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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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100/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 100

「…米倉の闇といっては、大げさだけど、米倉は、まるで、会社のように、連合体だった…」


 「…連合体?…」


 「…コングロマリットという言葉がある…企業がさまざまな業種の企業を統合して、統治する…三井や三菱がその代表例だ…米倉の家族がそれと同じだった…」


 「…家族が…」


 「…そうだ…一見、血の繋がりがあるように見えて、なかったり…あったり、要するに、寄せ集めの疑似家族だ…」


 水野が断言した。


 私は水野の言葉に、考え込んだ…


 たしかに、言われてみれば、水野の言う意味はわかる…


 私が初めて、この米倉の豪邸にやって来た時から、違和感というか、なにか、不思議なものを感じた。


 要するに、家族がバラバラなのだ…


 米倉平造とその妻と、新造さんは、仲がいいが、それ以外の人間がバラバラなのだ…


 澄子さんは、自分勝手で、誰ともうまくいってない印象だし、その夫である、直一氏は、入り婿で、部外者という印象…


 正造は、独立独歩というイメージだし、好子さんもまた、正造や新造さんとは、仲がいいが、それ以外のメンバーと、仲がいいとは、決して言えない…


 要するに、なんとなく家族が、ギスギスしている印象だ…


 寄せ集めの家族といえば、わかりやすい…


 事実、その通りだった…


 だが、米倉はお金持ち…


 私のような一般家庭に育った人間には、わからない、お金持ちゆえに、自分の育った環境とは、違うが、案外、お金持ちとは、そんなものなのかしれない…


 そんなふうに、考えた。


 しかし、それは、違った…


 間違いだった…


 米倉の家族が、文字通り、寄せ集めの家族だった…


 それゆえ、ギスギスしていて、それが、雰囲気に現れた。


 だから、最初から、この米倉の家庭は、おかしいと感じた、私の感覚は、正常だった…


 間違ってなかった…


 「…水野は米倉を援助する…しかし、その代償は、また大きかった…」


 水野が、言う。


 「…叔父の大昭和の社長を務めた良太は解任させる…」


 水野が断言した。


 「…反乱の芽は潰す…あっては、ならない…」


 その言葉に、好子さんも、新造さんも、沈黙した。


 「…もっとも、これは、親父が、良平が、ずっと前から危惧していたことだけど…」


 水野が肩の荷を下ろしたように、ホッと落ち着いた口調で言った。


 「…親父と良太叔父さんは、昔から仲が悪かった…だから、なにか、やらかすんじゃないかって、わざと大昭和の社長に就任させたっていうのはある…」


 「…わざと?…」


 「…その方が、簡単に反乱を起こすんじゃいかって…わざと乗っ取ったばかりの会社の社長に就任させたんだ…」


 「…」


 「…それで、金崎実業の内山社長の力を借りて、水野からの独立をそそのかした…」


 「…金崎実業の社長の力を借りて?…」


 「…内山社長は、米倉奉公会の会員…それで、親父の良平も、顔見知りだった…」


 「…顔見知り?…」


 「…どうしても、一流の財界人は、顔を会わせる機会が多い…だから…」


 水野は、チラッと、好子さんと新造さんの方に、視線をやり、それ以上はいわなかった…


 おそらくは、最初から、内山社長が、水野に接近していたか、それとも、平造に頼まれて、盟友の水野良平に力を貸したのか、どちらが、真実か、わからない…


 しかし、いずれにしても、その内情は、明かさない方が、いいと、水野は判断したのだろう…


 世の中には、知らずにいた方がいいということは、ごまんとある…


 知って、嫌な思いをするよりも、知らないままでいた方がいいということが、たくさんある…


 だから、水野は、これ以上、なにも、言わないのだろう…


 私は、そう思った…


 そして、内山社長といえば、私の同僚の内山さんを思った…


 内山さんは、最近、落ち込んでいた…


 アレは、やはり、知らずにいたことを最近、知ってしまって、落ち込んだに違いない…


 おそらくは、自分の父親が、水野良太の追い落としに力を貸したことが、嫌だったのではなかろうか?


 政治的と言うか、ハッキリ言えば、汚いやり口で、相手を騙すやり方をよしとしなかったのでないか?


 私は、そう思った…


 しかし、真実はわからない…


 だが、これは、わからない方が、得策かもしれない…


 私は思った。


 真実がなにであろうと、なにより、私自身になんの関係もない…


 そして、不意に、米倉平造を思った…


 平造は、保釈され、おそらくは、この家にいるはずだ…


 このお屋敷のどこかにいるはずだ…


 一体、今は、どうしているのだろう…


 「…お父様は…平造氏は?…」


 私は言った。


 私の言葉に、全員が沈黙した。


 「…親父はいない…」


 ポツリと新造さんが、言った。


 「…親父は、正造と同じだ…」


 「…正造さんと同じ…どういう意味ですか?…」


 「…自分の役割は終わった…そう言って、出て行った…」


 「…そんな…」


 私は言った。


 「…あの二人は、似た者同士だったんだ…よく考えれば、血の繋がった父子で、性格も似ていた…互いに女好きで…ただ、親父には、平造には、米倉を背負う使命があったし、正造には、その使命がなかった…だから、その点が決定的に違った…それがなければ、本当に似た者父子だった…」


