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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 2

「…断る?…」


 溝口が唖然として、私を見た。


 私は、その唖然とした溝口の顔を見て、内心、思わず笑い出しそうになった。


 なぜなら、溝口の顔は、まるで、池の鯉が、ポカンと口を開けたような、間の抜けた表情だったからだ…


 溝口は、普段は、厳しく、やり手と噂されていたので、思わず、そのギャップに、驚いて、プッと吹き出しそうになった。


 「…ハイ…」


 私は言った。


 溝口はどうしていいか、わからず、救いを求めるように、私の隣にいる、中村君に視線を投げた。


 中村君は、その視線を受け、


 「…高見さん…とりあえず、会うだけでも、どうですか?」


 と、口を挟んだ。


 「…そうすれば、溝口部長の顔も立つわけですし…」


 中村君がとりなす。


 私は、


 「…」


 と、無言だった。


 「…高見さん…こう言っちゃなんですが、ウチの会社に、イイ男はいませんよ…せっかくだから、会ってみるだけでもいいじゃないですか?…」


 中村君が必死に私をとりなす。


 が、


 私は、


 「…」


 と、しゃべらなかった。


 目の前の溝口が、困った顔をしていた。


 「…高見さん…どうにかならないものかな…この通り…」


 私に頭を下げる。


 途端に、溝口の薄くなった頭部が、私の目の前に現れた。


 溝口は、私とは、対照的に、180㎝近い大柄な五十男…


 155㎝と小柄な私からは、普段、溝口の頭頂部を見ることはできなかった。


 しかしながら、目の前に現れた溝口の頭部は、河童ではないが、頭頂部が、だいぶ薄くなっていて、驚いた。


 小柄な私はいつも溝口を見上げるばかりで、その私から見た、溝口の頭の毛は、普通にあったので、まさか頭頂部が、そこまで薄いとは、思わなかったのだ…


 思わず、プッと吹き出しそうになった。


 同時に、肩の力が抜けた。


 「…一度だけですよ…部長…」


 私は言った。

 

 その言葉で、眼前の頭を下げた溝口の顔が、ホッと和らぐのを、私は見逃さなかった。


 「…ありがとう…恩に着るよ…」


 頭を上げるや、開口一番、溝口の顔が喜色満面の笑顔に変わった。


 「…これで、ボクも面子が立つ…」


 「…面子…ですか?…」


 以外な言葉だと思った。


 「…ボクも調子が、いいというか…つい、相手方が、ウチのせがれは、面食いで、見合いをしても、ルックスのことばかり言うと愚痴るから、ボクの取引先のお嬢さんで、キレイなお嬢さんが、いますよと、高見さんを思い浮かべて言ってしまったんだ…それで…」


