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第5話「スキル『せんしゃ』」

 洗車。

 ──それは洗う車。


 戦車。

 ──それは戦う車。



「…………って、おおおおおおい」



 いや!

 せんしゃって、戦車やん!


 あの戦車やん。

 めっちゃ戦車やん!


 ごっつう強い奴やーん!


「つーか戦車って、あーた(アンタ)さぁ……」


 そーゆーのは最初から漢字で教えてよー。

 たしかに、スキルの備考欄にはありとあらゆる『せんしゃ』が選べるってあったけどさー……。


「もー。そしたら、無様に捨てられることもなかったのにぃ!」


 地団太、地団太!


 かえせ、王宮での自堕落ニート生活をー!


「…………ま。あの王子のことだし、戦車だったとしても、捨てられた可能性はあるけどね」


 どうもオバはんには、ご需要がないようで―!


「って、誰がオバはんだ! あたしゃ、まだ20代だっつーの!」

『ゲギャア!?』


 わ!

 しまった。


「お、大声だしたから、外のゴブリンに気付かれたかも……?!」


 事務室のガラス越しに確認すると、チェーンの前でキョロキョロしているゴブリンが見えた。


「ひえー。や、やっちゃった。どうしよう」


 あんなチェーンなんて、一瞬で越えられるし、


「よ、よーし! ここは腹をくくって、戦車を購入だ!」


 使い方なんて知らないし、

 免許は普通車しかないけどね。


「それでも、高圧洗浄機で戦うよりはマシでしょ」


 最悪、戦車の中に籠れば固いから安全かも。


「え~っと。……これって、どれ選べばいいの?」


 なんかいっぱいあるし……。

 スキルの説明どおり、ありとあやるゆる「せんしゃ」なだけあって、戦車のほうカタログも、めっっっちゃくちゃ種類がある。


「えー……」


 日本?

 中国?

 韓国にロシアに、ア~メリカ~~~ン♪


 ……ありすぎて逆にわかんない。


「わーぉ。……これ、おフランス(・・・・・)製だ。こっちはドイツ製のもあるー」

 さらには、イタリアにエゲレスー。


 へー。

 どれも、おっしゃれー。


「って、高ッ!」


 え?


 フランスのルクレールとかいうのもそうだけど、このアメリカの「M1なんとかってやつ」1000ポイントもすんの?!

 ドイツの「レオなんとか2」も980ポイントじゃん!


「たっかーい!」


 そんなの買えないし。

 しかも、フランス語はもちろんのこと、他の車両も英語とかドイツ語表記で全然読めない。


「む、むむー。なら日本製かな」


 日本製ってことは自衛隊だよね?

 安心安全の日本製!


「……でも、自衛隊とかあんまし詳しくないんだよねー」


 ゴ〇ラくらいしか知らないや。

 あと、ガン〇ムだっけ?


「──あれ、ガン〇ムって自衛隊だったかな?」


 いや、あれは連邦軍だっけ?


 …………ま、いいや。

 似たようなもんでしょ。(※注∶暴論)


「えーっと、日本製、日本製、メイドインジャパーン──あ、これかな?」


 ふーむ……。

 61式に、こっちは74式? 


「むむー、そんで、こっちは90式と10式……。え? なんで数字が若返ってるの?」


 どゆこと?

 値段もクッソ高いし……。


「全然、わかんな──」


『ゲゲー!』

『ギギャ!!』


 うわ!

 や、やばい!

 なんか興奮してる? 声でバレてるっぽい?!


「あーもう、どうしよ。時間がないし、とにかく買えるやつにしとこ!」


 早くしないとゴブリンが入ってきて、あれやこれやと「あーれー♡」な展開になってしまう。


「え~っと。100ポイント以下で買えるやつ、買えるやつ……」



 あーもー。

 こんなことなら、ポイント使いすぎるんじゃなかったよー。


 Wi-Fi買ってる場合じゃなかったわ。


 だけどしゃーない。

 それに戦車といっても千差万別!


「あ、ほらほら! こっちにも安い日本製がある!」


 やっぱりそうだ。

 見てよこれ。


 お値段も手ごろな、八九式、九五式、


「それに九七式に……一式、三式?」


 えー?

 今度はなんでいきなり漢数字?


 なんで??


「意味わかんないよー。だけど、たぶん数字がデッカイほうが強い!」


 デカいのは正義!

 正義はデカい!!


 どのみち、ポイント足りないし、これにしよー!


「よーし。この、頭にもじゃもじゃしたのがついたやつを80ポイントで買うぞー!」


 そい、

 ポチッとなー。


「購入ー」



  ドーン!



「うきゃー!!!」


 ま、またこのパターン?


