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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ  作者: トモサン


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10/100

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 10

…たしかに、面白い…


 推理小説ではないが、米倉のことは、知れば知るほど、興味深くなった…


 私は考える。


 私は考えながら、窓の外を見た。


 だだっ広い庭がある。


 しかも、よく手入れされている。


 この状態を保つのに、一体、年間いくらかかるのだろう…


 私が真っ先に思ったのは、それだった…


 いや、このお屋敷を維持するのだって、毎年、目の玉が飛び出るほどの、高額な、固定資産税が、請求されるだろう…


 その額だって、私、高見ちづるの年収を遥かに、超える額であることは、想像に難くない…


 私が、そんな思いで、庭を見ていると、


 「…高見さん、よかったら、外へ出て、庭に出てみれば…」


 と、米倉が声をかけた。


 「…庭へ?…」


 私は、驚いて、米倉を振り返った。


 「…高見さんは、まだ、この家に来たばかりなのに、色々あったから…気分転換に外へ行って、庭に出てみれば、気分が晴れるかも…」


 米倉の言葉に、私は考え込んだ。


 …たしかに、米倉の言葉にも一理ある…


 やって来た早々、波乱含みというか、自己紹介をして、米倉の家族と会っただけなのに、すでに、波乱を予兆した出来事だらけだった(苦笑)…


 テレビで、ワイドショーを見るような面白さを感じる反面、実際にその現場で、矢面に立つと、精神的に疲れる。


 私は米倉に、


 「…お言葉に甘えて…外に出てきます…」


 と、言った。


 「…それがいい…」


 米倉が応じる。


 「…では、ごいっしょに…」


 「…いや、ボクはここにいます…」


 意外な米倉の言葉だった。


 「…ここにいる? …どうして?…」


 「…ボクが高見さんといっしょにいると、他の兄弟たちが、高見さんに話しかけてくれないかもしれないから…」


 米倉の言葉を聞きながら、私は米倉の視線の先を見た。


 米倉もまた、私同様、窓から、外を見ている。


 そして、その視線の先には、さっき、米倉と争った、米倉の腹違いの弟、新造の姿があった。


 …なるほど、そういうことか!…


 私は心の中で、合点する。


 「…では、お言葉に甘えて…」


 私は、米倉に声をかけて、部屋から出て、外へ向かった。


 その私の背中に、


 「…頭のイイ女だ…こちらが、なにを求めているか、瞬時にわかる…」


 と、小さく独り言を呟いた米倉の言葉が、聞こえた。


 私は、米倉のその言葉を聞き、


 「…私を呼んだ目的は、まさにそれに尽きるのか…」


 と、あらためて、心の中で、反芻する。


 溝口に、お見合いだとウソを言い、本当は、自分の家庭の中で、誰が、不正をしているのか、知りたかった…


 そのために、自分の手足となる人間が、欲しかった…


 それが、本当のところだろう…


 米倉は、溝口に、見合いだと誤って伝わったと言ったが、それはウソに違いない…


 いや、違いないではなく、ウソに決まっている…


 初めて会った時も、まるで、トランプのように、さまざまな名刺を出して、私の反応を試した…


 私がどう対応するか、試したのだ…


 あのとき、私が


 「…ふざけないで下さい!…」


 と、怒れば、私は今、この米倉のお屋敷に招かれなかったに違いない…


 なぜなら、そんな反応は誰でもできる、当たり前のことだからだ…


 私が、米倉の行動を面白がり、それに乗って、私もふざけた…


 その結果、米倉の眼鏡に叶った私が、今、ここ、米倉のお屋敷にいる…


 そういうことだろう…


 そこまで、考えると、この米倉という男は、つくづく食えない男だと実感する。


 まさに、食わせ者…


 米倉の父親がいみじくも、指摘したように、食わせ者だ…


 しかしながら、経営者としては、それもアリなのかとも思った…


 会社を経営する人間が、簡単にひとに騙されるようでは、困る。


 いや、食わせ者では、ひとから信用されないから、ダメか?