 …そういうわけか…


 「…そしたら、相手方も乗り気になって、ボクに頭を下げられて、ぜひその方にお会いしたいというものだから…ボクも困って…」


 ホッとした表情で、真相を告げる、溝口に、


 「…一度だけですよ…」


 と、再度、念を押した。


 さもないと、二度も三度も、同じことをされたら、困る。


 「…わかってるよ…ボクは高見さんの、お父さんやお母さんじゃないんだ…何度も、高見さんに、見合いをお願いすることは、ない…」


 「…本当ですね…」


 「…本当だ…」


 溝口が約束する。


 「…でしたら、お受けします…」


 「…ありがとう…」


 溝口が再び礼を言った。


 「…では、詳細は後日、連絡する…」


 「…わかりました…」


 私と溝口のやりとりを、耳をそばだてて、聞いていたに違いない、職場の同僚もホッとしたようだ…


 再び、ザワザワとざわめき出した。


 帰りがけに、私は、社用車の中で、ハンドルを握る中村君を、問い詰めるのを忘れなかった。


 「…中村君…役者ね…」


 「…スイマセン…高見さん…」


 「…まさか、中村君が困っているのが、お芝居だとは、思わなかった…」


 私の言葉に、中村君は、


 「…」


 と、黙った。


 答えようがなかったからだろう。


 「…でも…」


 「…でも、なんですか?…」


 「…こんなオバサンでいいのかな?…」


 私の言葉に、またも、中村君が、


 「…」


 と、黙った。


 これも、また、答えようがなかったからだろう。


 「…そんなことありません…高見さんは、おキレイですし…」


 と、わかりきった、歯の浮くお世辞を言うのは、嫌だったのだろう…


 いや、そもそも、中村君は頭がいいけど、不器用…


 それが、私の中村君に対する評価だった。


 それゆえ、中村君が困ってるフリをしていたことが、私を誘い出すお芝居だとは、露ほども思わなかったのだ…


 私が、考えていると、


 「…相手の方が…」


 と、中村君が口を開いた。


 「…相手の方が…なに?…」


 「…言いづらいんですが、四十歳を超えていて、それで、あまり若い二十代のコはちょっと…話も合わないんじゃ…」


 隣で、ハンドルを握る、中村君が、申し訳なさそうに、言う。


 …そうか?…


 …そういうことか!…


 私は納得する。


 こう言っては、なんだが、溝口部長が、私、高見ちづるのファンと言うのは、溝口部長が、五十代のオヤジゆえ…


 33歳の私が、若いのだ…


 それに、なにより、安全パイといっては、なんだが、五十代の溝口が、二十代の大学を卒業したばかりの女のコに、キレイだ、カワイイだ、というのは、周囲の反感を買いやすい…


 なにより、本当に下心があれば、周囲にキモいオヤジと言われるのは、火を見るより明らか…


 それならば、33歳の私をキレイだ、なんだとヨイショすれば、周囲の人間も目くじらを立てない…


 それが、私が自分を安全パイといった理由…


 本当は、歳を取れば、取るほど、若い女のコがカワイイに違いない…


 AKBの柏木由紀が、グループ最年長になった際に、


 「…早く、卒業しろ!…」


 と、オジサンに言われたことで、頭にきたと、いった趣旨の話をしたことを、テレビかネットで、見た。


 「…若いコに言われるなら、仕方ないけど、オジサンに言われるのは、納得がいかない…」


 とのことだった…


 だが、これは、まだ柏木由紀が28歳と若いから…


 若いから、オジサンの気持ちがわからない(笑)…


 オジサンは若いコが好き…


 それは、自分が若くないからだ…


 若くないから、若いコが好き…


 自分が若さを失ったから、その若さを持ってる若いコが好きなのだ…


 私、高見ちづるも、段々そのことが、わかってきた。


 以前から、気付いていたことだが、最近は、実感として、わかるようになった(笑)…


 「…中村君…相手の方を知ってるの?…」


 「…いえ…知りません…」


 「…そう…」


 たしかに、中村君が、知ってるとは、考えにくい…


 ウソはないだろう…


 「…それと…」


 「…なんですか?…」


 「…亀沢課長は、このことを知ってるの?…」


 「…このことって…なんですか?…」


 「…中村君がしたお芝居のことよ…」


 「…いえ、課長は知りません…ボクが、溝口部長に頼まれて…」


 「…そう…」


 やはり、亀沢は、知らなかったのか?


 いかにも、人のいい亀沢らしい…


 同時にトロい…


 中村君の演技が見抜けないとは?


 亀沢は悪い人間ではないが、実直だけがウリ…


 とても、会社で、出世できる人間ではない

(笑)…


 「…そう言えば、中村君…」


 「…なんですか?…」


 「…今日、最初に、溝口部長の元へ行くとき、嫌だな…と、言っていたわね…」


 「…」


 「…アレは、このお芝居をして、私を騙すのが嫌という意味だったの?…」


 「…その通りです…」


 「…そう…」


 私は短く答える。


 誰だって、ひとを騙すのは嫌だ…


 それが、普通の人間だろう…


 騙す人間に、恨みがあれば…


 例えば、過去にいじめられたとか、なにか恨みがあれば、その人間を騙すことに、躊躇を覚えないかもしれない…


 しかしながら、一般の普通の感覚を持つ人間ならば、やはり、ひとを騙すことに、躊躇するのが、普通…


 正常な人間だ…


 私は考える。


 「…溝口さんは、ええかっこしいなのかな…」


 「…ええかっこしい? …どういう意味ですか?…」


 「…ほら…格好をつけたいとか…いいところを見せたいとか、少しでも、自分をよく見せたいとかいう意味よ…」


 「…それはあるかもしれないですね…溝口さんは、部長だし…」


 中村君が言う。


 たしかに、中村君の言う通り…


 やはり、肩書が大きい…


 大なり小なり、会社の部長という肩書を持っていれば、実力以上の力があることを見せなければならないのかもしれない…


 今回のように、誰かいいお嬢さんがいませんか? と、頼まれた場合、本業の仕事とは、なんの関係がないことでも、たやすく、女を紹介できる…


 要するに、自分は、社内外を問わず、その程度の人脈は持っている…


 あるいは、自分の交際範囲の広さを、言外にアピールすることで、自分が、凄い人間であることを、見せたいのかもしれない…


 私は考える。


 「…まあ…溝口さんは、やり手と言われているし、相手のひとも、それを知っていて、わざと溝口さんに頼んだかもしれないですね…」


 …その可能性はある…


 「…でも、良かったです…高見さんが、お見合いを受けてくれて…もし、断られたら、ボクも、この先、会社で、高見さんに、どういうふうに顔をあわせていいか、わからなかったし…」