 自販機と一緒で、購入したら即登場!

 小さな地響きとともに出現したのは、もっさりとした迷彩柄の鉄の塊だった。


 そんなのが、突如スタンドの外──ゴブリンたちのど真ん中に出現したのだから、もうビックリー。


「お、おー……。マジで戦車だぜ」


 すげーぜ。


「たださぁ……」

 早いし、便利なのはいいんだけど、そんな、近所のチャーハンみたいに、ポンと出てくるなよ。


 ──戦車やぞ?

 戦う車やぞー。


『『ゲギャギャギャー?!』』


 で、ほらー。ゴブリンも腰抜かしてるじゃん!

 そらぁ、あんなんでてきたらビビるわ。


「って、なにこれ?」

 足元にゴトンッ!

「なんか、戦車を購入と同時にでてきたんだけどぉ……」


 これって、コントローラーかな?


「………………あ。まさかこれで操縦しろと?!」


 つーか、スイ〇〇じゃん!

 しかも、2……。


「いや、そりゃ分かりやすくて助かるけどさー」


 首を傾げつつも、

 それを掴むと、突然の頭痛がはしる。


「うー。またこれ?! い、いたたっ! あ、頭が……」


 思わず、膝をつくと走馬灯のように無数の情報が脳内を駆け巡った。



  き、九七式中戦車

   帝国陸軍の主力戦車…。


    主砲は57mm短装砲と、

     副武装に7.7mm車載機関銃……。



「──そして、速力は時速38km、装甲は、」


 ハァハァハァ……。


「……な、なにこれ?」

 ────なにこれぇぇ!?


 驚く私の脳裏にインストールされたのは、購入した戦車『九七式中戦車』の基本スペックと知識であった。


 それも、操作方法だけでなく。

 ノモンハン事変から、太平洋の各諸島。

 最後は北千島での終戦後の戦いの歴史に至るまでが──……。


「うぅ。……こ、これが、この戦車の記憶なの?」


 なんだかわからないけど、切ない思いが胸をよぎりぎゅっと締め付ける気がした。

 どうやら、スキルを覚えると同時に、使用法なんかが分かる親切設計らしいけど……。


「はぁー。まさか戦車の知識と動かし方まで分かるなんて」


 そして、悲しい記憶までもが。


 ……ぐすん。


「えっと、こうかな……?!」


 なぜか溢れた涙をぬぐいつつ、

 手にしたコントローラーを操作すると、私の戦車『九七式中戦車』、通称「チハ車」が、ゴルルン! と咆哮を上げた!



 お、おぉー!



「……こ、こいつ動くぞ」


 グォォォオオオオン!


「しかも、遠隔が可能なんだ?!」


 コントローラーの操作に従って、エンジンの咆哮を上げる戦車。

 そして、突然九七式戦車が動きだしたものだから、ゴブリンたちはといえば慌てて戦車から距離をとる。


「そりゃそうか。こちは戦車だもんね」


 でも、せっかくので、そのまま驚いていてね!

 なにせ、こちとら戦車を動かすのは初めてなのだから。


「え~っと、こうか。戦車の見ている正面が、コントローラーのモニターにも同時表示されるのね」


 なるほどなるほど──これは便利。

 そして、前後への移動にはジョイスティックで操作。前に倒せば前進。後ろの倒せば後進、左右で信地旋回か。


「あとは各種ボタンは主砲や副武装の切り替えボタンに武装発射ボタン、……か」


 うん!


 これなら私でも操作できそうだ。

 ……細かい所はフィーリングで!


「よーし、行っけー。MY戦車よ」


 前進だーっ!

 キュラキュラキュラ!


「おぉー! 動いてる動いてる!」


 『ゲギャ!』

 『ゲギャギャー!』


「ふはははー」


 そーりゃ、ゴブリンたちよ。

 逃げ惑うがいいわー


「……って、あれれ?」


 な、なんで?


「なんで逃げないのー?!」


 戦車だよ、これ?

 その戦車が動き出しているのに、ゴブリンさんたちときたら、急にやる気になったのか、こん棒を構えてジリジリと戦車ににじり寄るではないか。


「まさか、やる気?! 思ったよりも好戦的だこと……って、」


 いやいや、危ない危ないって!

 そりゃ、戦車にしては小さいほうだがゴブリンと比べればはるかに巨体だ。


 しかも、鉄の塊──!


『ゲギャ!』


 ガキーン!


「あいたー!」


 な、殴ったなー!

 お父さんにもぶたれたことないのに!


