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第4話「ジョブ【ガソリンスタンド】」

 ピーピーピー!!



「ふわっ?!」


 な、なになになに?


「……あ、防犯ブザー」


 けたたましい音に目を覚ましたら、一瞬どこにいるかわからなかった。

 しかし、徐々に覚醒するにつれて、ガソリンスタンドの仮眠室──そして、さっきの音は防犯ブザーのそれだと気づく。


「あちゃー寝てた。……お客さんかな?」


 眠い目をこすりながら髪をまとめて起き上がる。


「うー……」


 超ねみぃ。


 24H営業のガソリンスタンドなので、当然夜中にお客さんがくることはままある。


 昼間はセルフとフルサービスの併用ステーションだが、夜はセルフのみ。

 いわゆる田舎によくあるタイプだから当然だ。


 ただ、そのセルフっていうのは、じつは別に無人ってわけないんだよ。

 意外と知らない人もいるけど、24Hセルフのガソリンスタンドの裏にはちゃ~っとスタッフがいるのだ。


 そして、お客さんが来るたびにカメラで確認して、給油OKのボタンを押して、初めて給油できるようにしている。

 ……っと、閑話休題。


 カメラカメラー。


「んー?」


 仮眠室のモニターを流し見ても、給油機の周りに車はない。

 そりゃそうだ。


「……そーいや、ここ異世界だったわ」


 そもそも、さっきのは防犯ブザーの音だっけ。


「ってことは不法侵入かな?」


 えっと。

 周辺監視カメラはっと──……え?


「ひ、人?!」


 うそ、人がこんな時間にいる。

 暗視機能の不気味な青い画面の先には、一つに小さな人影が映っているではないか。


「しかも、こ、子供って……」


 ええー?

 なんでこんな時間に?


 しかも、真っ暗な山奥に…………わ、違う!

 

「ゴ、ゴブリンだ、これ」


 カメラを拡大してびっくり。

 どうみてもゴブリンだ。


 ガサガサの分厚い皮膚に、腰蓑一つ。

 乱杭歯に、頭部には角が一本──そして、こん棒のようなものを持った子供くらいの身長の化け物といえば、ファンタジーお馴染みのゴブリンしかいないだろう。


「ひ、ひえー。本当に異世界なんだここ」


 実は少しばかり、これって夢かなーって思ってたのは内緒。

 まぁ、ガソリンスタンドにいる限り、日本と地続きな気がしたって仕方がないでしょ?


「ど、どうしよう。こ、これ、入ってきたらまずいよね」


 幸いにも今は店の裏にいるみたいで、裏口のステンレスのドアをガチャガチャやってるところだ。

 田舎のガソリンスタンドよろしく、法令に基づき三方が防火壁に囲まれていて結構堅牢なのだ。


 ……もっとも、正面が超絶オープンで、事務室も丸見えなんだけどね。


「うーん。一応、正面はチェーンをして閉店の札は出してるけど……そんなの意味ないよね」


 あれはせいぜい車避け程度だし、

 そして、閉店の看板がゴブリンに読めるはずもない。


「む、むむー。防犯用品はあるけど……効くかな」


 たぶん効かないよね。

 事務室のカウンターから取り出した防犯グッズを前に首をかしげる。


 といっても、カラーボールにネットランチャーくらいなもの。

 アメリカなら、ショットガンくらいありそうだけど、ここは日本なのだー!……って、異世界だったわ。


「……って? あれ? なにこれ?」


 手にした防犯グッズを前に首をかしげていると、突然目の間に何かが現れる。



  ブンッ。



「うわわっ!」


 なになに?!



◇ ◇ ◇


 防犯カラーボール

 レア度(S)


 ・特殊塗料を内包したカラーボール。対処にぶつけると、通常の方法では落ちない塗料を付着させる


◇ ◇ ◇



「えっ! こ、これって──」


 防犯アイテムの前に透明なガラス板のようなものが現れる。

 あえていうなら、ゲームのステータス表示似てるけど、まさかこれって……。


「……鑑定ってやつ?」


 いわゆる、

 アイテムの詳細や状態が分かる能力で、結構重要なスキルだった気がする。


「ってことは、あれか」


 転生とか転移とくれば──そう、召喚ボーナスってやつかも!