 「…中村君?…」


 「…なんですか?…」


 「…まだ、その話は早いわ…」


 「…早い? …どうしてですか?…」


 「…だって、それは、見合い相手にもよるでしょ?…」


 私が言うと、中村君が、困った顔になった…


 その通りだからだ…


 「…だから、まだ安心しちゃダメよ…」


 私は中村君に念を押した。


 「…ハイ…わかりました…」


 中村君の顔が緊張するのが、わかった…


 中村君は、私より、十歳年下…


 だから、その表情もまた初々しい…


 十歳年下の新人をいじめて、からかう趣味はないが、やはり、溝口部長同様、中村君にも、念を押さないと、困ると、思ったのだ…


 今度、また同じようなことをされでもしたら、困る。


 溝口部長と組んで、私を騙すことは、二度とないとは思うが、相手が誰であれ、自分が騙されるのは、御免だ…


 会社に帰ると、真っ先に、課長の亀沢に、報告した。


 「…課長…ただ今、帰りました…」


 「…そうか…それで、溝口部長の機嫌は直ったか?…」


 「…それは、もう…」


 私が言うと、危うく、隣に並んだ中村君の顔が笑いそうになったのに、気付いたので、慌てて、中村君の足のふとももを指でつねった。


 中村君が、笑い出しそうな表情から一変して、泣きそうな表情に変わった…


 「…やっぱり、高見さんに出向いてもらってよかった…」


 亀沢が心底嬉しそうに言う。


 私はそんな亀沢の顔を見て、ちょっぴり悪い気がした…


 真相を告げようか?


 一瞬、考えたが、仮に告げるとしても、それは今ではないと思った。


 せっかく目の前に亀沢が喜んでいるのに、水を差す必要はないと、思ったのだ…


 いずれ、亀沢にも真相を告げる時が来る…


 そう考えた。


 …お見合いか?…


 家に帰って、自室で、ボンヤリと考える。


 恋愛経験もゼロだが、お見合いもまた、ゼロ…


 経験したことがなかった…


 今の時代、お見合い自体、激減しているせいだろう…


 いや、私の母も50代だが、当時もすでにあまりなかったらしい…


 それに、なにより、今の時代、結婚したいのならば、真っ先に相手を探すのは、結婚相談所というか、大手の結婚を仲介する業者だろう…


 誰でも、そうだが、自分の交際範囲は限定されている。


 ひどく狭い…


 普通の人間ならば、高校ならば、高校の同級生が主体…


 会社ならば、会社の人間に限定される…


 自分の行動範囲が、多くはその中にしかないからだ…


 だから、昼間、中村君が、私を説得するのに、

 

 「…高見さん…こう言っちゃなんですが、ウチの会社に、イイ男はいませんよ…せっかくだから、会ってみるだけでもいいじゃないですか?…」


 と、言ったのは、至極当然…


 的を得ている…


 あのとき、実は、私が、すぐに断ったのは、面子のため…


 溝口同様、面子のためだった…


 33歳にもなる、独身の女が、他人から、お見合いを紹介されて、すぐに食い付くのは、恥ずかしいと思ったのだ…


 いや、あのときは、恥ずかしいとは思わなかった…


 しかし、時間を置いて、冷静に振り返って見ると、それは、恥ずかしいことだった…


 あのときは、よく考えもせず、とっさに断ったが、今考えると、アレで良かった…


 面子が立ったと思ったのだ…


 …これでは、溝口部長と同じだ…


 そう考えると、我ながら、苦笑した。


 私が、結婚相談所を利用しない理由は、自分で、言うのもなんだが、結婚を焦っていないこと…


 33歳にもなった女が、こんなことを言うのは、強がりに思えるかもしれないが、やはり、学校や会社で、実際に交流しないと、その人間が、どういう人間かわからないと思うからだ…