 そもそも、他人から信用されない人間は、なにをやっても、ダメだ…


 いやいや、それとこれとは、話が別かも…


 そんなことを考えながら、私は庭に出た。


 私は、米倉のお屋敷をゆっくり歩く。


 歩きながら、しかし、本当に、世の中には、お金持ちという人種がいるのだなと、つくづく思った。


 こんなお屋敷が、都内にあるのも、知らなかったし、また、そんなお屋敷に招かれるなんて、考えもしなかった。


 私、高見ちづるが、生まれて、33年経つが、見たことも、聞いたこともない、世界だ…


 つくづく、生まれというものの違いを考えさせられる。


 持って生まれた星が違うのだ…


 運命というものが、あるに違いない…


 それを否定しようにも、否定できない目の前の現実だった…


 私はそんなことを、考えながら、目指す、新造の元へ、歩いて行った。


 私が、新造の元へ、歩いて行くことがわかると、新造は、立ち止まり、私が、傍に来るまで、待っていた。


 「…こんにちは…」


 私が挨拶すると、


 「…こんにちは…」


 と、新造も、私に挨拶する。


 「…ここで、なにをなさってるんですか?…」


 「…この庭が好きなんです…」


 「…庭が好き?…」


 思いもかけない言葉だった。


 「…どうして、庭がお好きなんですか?…」


 「…オレは、この通り、カラダが弱くて…」


 新造が言う。


 私は目の前の新造を見た。


 身長は、私、高見ちづるの、155㎝に比べて、遥かに高く、おそらく、175㎝ぐらい…


 しかしながら、なんとなくひ弱い…


 一見して、カラダが弱いということがわかる…


 「…どこか、悪いんですか?…」


 「…呼吸系といえば、難しくなりますが、要するに、ぜんそくです…」


 「…ぜんそく?…」


 「…だから、ときどき、発作で息苦しくなる…」


 「…それは大変ですね…」


 私は言いながら、目の前の新造を見ると、新造もまた、マジマジと私を見ていることに気付いた。


 「…あの…なにか?…」


 どうして、そんなふうに、私を見るのか、わからなかったからだ…


 「…高見さんは、姉貴に似ている…」


 「…姉貴って、好子さんですか?…」


 「…そうです…」


 …たしかに、それは誰が見てもわかる…


 …私と好子さんは、同じように、155㎝と小柄で、同じようなタイプの美人…


 具体的に言えば、常盤貴子を小柄にしたようなタイプだ…


 「…だからと言えば、いいのかな…高見さんと初対面なのに、すんなり話せる…」


 …それはわかる…


 …自分の姉とよく似たタイプの私だから、なんとなく身近に感じるのだろう…


 私は考える。


 「…だから、高見さんを、オヤジも一目見て、気に入ったんだろう…」


 そこまでは、考えなかった…


 しかし、言われてみれば、私と好子さんは、似た外見…


 そして、米倉が言うには、好子さんは、米倉の父親のお気に入り…


 ならば、この高見ちづるもまた、米倉の父が気に入らないはずはない…


 私は考える。


 同時に、また、米倉が私を、このお屋敷に招いた理由の一つに、私が、好子さんと似ていることだと、気付いた。


 あらかじめ、米倉の父が、気に入るような人間を選んだというわけだ…


 …食えない男…


 私はあらためて、米倉を思った…


 米倉の目鼻立ちの整った、いかにも、お坊ちゃまの端正な顔からは、想像もつかない策士であることに気付いたのだ…


 要するに、最初から、この家の最高権力者である、父親に気に入られる人間を選んだというわけだ…


 私は考える。


 そして、目の前の新造を見た。


 新造は、腹違いの兄が嫌い…


 が、なぜ嫌いなのか?


 それは、本人に聞いてみなければ、わからない…


 しかし、そんなことを初対面の新造に訊いていいのだろうか?


