表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

第5話 失意の先に・漂泊の海を越えて②

 月の塔最上階。

 それまでの道のりはやけに静かで、ただひたすらに階段を上っていくだけだった。

 阻むものは何もない。使い魔の類も、罠でさえも、何もなかった。

 この先から漂う魔力のさざ波は、まるで俺がこの場所に招き入れられたかのような錯覚さえ覚える。

 カツカツカツ――

 石の階段を上り切った時、そこに広がっていたのは円状の大部屋。

 天井は高く、十数メートルはあるだろう。

 等間隔に建てられた柱は何かの生き物を模したようで気味が悪い。その間からは外の景色が広がっている。

 ずっと過ごしてきた大切な人たちの住む街が、今は魔霧が蔓延る白い海と化している。

 星座も魔術発動まで、一刻の猶予も残されていないのだ。もう立ち止まっている余裕はない。

 階段から上がってきた俺とは真反対の位置に奴は佇む。

 エレナを攫い星座の魔術を完遂させようとする魔術師、ユリウス・シルヴィオの姿が月明かりに煌々と照らされる。


「待っていたよ。……とは言うものの、まさか君がここに来るなんてね。君はあの時、確かに戦意を喪失したはずだ。そんな君が今こうして俺の前に現れるとはね」


 ユリウスは不気味なほどに唇を歪ませる。俺がここに現れることに対して疑問を持つ以上に、期待して待っていたかのような口ぶりだった。


「ユリウス。エレナをどこへやった」


 その問いに、ユリウスは「天井を見てみなよ」と天を指さし答える。

 遥か頭上のそこには立体的に彩られた結晶体が広がっていた。まるでステンドグラスのように様々な色を映し出している。

 だがそこにあるのは美しさでもなんでもない。禍々しいほどの醜悪だ。

 結晶体の形状は様々種類の動物だ。ただし普通のものではなく、その全てが人間の身体と融合している。

 それがどのような意味を持っているのかは見当もつかないが、ユリウスの心象を映し出したものには違いないのだろう。そこに芸術品特有の人間の温かさというものの一切を感じられない。

 俺の反応を待たず、ユリウスは自慢げに続ける。


「美しいだろ。今まで創り上げた作品の中でも、これはかなりの上位に当たるだろう。そして、君の大切な妹はほら、この中さ。人間であろうとする彼女が無慈悲にも化物の意識に侵食されていくその恐怖に抗う。そんな彼女をイメージして創り上げた最高の牢獄さ」


 その言葉に、はっと吐き捨てる。


「俺からしたらこの作品は解釈違いの駄作だな。エレナはおまえが計れるようなやつじゃない。おまえが想像するほど弱いやつじゃない」


 右腕に力を込める。魔力を纏わせ逆巻く炎。

 その拳をユリウスに突き出して宣言する。


「だから、俺はエレナの未来のためにおまえを潰す」


 くくく、と笑うユリウス。その感情の昂ぶりは言動にも現れる。


「今もなお、こうして彼女のために戦うか。なかなかにそそられる展開だ。囚われの妹を想い、兄が奮闘する。ああ、まさに正道。まさに王道。そうだよ、そうでなくちゃあならない。だが、何が君を変えたんだい。何が君を突き動かせたんだい。ただ開き直った訳じゃあるまい。失意のその先に得た想いを、よければそれを教えてくれないか」

「不思議に思うか、ユリウス。だったら俺を倒してから無理やり聞き出すことだな」


 ずっと抑え続けてきたこの俺の中に騒めくこの感情。

 罪悪感?

