第48話「地下に巣食うもの──」
ウィィィィィィイイン♪
「おーらい、おーらい、おーーーーーーらい!」
ズゥゥン!
地下に垂らしたワイヤーが伸び切り、一気に地下までショートカット。
ウィンチを使うことで、ぐるぐると螺旋状の通路を下るよりはるかに早くついたようだ。
「にーっ! もってきたー」
「うん! ありがとね、ルルちゃん!」
んー!
可愛い可愛い!
ウィンチに括り付けたカーゴから、素敵な笑顔を浮かべたうちのルルが、背中とか小脇に一杯の装備と食料とを積んで降りてきてくれた。
それを先に底についていた私が迎え入れる。
「ん! 銃よし、重火器類よし──爆薬よし。そして、お菓子とご飯よーーし!」
「よーし!」
荷物をより分けると元気いっぱい、ルルちゃんと拳を突き上げる私──。
「って、よーーーーーーーーし、じゃないわぁぁあ!」
「あ、生きてた」
「生きとるわ!!」
せっかく装備を整えて気分よく冒険に行こうと思ったらこれだよ。
「はぁ、テンション下がるわー」
「こっちのセリフじゃがぁぁあ?! なーんで、人様が埋まっとる横で、巻き上げ機使ってショートカットしたあげく、武器だの子供だのをおろして、あげくお菓子よーし! って……先にこっちを助けんかぁぁ!」
あーあーあー。
うるさい、うるさい。
「うっさないわ! 見て見ぃ、埋まっとるがなー!!」
「はいはい。掘り出しゃいいんでしょー」
ウィンチにぶら下げたカーゴから、スコップを取り出すと、ルーフデスが埋まってる地面に突き立てる。
しっかし、まー見事に人型にズドーンン! と、めりこんでますなー。
こんだけ見事なめりこみ方、昭和のアニメでしか見ことねーわ。
「硬いってのは本当ねー」
よいしょっと。
「あいだだだだー! スコップ、スコップ! 刃先があたっとるわー!」
「うるさいなー。ちょっとくらい我慢しなよ」
誰かさんがキッチリ埋まってるから、
掘るのも一苦労なんだからね。
「お主が突き落としたんじゃからの? あと、そのウィンチどこから出て来た?!」
「工兵器材出したらついてたの。それをチハたんにくっつければほら、簡単! 装備の一貫としてコントローラーで操作できるのだー」
わーははは、勝利!
いぇーい。
チハたんは優秀だぜー。
「なら。最初からそれで降りればよかったではないか」
「やだよ、怖いじゃん」
こんな真っ暗なところ。深海に丸裸で降りるようなもんだよ?
それにウィンチで降りる時なんてめちゃくちゃ無防備だからね?
「その怖い場所に、いの一番に突き落とされたんじゃがのー」
「大丈夫大丈夫。YOUはドラゴン、最強だYO!」
セイ、ホー!
「……こういう時だけドラゴンドラゴンいいよってからに」
「えへへ」
「褒めとらんわ、ったく──……あー酷い目にあった」
ようやく穴から出て来たルーフデスが頭の土を払う。
つーか、マヂで頑丈だなコイツ。いくら硬くても衝撃は防げないと思うんだけど、とくに傷らしい傷もない。
「いや、何を考えとるか知らんが、結構なダメージじゃったからな? 回復が早いだけじゃ!……腹は減るがのー」
「あー……どーりで」
コイツ、カロリーで動く化け物だったわ。
そういや、大砲で撃ちまくったのに、ケロっとしてるもんなー。
「そういうわけで、少しでも悪いと思っとるなら、飯を食わせい。カップ麺でえーぞ」
「はいはい」
まぁ、突き落としたのは事実だしね。
しゃーない、飯くらい食わしたるか。
「えーっと、お湯お湯」
「これー」
お、せんきゅ。
ルルちゃんは気が利くねー。
メガモールで買っておいた魔法瓶でお湯があるので、料理自体は簡単なものだ。
それに、ホームセンターのキャンプセットから野営用のチェアとデスクをだせば、こんな穴倉の底でも立派な昼食会場であーる。
「んー。じゃあ、それとそれとそれとそれと──あと、それとー」
ガサガサと袋を漁るルーフデス。
「一個にしろ、一個に」
遠慮を知らんのか。
「むー。誰かさんのせいで、腹ペコなんじゃが」
「ならこれ喰っとけ」
ぺしっ。
いくらでも出せるチハたんランチの重麺皰じゃい!