 いや、訊いたとしても、本当のことを言うだろうか?


 私が、悩んでいると、


 「…なにを悩んでるんです?…」


 と、新造が訊いた。


 私は、訊こうか、訊くまいか、悩んだが、

率直に、


 「…新造さんは、米倉さんがどうして、お嫌いなんですか?…」


 と、ストレートに訊いた。


 私の質問に、新造は大きな目を見開いて、驚いた。


 が、すぐに、


 「…ズルいからです…」


 と、答えた。


 「…ズルい? なにがズルいんですか?…」


 「…なにもかです…」


 「…なにもかも? …それはどういう意味ですか?…」


 「…意味って言われても…」


 新造が当惑する。


 私は、私よりも、20㎝も背が高い、新造を目の当たりにして、新造が、生真面目で、純粋な人間であることがわかった…


 兄の米倉のように、とっさに、ウソでもいいから、なにか、真実っぽいことを言って、対応することができない…


 おそらく、生真面目で、純粋ゆえに、うまく立ち回る米倉が嫌いのだろう…


 米倉は策士…


 どんな場面でも、臨機応変に対応できる人間だ…


 そして、目の前の新造は、それができない人間…


 芸能人で、言えば、竹下元首相の孫のDAIGO(ダイゴ)と、似たルックスであり、性格であることに気付いた。


 裏表のない性格で、性格も良いのだが、同時に頼りない…


 そして、頼りないのは、ぜんそくのせいだけではあるまい…


 病気のせいで、痩せているが、それが理由で、頼りなく見えるわけではあるまい…


 単純に、性格が頼りないだけだ…


 私は考える。


 私が、そんなことを考えていると、新造がマジマジと、私を見ていることがわかった。


 「…どうしました? 私の顔になにか付いていますか?…」


 「…高見さんは、兄貴と付き合ってると言いましたね…」


 「…ハイ…ですから、今日、そのことを報告するために、このお屋敷に伺いました…」


 「…それは、さっき、聞きました…でも…」


 「…でも、なんですか?…」


 「…率直に言って、高見さんは、兄貴と付き合っているようには、見えない…」


 「…どうして、見えないんですか?…」


 「…タイプが違う…」


 「…タイプですか?…」


 「…高見さんは兄貴の好きなタイプじゃない…」


 新造が断言する。


 なるほど、腹違いとはいえ、血の繋がった兄弟だから、米倉のことは、よく見ている。


 おそらく、これまで、米倉が、このお屋敷に連れて来た女たちと、私は、タイプが違うのだろう…


 私は思った。


 「…でしたら、米倉さんは、どういうタイプの女性が、好みなんですか?…」


 「…兄貴が好きなのは、基本的には、イケイケの派手な女です…」


 「…あの米倉さんが?…」


 私は驚く。


 あの米倉の生真面目で、落ち着いた、雰囲気とは、まさに真逆…


 しかし、遊ぶには、まさに、そのタイプの女が一番だ…


 結婚うんぬんを、考えない限り、遊びには、そのタイプの女が一番…


 同時に、米倉の本性がわかろうというものだ(笑)…


 「…だったら、新造さん…」


 「…なんですか?…」


 「…米倉さんは、あの歳になって、本気で、結婚相手を見つけたくなって、私と付き合い出したんじゃないんですか?…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…あえて、これまでとは真逆のタイプの私を選んだと言うことです…」


 私の言葉に、新造は考え込んだ…


 「…たしかに、それもあるかもしれない…」


 「…でしょ?…」


 私はまるで、弟に言うように、新造に言った。


 初対面であるにもかかわらず、なぜか新造には、姉のような立場で、接し易かった。


 私はふと思い付いた。


 だったら、米倉は腹違いの妹の好子さんをどう思っているのだろうか?