「な、なるほどー。たしかに、初めて世界で言語が通じた時点で何かあるなーと思ったけど、こういうのもあるのか」


 しかし、じっと見てるだけでアイテムの詳細がわかるとか便利だな、これ。


「……あ、まてよ」


 ってことは、

 鑑定とか言語理解系のスキルがあるんなら、まだ他にもスキルがあるはず。

 そういえば、ジョブ【ガソリンスタンド】以外にもなんかあったな。


「え~っと、こういうときはあれだ」


 召喚系お馴染みの、


「ステータスオープ~~~ン!」



  ブンッ!



 ◇ ◇ ◇


レベル:1

名 前:長瀬あかり

ジョブ:【ガソリンスタンド】

スキル:【せんしゃ】


● あかりの能力値


体 力:  15

筋 力:  76

防御力: 124

魔 力:   6

敏 捷:   8

抵抗力:   2


残ステータスポイント「±0」


 ◇ ◇ ◇



「おわ! でた!」


 本当にでた!

 まさか任意でステータスがだせるなんて、超優秀じゃん。


「つーか、この能力あったら水晶とかいらないじゃ……?」


 あのお城での茶番はなんだったんだ?

 まぁ、今更どうでもいいけどさー。


「……しっかし、マヂでゲームみたい」


 ジョブにスキル。

 そしてレベルに能力値かー。


「ん? あれ? まだ、下に項目が続いている……??」


 よく見れば、

 お城では見なかった項目が画面に追加されていた。




 ◇ ◇ ◇


  ● 容姿を設定してください

  ● ステータスを割り振ってください

  ● ボーナスポイントを割り振ってください

    「+1000」


 ◇ ◇ ◇




「……え。なにこれ? 容姿の設定? ステータスに、ボーナスポイントぉ?」


 しかも、ステータス画面のサブウィンドウには自分の素っ裸の姿が表示……って、ちょっとぉぉ!


「わ、私、こんなに胸ちっちゃくないし!」


 一応、ギリギリ下着っぽいのは着ているけど、

 失礼だな、このステータス様は!


「あ、でも、これってもしかして、キャラクリ画面じゃ?」


 なーんんか、どこかで見覚えがある思えば、

 洋ゲーによくある、チュートリアル後に出てくる『ステータスの再設定』や『容姿を設定』するキャラクタークリエイト画面に似ている。


「ってことは、もしかして、自分を金髪で褐色、バインバインのナイスバ~~ディとかにもできちゃうってことぉ!?」


 ……ゴクリ。

 そんなの凄いじゃん……。


「の、のんのん! 私は親が生んでくれたこの身体で行くから!」


 一瞬、ナイスバディな自分を想像して思わずキャラクリに手を伸ばそうとしたが、思いとどまる。

 だ、駄目ダメ! それだけはできない。


 生んでくれた両親への感謝は忘れてはならないのだ。


 ゴメンね。

 パパ、ママ愛してる!


 ──…………巨乳でスタイル抜群に惹かれないわけではないけどねー!


「うん、それはそれとして」


 置いといてのポーズ。

 そして、めっちゃ後ろ髪をひかれつつ、画面に視線を戻す。


「なーるほどー。ステータスも(いち)から自由に選べるのか」


 えみりに比べて、数値が(ひっく)いなーとは思ってたけど、そう言うカラクリか。

 さらには、1000ポイントもボーナスで貰えるならあんまし変わんなくね?


「だけどまぁ、とりあえず初期値でいいかな?」


 こういうのは攻略サイトとかみると、最適なステ振りとかわかるんだけどなー。

 まぁいいや。


「……あ、ステータスだけじゃなく、スキルとかジョブにもステ振り可能なんだ」


 なんと、通常ステータス以外にも、ボーナスポイントは使えるらしい。

 試しに画面をフリックして、ジョブ【ガソリンスタンド】を選択してみる。




  ブ~ンッッ!