「……まぁ、私は痛くないんだけどね!」


 でも、人の新車に傷をつけた罪は重いぞー。

 もっともゴブリンの攻撃など蚊が刺したようなものだけど……それでも一発は一発です。


「いいよー。そっちがその気ならー……」


 正当防衛開始だ。


「先に殴ったほうが悪いんだからね!」


 え~っと、攻撃ボタンをポチッとな──。




   ドーーーーーーーーン!!




「うひゃー?」


 え、ええー……。ドーンってマヂ?


 驚く私の眼前で、夜空を切り開く真っ赤な炎とともに、ガソリンスタンドのガラスをビリビリと揺らす炸裂音が響く。

 そして、ひゅるるるるるるるるるる──と空を切る音が遠くの空まで響いていったかと思えば、



  ……ぼーん。



「わ、わー……」


 や、やっちゃった。

 遠ーーーーーーくのほうで、小さく立ち上る赤い火柱を見て、ポカンと口を開ける私。


「……そういえばゴブリンは──」


 ドサッ。


「ひぇ!」


 思わず変な声がでる。

 だって、一拍おいてから倒れ伏すゴブリンをみて、ドン引き。


 身体がほとんどないんだもん……。


「……おえー」


 グ、グロイ。

 いや、反撃のつもりで撃ったけどぉー、なにも当てるつもりはなかったのよ。

 恐る恐る事務室から顔を出したところ、残りのゴブリンが暗闇に消えていくのが見えた。


 どうやら、戦車に恐れをなしたらしい。


「……そりゃね!」


 私も怖いわ!

 つーか、いきなり戦車が撃ってきたらそら逃げるわな!


「あと、これどうしよー」


 もはや腰巻と足しか残ってない死体をみて、顔を(しか)めるしかない。


「うーん。やっぱり埋めないとダメかなー。……あ、「こん棒」が落ちてる」


 ひょい。


「見た目より軽いね。 ドロップアイテムって奴かな?」



  ブーン……。


 お、鑑定が発動した。



 ◇ ◇ ◇


 ハイゴブリンのこん棒

 レア度(AA)


 ・魔の山脈に生息するハイゴブリンが愛用するこん棒。

  様々な得物の血を吸っており、強化されている。見た目とは裏腹に軽く──そして固い。


 ◇ ◇ ◇



「へー。あれ、ハイゴブリンっていうんだ?」


 そしてこれがあいつらの主力武器っと。

 レア度がAAというのがいいのか悪いのかわからないけど……まぁ、貰っておこう。

 女一人、丸腰だと不安だしねー。……戦車あるけど。


 あとは──。


「……しゃーない。一応、埋めとくかー」


 目の前の死体に手を合わせる。

 いきなり突っかかってきたとはいえ、問答無用で倒したのはちょっと可哀想だしね。


 なのでせめて最後くらいは人間らしく──……いや、モンスターらしく、か。


「ん? まだ落ちてる?」


 戦車についていたスコップを手にして穴を掘ろうとして、ふと目にした小さな煌めきに気づく。


「宝石……?」



 ◇ ◇ ◇


 ハイゴブリンの魔石(無)

 レア度(C)


 ・魔の山脈に生息するハイゴブリンの魔石。

  個体差が大きいものの、総じて高い傾向がある。

  基本的に無属性の物が多く、スキルの回復、魔力の補充、魔道具の補給など、使い勝手がよい魔石として重宝される。


 ◇ ◇ ◇


「ゴブリンの魔石? なんだか知らないけど、綺麗だしもらっておこうっと」


 それに、スキルが回復するってことは、スキル『せんしゃ』の回復にも使えるということだろうしね。

 そのあたりは要検証だけど、スキルを使用したおかげか感覚的におおよそ分かる。


 どうやら、スキル戦車の装甲(耐久値)や、砲弾や燃料の回復には、魔石が必要になるっぽい。


「それに、売ることもできるみたい。なら、あって困ることはなさそうかな」


 今のところ売る当てもないけど。

 嵩張る(かさばる)物でもないしね。


「うーん。だけど、凄いな私」


 我ながら自画自賛。

 だって、異世界初日で、拠点となるガソリンスタンドに、足にも武器にもなる戦車だよ。


 最強じゃん。



「……案外、異世界とか楽勝だったりして?」



 数時間前まで途方に暮れていたのに、今はこの状態。


 初日で捨てられたにしては中々の好スタートだろうと思う。

 この先どうなるかわからないけど、戦車があれば大抵のことは解決しそー。


「うん、火力(元気)があれば何でもできる!」


 いえー。


「あはっ! いいじゃん、異世界戦車!」


 そして異世界ガソリンスタンドか。

 えへへ。な~んか、楽しくなってきたー!


「よーし、異世界ライフは戦車とともにー」




 そして夢のFIRE生活を送るのだーーーー。






「その前に人里さがそ……」


 さすがに山奥はないわー。

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