 新造さんが言った。


 私は、それを聞きながら、考えた。


 今、目の前にいる、水野透(とおる)は、かつて、私に、高見さんは、平造に犯されるのでは? と言った…


 平造は、好子さんを狙っていて、好子さんがいなくなれば、代わりに、私、高見ちづるを犯すのでは? と言った…


 しかし、実際には、当然、そんなことはなかった…


 平造と正造は、似ているがゆえに、お互いが、お互いを牽制していた…


 おそらくは、互いが、好子さんを大事に思っていたのではないか?


 好子さんは、米倉の正統後継者…


 平造と正造は、互いが、自分のやり方で、好子さんを守ろうとしたのではないか?


 私は、そう思った。


 恋かもしれない…


 違うかもしれない…


 平造もまた、好子さんに恋をしていたのではないか?


 私は、突然、そう思った…


 平造も女好き…


 だから、それが、好子さんを見る目に現れたのではないか?


 だから、それを見た、水野が、好子さんが、いなくなれば、代わりに、私が、平造に、犯されるのではないか?


 そう判断したに違いない…


 ただ、それは、正造とは、違った…


 正造は、純粋に、好子さんを好きだったに違いない…


 好子さんも、また同じ…


 誰もが、そうだが、相手が、自分を好きか、嫌いかは、直感的に、わかるものだ…


 そして、その好きが、どんなふうに好きなのかも、わかるものだ…


 例えば、友達として、好きなのか?


 あるいは、


 異性として、好きなのか?


 さらに、あるいは、


 性欲の対象といっては、言い過ぎだが、要するに、好きに、性的な対象として、見るか、否かということがある。


 もっといってしまえば、異性としても、好きだが、性的な対象として、見ていないということもある…


 正造の場合は、明らかに、好子さんを性的な対象として、見てはいなかった…


 私は、気付かなかったが、平造の場合は、違ったのかもしれない…


 それゆえ、水野は、私が、平造氏に犯されるかもと、忠告したに違いない…


 私は、思った…


 そして、その日を最後に、私が、米倉の豪邸を訪れることは、二度となかった…


 あの日、米倉の豪邸を訪れたときに、おそらくは、これが最後の訪問になるだろうと、予感したが、事実、その通りになった…


 あの日、以来、好子さんにも、新造さんにも、水野にも、二度と会うことはなかった…


 ただし、テレビや新聞、ネット等のメディアを通じて、水野透(とおる)や、米倉好子の動静を知ることはあった…


 結婚の報道とか、あったが、私は、それを無視した。


 見ないようにした…


 どうしても、結婚の二文字は見てしまうが、内容は、読まないようにした。


 すでに、私には、関係のないことだからだ…


 そして、関係のない世界の話だからだ…


 事実、私自身に変化はなにもなかった…


 相変わらず、実家から、金崎実業の営業所に通っていた…


 もう33歳にもなるのだから、そろそろ結婚して、会社を辞めなければならない…


 頭の中では、いつも、その思いで、いっぱいだったが、私自身の生活に変化はなにもなかった…


 おそらくは、こんなふうに、数年過ぎていくのでは、と、予感した。


 リストラで、会社を辞めろと、肩たたきされるまで、居残るのでは? と、予感した。


 米倉正造については、一度だけだが、見たことがある…


 久しぶりに、一人で、銀座に買い物に行ったときに、偶然、見かけたのだ…


 正造は、いかにも、水商売風の派手な二十代の女と腕を組んで歩いていた…


 いわゆる同伴出勤なのだろう…


 これから、二人で、銀座の店に行くところなのだろう…


 正造は、たしかに、腕は組んではいたが、決して、嬉しそうな表情ではなかった…


 平凡といっていいのだろうか?


 あるいは、日常と、いえば、いいのだろうか?