 当然それはある。むしろなければ問題だ。

 だけど違う。違ったんだ。

 この俺の中にある一番の感情は、ただの憧れだったんだ。

 エレナの優しさに。ジルの信念に。

 そして、ティアやネロの在り方に。

 俺は弱かった。力も思いも、何もかも。

 俺もあいつらのように在りたい。

 俺もあいつらのように自分の行動を誇りに思いたい。

 だから、俺は今この時をもって過去の不甲斐ない自分を燃やし尽くそう。

 もう決して外に出さないように。

 そして、この身に焼き付けよう。

 もう決してこの気持ちを失わないように。


「さあ、終わらせようかユリウス。この醜悪な魔術儀式の一切を、俺の炎で焼き尽くしてやる!」



          ◇



 太陽の塔最上階。

 それまでの道のりはやけに静かで、ただひたすらに階段を上っていくだけだった。

 阻むものは何もない。使い魔の類も、罠でさえも、何もなかった。

 だがこの先から感じる邪悪で強大な魔力の存在が、まるで首を落とされるために処刑場に上っているのではとさえ錯覚させてくる。

 カツカツカツ――

 石の階段を上り切った時、そこに広がっていたのは円状の大部屋。

 天井は高く、十数メートルはあるだろう。

 等間隔に建てられた柱は何かの生き物を模したようで気味が悪い。その間からは外の景色が広がっている。

 普段なら街灯りに輝いていたところだろうが、今は真っ白な魔霧の海が広がっているだけだった。

 階段から上がってきた俺とは真反対の位置に奴は佇む。ハルリスの街を絶望に追いやり星座の魔術を完遂させようとする魔術師、ジェイン・グレーザーの姿が月明かりに煌々と照らされる。


「――そうか、ここに来るのは君の方だったか」

「ロイドでなくて残念だったか」

「ふん、私はあの少年に何かを求めていたわけではない。むしろ君を相手にすることの方が当然の帰結と言えよう。そうだろ、君の敵はこのハルリスを脅かす存在だ。だったらこの私こそが君の相手に相応しいのでは?」

「言ってくれる。俺だってそうだ。相手にするならユリウスよりあんただってな。ユリウスは言ってしまえば指示されて動く部下のようなもの。だったらこの計画を裏で操るあんたこそが俺の相手に相応しい」

「それが分不相応だとしても? 君は湖の神殿でユリウスと相対したそうだが、最後には彼の力の前に屈したらしいね。自分で言うのもなんだが、私はそのユリウスよりも上だよ。恐れはないのかい。それでも立ち向かうのかね」


