぼ吐いている。
「カエデ! やれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
カエデはもう既に巨大トレントの近くにまで迫っていた。
その手は力強く握り締められて、そこにはかなり強力な風の魔力が込められているのを感じた。
「2人が作ってくれたチャンス、逃さない!」
「にゃっ!」
シェミィが風の刃を飛ばし、胴体へ向かうのに邪魔な根っこを切り離す。
「これを、喰らえぇぇぇぇっ!」
カエデの右手ストレートが巨大トレントの胴体に命中した……のだが、僅かに巨大トレントが抵抗したようで胴体を動かしたが為に殴る位置がズレてしまい、胴体の半分を砕くだけで終わってしまった。
「あっ……」
ズレたと分かった時にはもう遅く、右手に込めていた魔力が小さくなって力も失っていく。
やってしまった……と、カエデが悔しさで目を瞑ってしまう。
「カエデぇぇぇ! 諦めるな!」
「……!」
まだ右手には僅かにシェミィの魔力が残っており、振り絞ればもう1度くらいは攻撃出来そうだった。
カエデは俺の声を聞いて、目に闘志が蘇る。
「まだだぁぁぁぁ!」
着地した瞬間に脚に力を入れ、再度巨大トレントに飛びかかり、右手に力とありったけの魔力を込める。
「シェミィから受け取った魔力と自分の魔力全てを込めて……これで、最後っ!」
カエデの拳の周りにシェミィの魔力とカエデの魔力が重なり合い、全てを振り絞った全力の拳は……。
見事に巨大トレントの胴体を貫き、上下真っ二つにしたのだった。
「ハァハァ……うっ」
カエデが全てを出し尽くし、限界を迎えて倒れ込む。
俺はカエデの元へ駆け出し、お姫様抱っこで抱き抱えた。
「お疲れ様、カエデ」
「う……ん、ご主人様ぁ……私、やったよ」
「あぁ、よくやってくれた。眠ってていいぞ」
「うん……おや、すみ……」
カエデは魔力切れと疲労により眠ってしまった。
あれだけ強力な魔力を扱ったんだ、身体の負担も大きかっただろう。
「カエデ、良くやってくれたわ」
「だな……ゆっくり休ませてやろう」
「そうね。シェミィ、カエデを乗せてくれるかしら?」
「にゃ」
シェミィが頷いたので、背中にカエデを乗せた。
討伐した巨大トレントを見ると、真っ二つになった胴体の中に魔石が見えた。
しかし、その魔石の周りにドス黒い魔力が纏っており、魔法陣で縛り付けられていた。
「何だ……これは」
「こんなの見た事ないわよ……? あっ」
2人で話していると、魔法陣が弾けてドス黒い魔力が上に昇って消えていく。
魔力が全て消えたと思ったら、次は魔石がひび割れてしまった。
「魔石が割れた……」
「ねぇ、これってまさか、シェミィが受けてた洗脳魔法に近い類じゃないかしら? こんな魔法陣が自然に発生するなんてまず有り得ないわ」
「推測の域でしかないが……そうかもな。トレントが統率されてるのも、巨大化しているのも、生き血を吸うのも、どれも有り得ないからな」
「そうね……どうにか倒したからいいものの、もし討伐失敗していたらどうなってたのか……想像するだけで怖いわ。取り敢えず、証拠を回収してサンビークの冒険者ギルドに報告しましょうか」
「だな」
俺はひび割れた魔石をトレントに入れたまま、巨大化したトレントをストレージに入るように分割し入れる。そうすれば魔石を取り出して消滅する事はない。
「ただ、もう時間もあまり無さそうだし、ミルト村にもう1泊しようか。カエデも満身創痍だしな」
「そうね」
日の落ち加減を見るに16時くらいであり、結構長く戦っていたのだと思い知る。
俺達はミルト村に戻って、村長に訳を話してもう1泊させてもらった。
村人からはポーションや薬草、村長の奥さんからは夕飯までも準備して頂いた。
優しい人達で良かったな。
ご覧頂きありがとうございます。