「ぬぅ! これ、なんか安っぽいぞ」
やかましわ!
「これ好きー」
「おー、ルルちゃんはいい子だねー。好き嫌いしないイイ子イイ子」
なーでなでなで。
「くっ。なら我もそれでええわい!…………あ、意外と美味いの」
さくさく、ぽりぽり。
「あっそ」
……この世界の食事がマヂで終わってるせいか、乾パンが割と人気でお姉さん、頭抱えそう。
「ま、これはこれでうまいが──そろそろ、こっちもええかの?」
「あんたのは5分。あと二分待ちなっ」
熱湯を注いで5分のうどんと、3分のラーメン。
もちろん、こっちの青と赤のいつものカップ麺は私とルル用でーす。
「これ、大好きー。のーぼーだー♪」
「イエース、ノーボーダー!」
パチーン!
2人でハイタッチ♪
持ってる武器が物騒すぎて、全然平和じゃないけど、気分は平和の大使だぜー。
「はー……度胸だけなら、Sランクじゃのー」
「えへへ」
褒められたー。
つーか、そういやここダンジョンだったわ。
今更ながら周囲を見渡すと、なにやら骨とか一杯……。
でっかいのから、ちっさいのまで様々だ。
「ベヒモスだの、他の魔物の残骸じゃの」
「うげー、それ墓場じゃん」
匂いはしないけど、いい雰囲気ではない。
「獣の王を封印する場所じゃて。そう簡単に出られるようなものではなし──まるで魔物の蟲毒のような場所じゃの」
あー、だからここに封印したのかな?
本当に伝説通りに封印されてるかは知らんけど。
「なんか、悪意を感じるダンジョンだねー」
「そうでもせんと悪意と敵意と殺意をばら撒くんじゃろうて」
「ふーん」
ずるずるー。
そんな場所でカップ麺を食ってる私たち。
いや、魔物がいないからわりと油断しまくりなのですわ。
「ま。一応、ざっと見た感じ、骨ばっかだし、なんもいなくね?」
伝説のSランクダンジョンにしてはしょぼい。
異常の有無の調査なら、これで十分だろう。
とりあえず、スマホで写真とって、証拠としていくつか骨持って帰ればそれでいいかな?
「そんなわけなかろう──ほれ、お客さんじゃぞ」
そう言うなり、ずずーっと、うどんを一気に食うと、最後に残ったスープも豪快に飲み干したルーフデスが口を拭って立ち上がる。
「客ぅ?」
そして、言われるままに広い穴の底の一点をじっと見つめると──……げっ、マヂでなんか来た。
「ふんっ。腐ってもSランクダンジョンじゃ、のんびりラーメンを食える場所ではないわ」
「いや、お前が食わせろって言ったんだからね」
ったく。
まぁ、これだけの骨が散らばってるんだし、魔物の一匹や二匹は当然いるわな。
「もっとも、一匹や二匹じゃないってのがなー……」
まいったね、こりゃ。
さすがはSランク相当のダンジョンってとこかな。
「何匹いるかしらないけど……。闇に隠れても無駄だよ」
──カチャッ。
そう嘯くと、腰の武装に手を伸ばし真上に構える。
そこそこ、明るいとはいえ、穴倉の底は陽の光が届かず薄暗い。
おまけに大型の魔物の骨も散乱しているので、そこかしこに闇だまりがあって死角だらけ。
なので払う──。
手にした武器を空に向けて……撃つ。
パーン……!