 ジェインの挑発にジルは動揺の一つも見せはしない。

 だが、恐れはあった。

 今すぐにでも逃げ出したくなるくらいに。

 けれど、それはジルの覚悟が許さなかった。


「俺は俺の道を行くだけさ。もう前置きなんていらないだろ。さっさと沈めよ、魔術師!」


 目の前の敵を前に退きはしない。仲間を傷つけた悪はこの手で倒す。

 そんな確固たる意志を持って、ジルは遥か高みの魔術師に相対する。

 ジルは己の体内の魔力を最大限に活性化させた。

 背後に生み出すは五つの機銃。そして一つの大剣を構える。

 対してジェインは不敵な笑みを浮かべる。


「それでいい。私に仇名すものはやはりこうでなくてはならない。それでは始めよう。まずは小手調べだ。私に直接相手をしてほしいのなら、この魔獣を退いてみせるがいい」


 ジルには一片の猶予も与えられない。

 ジェインが柱の陰に潜ませていた機械の獣五体。それらが同時に地を駆ける。

 鋭い爪が、牙が、容赦なくジルに襲い掛かった。



          ◇



 開幕の合図などありはしなかった。

 両腕に炎を纏わせ、ユリウス目掛けて猛進するロイド。

 まずは一撃、とロイドの炎拳がユリウスの顔面目掛けて奔る。

 対してユリウスは一歩も引きはしない。

 正面から立ち向かうように両腕を広げてその手に冷気を纏わせる。そこを中心に現れた二つの氷塊。それは瞬時に別の形態に変化していく。


「まずは小手調べだ。君はこれについてこれるかい」


 ユリウスが変化させた両手の氷はどちらも身の丈ほどはあろう長剣へと形を成す。


「――っ!」


 ロイドの炎拳がユリウスを襲う。しかしそれはユリウスに届かず、左の氷剣一本でいとも簡単に防がれた。


「――うおおおッ!!」


 ならばとロイドは炎の火力を更に上げる。それでもユリウスの氷が溶ける気配は見られない。


「おいおい、その程度なのかい。これじゃあこの地の霊獣も振り向いてはくれないぜ」


 そしてユリウスは反撃に移り、残った右の氷剣でロイドの身体を横薙ぎにする。

 だがロイドもそう易々とはやられない。その一薙ぎもロイドの残った左の腕で防御される。燃え滾る炎が氷剣の勢いを消失させロイドの腕を守ったのだ。


「あんたもその程度か。そんななまくらじゃ俺は切れないぜ」


 とは言うものの、それはロイドの虚勢でしかなかった。

 繰り広げられる鍔迫り合い、たった数合の力比べでも理解できた。正面からの力比べでロイドはユリウスに敵わないと。

 次の手を打つためにその場を離れるためにロイドは脚に力を込める。

 その瞬間、――


「頭上注意だ。あまり油断はしない方がいいねぇ」


 打ち合いのなか、空中に配置された複数の氷の刃。それらがロイド目掛けて一直線に降り注ぐ。

 後方に跳ぼうと行動に移していたのが幸いし、スッと刃がロイドの目前をすり抜け地面を切り裂く。


「――くっ」


 間一髪のところで不意打ちを避けたロイドは、ユリウスから数メートル離れた位置まで退避する。

 しかし逃げるだけではユリウスにロイドを倒す機会を与えるようなもの。

 ロイドは着地し姿勢を落としたまま、右腕の炎の火力を上げ一閃する。


「燃えろッ!」


 瞬時に次手に移行する。たとえ無駄打ちになる可能性があろうとも、決して攻撃の手は止めない。

 その言葉と同時にロイドの身体を中心にした扇状に炎の波を発生させる。

 避ける場所を与えないほどの広範囲攻撃。

 それでもユリウスは、やはり一歩も動じない。

 右手を前に突き出し呪文を紡ぐ。

 炎の波がユリウスを飲み込むその刹那、ユリウスの目前の炎に大穴が穿たれる。

 それはドリルのように高速回転した氷槍によるもの。槍の速度は炎を突破しただけでは衰えることなく、直線上にいるロイドの身体を狙う。

 防御と攻撃を同時に行ったユリウスに、ロイドは若干の狼狽を浮かべた。


「こんなこともできるのかよ……」


 咄嗟に横に跳び、その氷槍を避ける。すかさず反撃に移ろうとユリウスに視線を戻すと、


「な、――」


 不意の驚愕に声が漏れる。

 数メートル離れた位置にいたはずのユリウスが気が付けばロイドのすぐ目の前にいるではないか。


「はああッ!!」


 ユリウスは精製した巨大な戦斧を振り、ロイドの身体を今にも引き裂かんとする。

 炎の壁で防御するも、その勢いを相殺しきれず吹き飛ばされたロイド。その身体は部屋の端にそびえる柱の一つに直撃し、そのまま柱が崩れて砂埃をまき散らす。


「おいおい、ロイドくん。さっきの意気込みはどこに行ったんだい。しかし君のことだ。まだまだ秘策はあるんだろ」


 呆れるように、しかし期待をもって。決して油断はせずロイドの次の行動に備える。


「――だったら見せてやるよ。あんたを潰す策はまだ尽きちゃいない!」