 結婚相談所で、紹介され、何度か、デートしても、どういう人間か、本当のところはわからない…


 学校や会社で、交流すれば、少なくとも、学校や会社での周囲の評判はわかる…


 いわゆる、頭がいいとか、出世コースに乗ってるとか、周囲に好かれてるとか、嫌われてるとか、そういうことだ…


 それでも、それ以外のこと…


 例えば、会社では、常にニコニコといい人と評判だが、家庭では、一転して、横柄で、威張ってるとか、いうことがあるので、これも本当のところはわからない…


 しかしながら、少なくても、会社での評判はわかる…


 これが結婚相談所で、紹介されたとなると、外見しか、わからない…


 外見というのは、どんな会社に勤め、どんな高校や大学を卒業して、実際に会って、どういう印象があるかということだ…


 それは、それで、重要だが、やはり結婚相手の職場での評判は、知りたい…


 若い頃は、そこまで、考えなかったかもしれないが、33歳にもなると、やはりある程度は深読みするというか、考えるようになる…


 これが、私が結婚相談所を利用しない理由…


 それに、結婚相談所にお金を払うのも、バカバカしい(笑)…


 だが、なにより、結婚相談所を利用しない理由は、最初に言ったように、自分の心が動かないからだろう…


 本気で、ひとを好きになったことがない…


 本気で、この男と結婚したい…


 あるいは、


 本気で、この男の子供を産みたいと思ったことがない…


 それに尽きる…


 私は考える。


 また何度でも、言うが、私が本質的に、冷たい人間だからだろう…


 だから、他人に興味を持てない…


 興味を持てないから、好きになることもない…


 そして、私が軽い付き合いをできない人間であることも、大きい…


 いわゆる軽いノリで、何度か会った男とホテルに入ることができない…


 そもそも、そういうことができる人間ではないし、相手の男も、私にそれができないことを瞬時に悟る…


 だから、私に対して、軽く付き合うことができないから、本気の男しか残らない…


 そして、本気の男というのは、どんな美人でも、数えるくらいしか、少ないし、その美人が、その本気の男を気に入らなければ、交際も結婚もない…


 そういうことだろう…


 私、高見ちづるが、33歳のこの歳まで、結婚しなかったのは、これが理由だ…


 これが原因だ…


 損な性格か?


 私はつくづく思う。


 いや、


 損な性格かどうかは、わからない…


 すぐに会って、好きになって結婚する。


 それで、一生うまくいけばいい…


 一生、仲良く添い遂げれば、いい…


 だが、簡単に好きになるのは、瞬間湯沸かし器といっしょ…


 冷めるのも、また早い(笑)…


 子供が出来て、すぐに離婚して、その子供の面倒は誰が見る?


 人間は、犬や猫ではない…


 育てるには、犬や猫を飼うのに比べて、桁違いに、お金がかかる…


 高校、大学と年齢を重ねるごとに、お金がかかる。


 そのお金は誰が出す?


 夫婦が別れれば、大抵は、子供の親権は母親が持つ。


 その母親が若ければ、再婚も可能だろうが、歳を取っていれば、どうか?


 難しいだろう…


 また再婚しても、子供が新しい父親になつくのか?


 その問題も大きい。


 再婚した新しい父親も、最初は、子供の面倒を見てくれるかもしれないが、自分の子供ができたら、どうだろうか?


 面倒を見てくれるだろうか?


 難しいだろう…


 誰もが、自分の血の繋がっていない子供に、お金をかけるバカバカしさに、気付く…


 では、子連れ同士の再婚はどうか?


 これは、もっと難しいだろう…


 血の繋がっていない、他人が兄弟となって、一つ屋根の下に住む。


 気が合えば、いいが、気が合わなければ、当然、ケンカになる。


 そうなれば、当然、再婚した親は、自分の子供をひいきするだろう…


 そうなれば、夫婦間もギクシャクするのは、目に見えてる。


 まして、子供が幼稚園にも、入らない年齢ならば、いいが、子供が、小学校高学年、あるいは、中学生ならば、ほぼ不可能だろう…


 その歳で、他人といきなり住むことは、できないに違いない…


 なにしろ、思春期だ…


 多感な時期だ…


 男女ともに、難しい年頃だ…


 要するに、子供が物心つく前の年齢ならば、再婚も可能だということだ…


 まだ若い二十代前半の女のコならば、ここまで、考えないが、私のように33にもなると、いやでも色々考えてしまう…


 いや、考えなければいけない…


 歳を取れば、取るほど、真剣に自分の人生を考えなければ、ならない…


 しかしながら、それだとて、幸せになれるかどうかはわからない…


 若くて、なにも考えずに、結婚して、うまくゆく夫婦だって、世の中には、いっぱいある。


 これは、例えてみれば、くじを引くようなもの…


 極端に言えば、宝くじを引くようなものだと思えばいい…


 なにも考えず、直感で引いても、当たりはあるし、じっくりと腕を組んで考えても、はずれを引く可能性は高い…


 要するに、運任せ…


 これが、真実だ(笑)…


 いくら、考えても、幸せになれるかどうかは、誰にもわからない…


 だが、考えずにはいられない…


 そんなことを頭の隅で、考えながら、毎日を過ごしていると、まもなく、溝口から、見合いの日取りの連絡がきた…


               

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