「おほっ! あっかるいのー」
ツナギのポケットから出していたのは十年式信号拳銃だ。
「照明弾だよ。しかし、参ったね」
そいつを頭上に向けて撃てば、周囲の闇を払う照明弾がキラキラと真昼の様に瞬いた。
すると、いるわいるわ。
気配からして一匹や二匹ではないと思ったけど、これはこれは……。いやはや。
「な〜るほど。Sランクダンジョン、ゴルドの大穴。その洗礼ってわけね」
「そういうことじゃな」
まいったなー。
今、チハたんないんだけどー。
闇の奥から現れたのは、不気味な影。
それも、やっぱり一匹や二匹ではない。
ひーふーみー……うん、数えるのもゾッとするね!!
「だーけーど、上等ぉぉ!」
ルル!
「あーい!」
まだズルズルとカップ麺を啜っていたルルであるが、私が合図をするなり、素早く立ち上がり、背後に回る。
それを見届けると、私はキャンピングテーブルをドガァ! と蹴飛ばし、それを即席のバリケードとする。
あとは──!
「持ってきたー」
「よーし、脚の位置、その位置ぃぃい!」
ズシーンッ!
「あい!!」
デッカイ重量物を軽々担いだルルがそれを躊躇なく据え付ける。
そして、開いた手で箱をズルズルと引っ張ってくるとぴったり私に寄り添った!
「さーて。ルーフデス、あれはなに?!」
「あーん?……お主らでいうところのAランクモンスター『オルトロス』じゃな」
オルトロス……。
双頭の犬か!
「どーりで!」
不気味で可愛げがないわけだね!
「犬は嫌いじゃないけど、アンタらは別ぅ!」
低く唸る化け物犬を遠目にしつつ、
クルクルクルと、ルルが据え付けてくれた重量物──九二式重機関銃の上下クランクを操作し、射撃位置の微調整を済ませる。
あとは──!
「おらぁぁああ!」
先制攻撃で必勝じゃぁあ!!
ドゥドゥドゥドゥドゥドドドドドドドドオオオオ……!
まずは、
撃つべし撃つべし撃つべし!!
ドドドドドドドンンン……!
「撃つべーーーし!」
『『ギャィーン!』』
はっはー!
なーにが、キャインだ、その面でいっても全然可愛げがないわー!!
しかし、銃弾が効くのはいいことだ!
7.7mm機銃弾が面白いくらいに奴等を撃ち滅ぼしていく!
「油断するな! あれは群れたときが一番厄介じゃ!」
「でしょうね!」
すでに数匹が連携しつつ死角を伝って回り込もうとしている。
ここゴルドの大穴の底は、平らな盆地のような構造だ。
しかし、平らなのは地形だけで、そこかしこに骨が散らばっていて障害物多数、つまり見通しは最悪だった。
そして連中はそれを熟知しているうえ、
──コイツ等、結構タフだ!
「にゃろー! 一発や2発じゃ、平気な顔してやがる!」
「二つの頭、二つの心臓じゃ──並みの攻撃では致命傷が与えられんと思え!」
「上等ぉ!」
ルル、再装填!
「んー!」
ガコッ!
木箱を開けたルルが引っ張り出したのは、7.7mm機銃弾が30発詰まった保弾板だ。
それを重機関銃が撃ち尽くす前に添えて、間断なく補充していく。
その余勢をかって重機関銃を小刻みに左右に振って、突っ込んでくるオルトロスを打ち倒していくのだー!
よーし、数は多いけど、こっちは重機関銃だよ。
これなら十分に対処可能……!
「あー。回り込んでくのはどうする? 我も加勢するぞ」
「いい! つーか、アンタはひっこんでな!」
信用ならない奴を戦闘に加入させるほど、私はおちぶれちゃいないよ!
「し、しかしのー」
「いいの! そんで、回り込んでこようが上等!」
最初から、それが狙い──……!
「ただ、正面にきた奴を撃ってるかと思ったかい? 残念……!」
それは、
キルゾーンに誘い込んでるだけだよ!