 その言葉を合図に、砂埃が魔力放出による漆黒の渦に掻き消される。

 痛みに軋む身体に鞭打ち、ロイドは炎の魔力を消失させ代わりに別の魔力を顕現させた。

 その右手の上から放たれる強く黒い光。続けて光が弾け、禍々しい雰囲気を漂わせた『鎌』が顕現する。

 同時にロイドの髪が漆黒からみるみるうちに白銀へと変色を始めた。


「へえ、それが君の持つ二つ目の属性、幻属性の力か。また味わい深いものを見せてくれるじゃないか。いいねえ、炎の時と比べて応用性はなさそうだが力の度合が桁違いだ」


 ユリウスは戦斧の形状を一本の氷剣へと変化させる。

 ロイドはユリウスの言葉など他所に、地を駆けユリウスに迫る。

 大鎌による連撃はユリウスの大剣に劣ることなく、次第にユリウスの脚を後退させる。

「しかし、大鎌ねえ。それにその髪の色。まるでジェインさんの魔術みたいだ。数年前に力を分け与えたとは聞いていたけれど、まるであの人と対峙しているようだ。

 だが残念なことに些か実力不足だね。君はあの人にはとどかないし、決して超えれはしない」


 ユリウスの大剣が再びロイドを粉砕せんと奔る。

 対いてロイドは跳躍して避けると同時にユリウスの頭上を飛び越え、背後の壁に着地する。


「うるさい、あんなやつと比べるな。俺はあいつとは違う。この魔術も、この戦術も、全ては俺の意志なんだ」


 真上からロイドは大鎌を振り子のように振り下ろす。

 ユリウスは氷剣を振りぬいた勢いでその動きを硬直させたまま。

 今まさに首を切り落とさんとするその容赦のない一撃がユリウスを襲う。


「終わりだ――!」


 しかし、ユリウスの表情にはまだ余裕の笑みを残したまま。


「――まだまだ、それじゃあ俺を殺すには全然足りない」


 ザクッ、と嫌な音が響く。

 真っ赤な血しぶきが宙を舞い、床のレンガに付着した。


「――え、――?」


 そう声を発したのはロイドの方だった。

 クク、と嗤うユリウス。

 ロイドは何が起きたのか理解できないまま、地面に身体を打ち付けた。

 左の腕と脇腹から感じる激痛。そこからはじわじわと朱い血が滲み出る。


「……何が、起こったんだ」


 見上げると、ユリウスの頭上の壁から巨大な氷の棘が突き出していた。

 その棘の先には朱い液体が付着している。ぽたぽたとその雫が落ちるたびに床の色が変化し広がる。

 赤ではなく、薄黒い緑のような波紋に。

 ロイドの策はすべて読んでいた、とでも言うかのようにユリウスは次の手を講じていたのだ。


「注意が足りないねえ。頭上だけでなく足元ももっと見ないと――」


 しかしそれは――

 斬ッ、とユリウスの耳元で風が吹く。

 突如感じた激痛に、ユリウスの思考は強制的に停止させられる。

 目の前で倒れ伏しているロイドのみに集中させていた視線を自分の周りに移すと、そこに映るのは自分の身体を貫いている黒い影のような何か。


「――だったらあんたはもっと周りを見ないとな」


 ロイドの策がユリウスを脅かす。

 ユリウスの足元から、背後の壁から、いくつもの大鎌が浮かび上がりユリウスの身体を貫いたのだ。


「――な、に……!?」


 ロイドの魔術、大鎌の精製は決してロイドの手にしか生み出せないわけではない。ロイドの魔力が届く範囲でならどこにでも、魔力が続く限りいくつでも生み出すことが可能だった。


「ここまでだ、ユリウス。もう身動きが取れないだろ。エレナを解放するっていうのならこれを解いてやってもいいぜ。痛いだろ、苦しいだろ、治してほしいだろ。なあユリウス、どうなんだ――!!」


 ユリウスは答えない。

 むしろ、答えられないのか。

 ユリウスの目は焦点が合わず、どこを向いているのかさえ分からない。

 傷口のいたるところから血液が流れだす。

 失血により意識が朦朧としているのか、口に出す言葉もはっきりとしない呻きとなっている。

 もうユリウスは終わりだ。

 ロイドは治癒魔術で自分の傷を塞ぎ立ち上がる。完全な治癒とはいかないが、応急措置にはなるだろう。

 このままユリウスの首を刈ればすべてが終わる。躊躇はしない。あの時のように戦う相手を気遣うような感情は一切抱いていない。

 やれる。今ならばこの手で確実に。

 ――そうロイドが行動に移した瞬間だった。


「――くく、…くは……くははは、ははははははッッ――」


 気の狂ったかのように笑いだしたユリウス。

 そこに伴うのは明らかなる殺意。

 目の前の男は再び魔術を行使した。その魔力は今までに感じたことのないくらいの力をもって現出する。


「そうだ、これだ。これを待っていたんだよ。俺を殺せる力を持っていながら、同等の力を持っていながら、ジェインさんも、ルークも、プリシラも、本気でやり合うことはなかった。俺の実力を試せる機会がなかった。