 正造にとって、同伴出勤で、若い女といるのは、いつものことなのだろう…


 決して、非日常ではない…


 だから、表情も平凡なのだろう…


 嬉しそうでも、なんでもなかった…


 そして、そのときに、正造は、明らかに、私を見た。


 私、高見ちづるを見た。


 偶然、視界に映ったのだ…


 しかしながら、私に気付いたにもかかわらず、まるで、私を無視するように、なんの反応もなった…


 一瞬、


 ほんの一瞬、私の姿に、気付いて、動きを止めただけった…


 そして、私もまた、米倉正造に、挨拶することもなく、ただその場を歩き去った…


 まったくの他人…


 なんの関係もない人物だった…


 それが、わかった瞬間だった…


 恋かもしれない…


 違うかもしれない…


 実のところ、今になって、振り返って思うのは、正造を見かけたときに、自分でも、もっと心臓がドキドキするかと思った…


 息ができないほど、ドキドキするかと思った…


 事実、私の中で、一瞬、テンションが高まったが、正造が、私に気付かないふりをしたのを、見たことで、一気に気持ちが萎えた…


 冷や水を浴びせかけられたように、醒めた…


 と、同時に、自分の中に、正造に対して、淡い恋心を抱いていたことが、わかった瞬間だった…


 これまで、自分でも、それに気付かなかった…


 正造に対する気持ちに気付かなかった…


 あるいは、これが初恋…


 高見ちづるの初恋だったのかもしれない…


 33歳にもなって、初めて、知った、初恋だったのかもしれない…


 そして、それは、失恋だった…


 自分でも思ってもいない恋心だったし、思ってもいない結末だった…


 だが、それに挫けることもなかった…


 小さな恋…


 自分でも、気付かないほど、小さな恋だったからだ…


 米倉平造は、どこか、ホテルに宿泊していたらしい…


 後日、裁判で、実刑が下った…


 執行猶予が付いたので、刑務所に行くことはなかったが、かといって、あの米倉の豪邸に戻ることも、終生なかったと、言われている…


 思えば、平造もまた、正造と同じ…


 自分の立場を知る人間だった…


 平造にとっては、最後の仕事は、米倉の再建に目途(めど)をつけること…


 そのための水野との提携だった…


 水野透(とおる)と、米倉好子との結婚が、本決まりになったことで、自分の役目は終わったと解釈したのだろう…


 いわば、私は、米倉の再生を目撃した一人といえたのかもしれない…


 断末魔にあった、米倉家の没落と再生を見届けるのが、私の役目だったのかもしれない…


 私のご先祖様が、米倉家のご先祖様と、繋がっているがゆえに、私に米倉の危機と再生を見届けさせるために、あの米倉のお屋敷に私を訪れさせたのかもしれない…


 そんな思いがした。


 あるいは、これは運命だったのしれない…


 ただ、私にとって、良かったのは、米倉のようなお金持ちと接したこと…


 そして、そのお金持ちが、私と同じ人間だと、わかったことだった…


 お金があるから、決して、幸せではないと、わかったことだった…


 むしろ、あの米倉家の誰もが、屈折していたというか、普通のひとよりも、不幸せそうだった…


 私の学生時代の友人、知人、会社の同僚の方が、幸せそうだった…


 お金があるから、幸せじゃないんだと、あらためて、思った…


 もちろん、お金がなければ、生きてゆけないし、あるに越したことはない…


 しかし、巨万の富を持つ、米倉も水野もまた幸せそうには、見えなかった…


 あるいは、ご先祖様は、私にそれを教えるために、あの米倉の豪邸に導いたのかもしれない…


 恋かもしれない…


 違うかもしれない…


 私が、米倉正造や水野透(とおる)に、どれほど、憧れたのかは、正直、自分でもわからない…


 それが、恋と呼べたものか、どうかは、わからない…


 しかし、これまで、33年生きて、好きになった男はいない私にとって、正造や、水野透(とおる)との交流は、十二分に恋といえるものだった…


 心がときめくものだった…


 キスやセックスをすることが、恋ではない…


 当たり前のことだった…


 私の恋愛偏差値はゼロだったが、これで、10や20ぐらいには、上がったと思う。


 そして、高校受験や、大学受験ではないのだから、これ以上、恋愛偏差値は、上がらなくてもいい(笑)…


 好きな男ができたと、思えただけで、十分…


 それ以上は望まない(笑)…


 この先、今回のように、好きな男ができるかどうかは、わからない…


 むしろ、これまでの私の人生を考えれば、生まれて初めて、野球で、ヒットを打ったようなもので、これが、人生最初で、最後の恋だったかもしれない…


 しかし、それを悩んでも仕方がない…


 考えても仕方がない…


 余裕があるから、恋について、考える。


 余裕がなければ、恋について、考えない…


 日々、生きるのに、精一杯だからだ…


 恋をする余裕がある、日常に感謝するべきかもしれない…


 私は、そんなことを思った。


 そして、また、日々の退屈な日常に戻った…


 ただ、以前とは、違うのは、その退屈な日常がなにより、得難いものだと、気付いたことだ…


 とりあえず、日々の生活には、困らない…


 そんな退屈極まりない日常が、なにより大切だと気付いたことだ…


 あの米倉の騒動を目の当たりにして、考えた。


 まるで、映画やドラマのような騒動…


 見る分には、楽しいが、当事者は、堪ったものではない(笑)…


 ご先祖様は、あるいは、それを私に教えるために、あの米倉の豪邸に導いたのかもしれない…


 ご先祖様は、米倉の兄妹…


 生の金持ちを知っている…


 その実像というか実態を、私に知らせたかったのかもしれない…


 そんな意地の悪い考えが浮かんだ…


 そして、ちょっぴり、大人になった…


 そんな気がした…


<了>



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