「──チハたん、ってーー!!」
ドゥン!!
ドゥン!!
『『ギャィーーーーーーン!!』』
「んあなぁぁ?! 頭上からぁ?!」
「あっはっは! みーたかぁ!」
ドーン!!
ドーン!!
ドーン!!
オルトロスどもの真上でさく裂音!
直後、地面が爆裂し、障害物の骨とともに連中が爆散していく!
「これがチハたんからの援護射撃じゃー!」
「そ、そうか、遠隔で──」
そーいうこと。
戦車であって戦車にあらず、あれは私のスキルだ。
しかも、コントローラーで動かせる優れもの。
だから、上で待機させてても、こういう芸当ができるってわけ!
「なので、重機関銃で死角に逃げ込んだ奴だけを狙い、あとはチハたんのキルゾーンに誘い込めばこっちの勝ちってわけー」
「し、しかし、まだまだ来るぞ!」
「見えてるよ!──……うん、連中が来るのはあそこっぽいね!」
どうやら本当に横穴があったらしい。
ぽっかりと開いた暗い洞の中からは、続々と魔物が這い出して来る。
オルトロス、首狩り兎に大ムカデ──! ひゅー、マジで蟲毒じゃん!
「だったら根元から絶ーつ!」
ドゥドゥドゥドゥドゥドドドドド──!!
オルトロスの猛攻を重機関銃の掃射と、チハたんの援護砲撃で仕留めた後は、モグラたたきに移行だ。
敵が沸いてくる洞に向けて全力射撃を続ければ、そのうちに魔物の勢いが衰え始めた。
しめた!
無限沸きだとしても、必ず波はある。
最初の大漁出現はもとより溜まっていた魔物が押し寄せただけ──つまり、しばらくはリポップからの逐次投入になるに違いない!
そこを……!
「ルルっ! 援護よろ!」
「んっ!」
ジャキッ!
重機関銃座を離れた私を、ルルが少し離れた位置で援護射撃の姿勢に移る。
重機関銃の保弾板を投げ捨てたかと思えば、近くに据えていたいつもの九七式車載機関銃を腰溜めに構える。
この子には使い慣れた武器。
その動作に不安は一切ない。
なので──……。
「うぉらぁっぁああああ!」
ドゥン、ドゥン、ドゥン!!
頭上からのチハたんの援護砲撃と、地上からのルルの水平援護射撃を受けた私は一気に肉薄。
まるで銃撃と砲弾の絨毯を歩むがごとく、
援護射撃と砲撃の水先案内を受けながら──魔物が湧く、洞に向かって突撃すると、持ち出していた工兵器材を器材をまっすぐに構える。
それは器材重量20キロ、燃料を含めれば総重量47キロにも達する、工兵が持つ最大火力──。
射程、15メートルで、連続照射時間は10秒程度という一撃必殺兵器。
そう!
百式火炎放射器!!
そいつをぉぉぉ……魔物が出てくる洞に向かって放てば、決まって出てくるのはあのセリフ!!
「汚物は消毒じゃぁぁぁあああああああ!」
キュバァッァアアアアアアアアアアア!
キュバァァァアアアアアアアアアアアアア!
『『『ピギィィィイイイイイイイイイ?!』』』
直後、凄まじい悲鳴がゴルドの大穴に響き渡る。
どうやら、魔物の群れがのたうち回る悲鳴がダンジョンを揺らしているようだ。
そればかりか、聞いたこともない大音声と聞き覚えのある咆哮が奥から響いて来た。
「おっほ! 凄い火力じゃの! そして、奴がきおったかー!」
『グルァァァアアアアアアアアアア!』
ちぃぃ!
この声は……。
ズシンズシンズシンッ!!
「──ベヒモスきたかぁぁああ!」
どうやら、調査クエストは大成功。
異変は確実。
体中を燃やしながら、炎を物ともせずに、異変の代表格たるベヒモスが出現したー!