 ◇ ◇ ◇


ジョブ:【ガソリンスタンド】

能 力:任意(一定条件あり)の場所にガソリンスタンドを召喚できる。

    また、Lvに応じて召喚するスタンドが進化。


Lv1→田舎のガソリンスタンド(仮眠室付き)


Lv1『購入オプション』

    Wifi  :400ポイント

    上下水道  :250ポイント

    ガス    :200ポイント

    自販機(※): 10ポイント

    車検セット :100ポイント

    自動車保険 :100ポイント

    商用車(※):300ポイント


(次)

Lv2→地方のガソリンスタンド(コンビニ付き)


備考:(※)表記はカタログあり。



 ◇ ◇ ◇



「おぉー。これがジョブステータスか:


 どうやら、今は【ガソリンスタンド】Lv1って状態らしい。

 そして、ジョブにもLvの概念があって、さらにポイントが割り振って能力を開放していく仕様っぽい。


「……いや、なんだよ。ガソリンスタンドの能力って!」


 スタンド能力?

  スタンド──ドドドド……。 


「っとォ、なにやら斜め立ちしたくなったけど、それは置いといて──」


 再び置いといてのポーズ。


「むむっ! よくみたら、能力開放のなかに『Wifi』があるじゃん」


 え。ってことはまさか異世界で電波が繋がるの?!


 すごい。

 やった、これで動画見放題だ! これは、買いだね。


「……っていうか、水道とかは別だったんだ」


 一回ウ〇コ流したけど、あれはタンクの分だけだったか。

 なら、これも買いだな……。外でウ〇コとか絶対いや。


「そしたら、次はシャワー用にガス!」


 これも、絶対いる!

 お風呂がないとか考えられないもん。


 他には──。

 

「……あ、自販機が安い! しかも、カタログ付きか」


 どうやら複数選べる仕様らしい。

 衣食住のうち、「住」が揃ったら、次は「食」だね!


「んー。ジュース用のは事務室に元からあるのでいいとして……」


 食べ物が欲しいな。


「パンに麺に瓶飲料かー」


 ほんとなんでもある。


「あ! これいいかも!」


 カタログの中にあった『軽食自販機』の即購入。


 ほら、あれ。

 サービスエリアとかにある、たこやきとかポテトとか色々売ってるホットスナック自販機ってやつ。


「あれ好きなんだよねー。他も安いし、好きなの買っちゃお」


 さっき見てた麺類が数種類選べる奴に、パン!

 あとは、チョコとかスナックとかの軽食が買えるやつに──……。


「おぉ! こ、これはまさか……!」


 某所にあるという、ソーセージ弁当とかが買えるやつじゃん!

 買う買う!


「よーし、これで5つ購入ー」


 合計900ポイントなりー。



   ドーン!!



「わわ、急にでてきた!」


 ポイントを割り振った途端に、事務室の壁際にズラリと並んだ自販機シリーズ。

 なんか、ここだけちょっとしたサービスエリアみたい。


「ほえー……。ガスとかWifiは分かりにくいけど、自販機はこういう感じなんだ」


 インフラは目に見えない範囲で反映されたっぽいけど、さすがは自販機。

 自己主張の激しい奴め。


「しっかし、壮観だね──」


 自販機がやたら揃ったガソリンスタンドとして有名になりそうー。

 まぁ、ここ世界なんですけどねー。


「なんかこのままガソスタが充実してきたら、私ここで生活できるんじゃね?」


 そしたら、まさかのFIRE生活も夢じゃない?!


「うん。それはそれとして、えーっと……。ほかはどうしよ?」


 商用車に車検セット??

 あとは保険……。


「いやいや、いらないいらない。つーか、異世界で保険ってなんだよ。事故ったら、ここまで東京〇上さんが来てくれるの?」


 来たらきたでそれはすごいけど……。

 いや、ワンチャン来るかも。


「うーん。とりあえずこれで、900ポイント使用~……って、あれ?」



 なにか忘れてるような──。




 『『ゲギャァッァアア!!』』




「あ、ゴブリンのこと忘れてたー……」



※ ※ ※



『ゲギャ!』

 『ゲゲー!』


「うげげー……」


 物欲に負けてのんびりと自販機を選んでたら、なんかゴブリンが増えてるし。

 異世界FIRE生活とか言ってる場合じゃないじゃん。


「しかも、正面に回り込んできてない?」


 さっきまで裏口をガチャガチャしてたかと思いきや、

 今度はデデーン! と、戦隊ものっぽくスタンドの正面に並んでいるし……。


「まずいなー」」


 目的を見失ってしまったこと猛省する。


 このままだと見つかって、

 引きずり出されて、

 巣に連れ帰られて、


 あれやこれやと、R18な展開に──!