 だが、やっと巡り合えた。これが本気の死闘だ。待ち望んでいた戦いだ。もう我慢する必要はない。力を抑える必要もない。さあロイド、俺にもっとおまえの力を見せてくれッ――!!」


 獣のような咆哮と共に、ユリウスの身体が崩壊する。

 そして、その地点から爆発するように白い霧が放出された。


「――くっ、何を……」


 周りの全てを覆い隠す白い霧。

 しかし、その霧が止むのには数秒もかからなかった。

 止んだというよりは別の形に再構築されたような現象だった。

 形を持たない霧は、次第に凝縮され、引き伸ばされ、一面に張り巡らす何本ものワイヤーへと変化する。

 その上に立つ影。それはつい先ほど砕け散ったユリウスだ。


「これは……」


 精製された氷のワイヤー。それはユリウスの新たな足場と化す。

 ワイヤーを滑るように立体的な移動をする様は、まるでフィギュアスケーターのような華やかさをも感じさせた。


「さあロイド。第二ラウンドといこうか。果たして君はこれにはついてこれるかい? いいや、ついてこられないと困るんだよ!」


 その移動速度は先の戦闘とは比べ物にならないくらいのものだった。

 目でとらえるのがやっと。ロイドの目にユリウスは残像しか映らない。

 正面に捕らえたかと思えばすでに視界の外にいる。


「くそっ、どこに行った――――ぐぁ!!」


 突如、ロイドは右腕に激痛を感じる。見れば自分の腕は氷の塊に覆われていたのだ。何が起こったのか、何故自分の腕が凍っているのか、突然の出来事に理解できずにいた。

 しかし、そうなるのも当然。

 ユリウスはその戦術をジルと戦った時から今まで見せたことのない全く別のものに切り替えていたのだ。

 ユリウスの両手には視覚化できるほどに凝縮された魔力が込められている。白い冷気を発し続けるそれは、触れたものを瞬時に凍結させる兵器と化していた。

 高速で滑走するユリウスは続けてロイドの左腕を狙う。

 ただ一度でも触れられれば終わり。右腕のように氷漬けになることは言うまでもない。

 だが、ロイドも簡単にやられるわけにはいかない。

 何とかとらえたユリウスの位置。そこからの攻撃を防ごうと大鎌を出現させ振りぬく。

 しかし動きを正確に捉えないままに放った攻撃が当たるはずもなく、ユリウスは身体を反らすだけで回避した。


「残念、外れだ」


 そのままユリウスは掌でロイドの身体の一部に触れ、そして瞬時に空中まで退避する。


「ぐッ――」


 またもや激痛を感じたロイド。

 一歩遅れ反射的にその場を離れようとするが、足が地面に縫われたかのように動きを束縛されていた。

 痛みに霞んだ目で確かめると、そこには膝の上まで凍り付いた自分の左足があったのだ。


「――――ッ!?」


 右腕に続き、左足の感覚を失ったロイド。

 今すぐに炎で溶かさなければ――

 と思考が働くも、今のロイドには炎の魔術は使えなかった。


「そう。君が幻属性の魔術を使う時、炎の属性は一切使えなくなる。そして君はその状態を自分の意志で解くことはできない。これが君の最大の弱点だ。どのようなやり方でもいい。どの部分でもいい。君が幻属性を操る状態で一度でも凍らせて動きを封じてしまえば、その時点で君は終わりだ」


 背後から声が聞こえる。

 しかし身体が思考に追いつかない。

 それでもなんとか振り返ろうとしたその刹那。


「さあ、眠るがいい。この氷牢の中で安らかに」


 そして抵抗する間もなく、ロイドの意識は真っ暗な闇へと突き落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