 米倉の本性が、派手好きのイケイケの女が、好きだとすれば、好子さんは、真逆のタイプ…


 好子さんは、この高見ちづると同じタイプだからだ…


 いや、やはり腹違いとはいえ他人ではない…


 血の繋がった実の妹…


 他人とは違う…


 そもそも、米倉が、女を選ぶ基準と、血の繋がった妹を同列に考えること自体、間違ってる…


 私は、そう考えた。


 そう、考えてると、


 「…兄貴は、生き方がうまいから…」


 と、突然、新造が口走った。


 「…生き方がうまい…」


 「…兄貴もまた、姉貴を大切にしている…だから、姉貴もまた兄貴を好きなんだろ…だけど、オレに言わせれば…」


 「…オレに言わせれば…」


 「…兄貴はオヤジの顔色を窺って、いつもオヤジの喜ぶことをしようとする…兄貴が好子を大切にするのは、オヤジが喜ぶことを知ってるからさ…」


 新造が吐き出すように言った。


 私は驚いた。


 なぜ、新造が兄の米倉を嫌うか、端的にわかる説明だった…


 目の前の新造は、好子さんを好きなんだろう…


 その好子が利用されている事実に憤っているに違いない…


 「…新造さんは、好子さんが好きなんですね…」


 私は言った。


 「…ハイ…好きです…」


 新造が即答する。


 「…姉貴は、子供の頃から、オレを可愛がってくれました…自分を可愛がってくれる人間を嫌いな人間は、誰もいないでしょ?…」


 「…それは、そうですね…」


 「…姉貴は、オレが子供の頃、ぜんそくでこの庭で、倒れて、カラダが動かなくなったとき、必死になって、オレを運んでくれました…」


 「…好子さんが、運んで…」


 思いがけない新造の言葉だった…


 なにしろ、子供の頃といっても、好子は私同様小柄…


 目の前の新造が子供の頃といっても、カラダが大きかったに違いない…


 果たして、そんなことが、小柄な好子にできたのだろうか?


 私が考え込んでいると、


 「…オレ、子供の頃は、チビだったんです…」


 と、新造が告げた。


 「…チビ…ですか?…」


 「…そう…チビです…中学に入ったときは、145㎝しかなかった…」


 「…145㎝?…」


 たしかに、小さい…


 この高見ちづるも、中学に入ったときは、それぐらいの身長はあった…


 「…この身長は高校に入って、伸びたんで…」


 新造が続ける。


 たしかに、男と女は、カラダが大きくなる時期が違う。


 女の方が、小学生の5、6年になると、男より先に、カラダが大きくなる…


 だから、新造が言うように、子供の頃、好子が新造を抱えて、庭から、運び出そうとすることができたのだろう…


 「…その日はちょうど雨が降っていて、家には、姉貴しかいなかった…だから、姉貴は、この庭で、倒れたオレを必死になって、屋敷の中に運ぼうとしてくれたんです…」


 私は新造の話を聞きながら、さっき、新造が、言った、

 

 「…この庭が好きなんです…」


 と、言った言葉の意味が、ようやくわかった…


 新造は、この庭で、子供の頃、倒れた自分を必死になって、屋敷に運ぼうとした好子のことを、思い出していたのだろう…


 私は思った。


 「…そうですか…さっき、新造さんが、この庭が好きと言った意味がわかりました…」


 「…そうですか…」


 新造が穏やかに答えた。


 「…だから、そんな姉貴を利用しようとするアイツが許せない…」


 新造の顔色が変わった。


 「…アイツ?…」


 「…正造ですよ…」


 新造が吐き捨てる。


 「…高見さんも、あんなヤツには関わらないことだ…」


 新造が言うと、歩き出した。


 私は一瞬、新造を追おうとも、考えたが、すぐに止めた。


 新造としても、これ以上、私に関わりたくなかったのかもしれないと気付いたからだ…


 なにしろ、私は正造と付き合い出した女…


 新造の嫌いな兄、正造の彼女なのだ…


 これ以上、話したくなかったのかもしれない…


 私は一人、ポツンと庭に残された。



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