「そ、そんなのやだ! えーっと、えーっと。やっぱり戦闘に備えて、ステータス振ったほうがいいよね?」


 残り100ポイント!


 ……おっふ。

 Wifi買ってる場合じゃなかったわ。


 しかも、リセット機能もないときた。……クソゲーかよ。


「ど、どうしよっかな。戦うなら、やっぱり筋力とかかなー?」


 それとも魔力?

 いや、でも、魔法とか使えないし──。


「……あ! そうだ、魔法と言えば、私って『スキル』があるんだっけ?」


 そうだ。

 たしか『せんしゃ』!


 それが、なんに使えるか知らないけど、唯一のスキルだし────いでよ、せんしゃー。



   ブンンッッ!



 ◇ ◇ ◇


スキル:【せんしゃ】

能 力:任意の場所に召喚可能。

    世界中のありとあらゆる『せんしゃ』(※)が選択できる。


備 考:(※)表記はカタログあり。


 ◇ ◇ ◇



「お、おぉー……出た出た」


 ほんとに『せんしゃ』だ。

 しかも、カタログ付きで、選べる『せんしゃ』ときた。


「……わ、すっごい」


 ご丁寧な説明文通り、

 同時に表示されたサブウィンドウには、古今東西の『せんしゃ』がズラーっと、並んでまーす。


「えみりには笑われたけど、『せんしゃ』と一口に言ってもいろんな種類があるんだよね」


 例えば、

 スタンドに設置されている『門型洗車機』を始め、

 大型スタンドにある『ドライブスルー型洗車機』、

 そして、都市の郊外に多いコイン洗車場にある『手洗い洗車器』などなど。


 広義の意味で言えば、家のガレージでホースとタオルで洗うあれも『せんしゃ』といえばそう。


「今回、えみりとともに異世界に飛ばされる原因となった『門型洗車機』ひとつとっても、大型ブラシでゴシゴシするタイプから、ジェット水流で汚れを飛ばすタイプまで様々なものがあったりするんだけど──」


 ……お。


「これ、最新式の洗車機じゃん」


 なんと、全自動、最新式の大型門型洗車機『エム〇ー精工製』のエミネントデルタ!

 そんでこっちは、安〇自動車製のジスペクトもある!


 もちろんドイツのケルヒャー製の高圧洗浄器なんかもあった。


 ……これは、ほら。あれあれ。

 通販でよく見かける泥だらけの壁とかを高圧水流でピカピカにするやつですよ。


 そのままでも武器になりそうな、あれ──


「──そうだ! いっそ、これでゴブリンと戦えばいいじゃん!」


 手持ち式とはいえ、高圧洗車器をMAXにした水流はかなりのものだ。

 実際、ジェット水流でデモ隊とか吹っ飛ばす豪快な映像とかが海外で流れてるくらいだし。効果はあるだろう。


「いいね。汚物は消毒だーって感じでどうかな」


 ぶっちゃけ、筋力をあげて殴りあうより効果的かもしれない。

 そもそも、生き物と殴り合いとか絶対むりだし。


 しかも相手はゴブリンだ。

 負けて捕まったら、「あーれー♡」されるに決まってる。


 ならば、か弱いレディに必要のは武器っ!

 それも遠距離!


「よーし、買うぞー」


 お値段も10ポイントとそこまで高くない。

 スキル『せんしゃ』も使いようってね。


「どれにしよっかなー。……あ、こっちにもページがあるんだ──」


 ズラーっと並んだ世界中の『洗車機』をフリックで選択していくと、なんと別ページに飛んだ。


 そこにも、

 あるわあるわ『戦車』があるわ。


「おー。日本の『10(ひとまる)式戦車』だー」


 かっこい~♪









 ……って、おい。







「戦、車?」

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