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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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異国の街歩き

ありがとうございます!


   ◇ ◆ ◇


 オアシスの周囲に形成された王都に来るのは、サマートル騎士国に足を踏み入れて以来、およそ二週間ぶりだった。

 大規模な水源があるおかげで、街はいつでも賑わっているらしい。交易の地でもあるため、店先には様々な商品が並んでいる。

 色鮮やかな布地や、怪しげな壷や人形。イモリの干物を凝視していれば、客と勘違いされるからとイスハークに無理やり引き剝がされた。

 共に行動しているのはイスハークと、侍従のカシムとラシドのみ。瘴気に近付くため、戦闘の心得があるとはいえ侍女は置いてきていた。

 黒いアバヤで全身を覆う女性もいるが、要のようにヒジャブで軽装する女性もいた。黒や白のヒジャブの下には翡翠色や珊瑚色のドレスをまとっており、熱帯の花々を連想する。

 シュマッグを頭に巻いた男性は、くっきりした顔に厳めしい髭を生やした者が多い。裾のゆったりとしたカンドゥーラは白色だ。

 友人とおしゃべりに興じる者や、座った体勢のまま居眠りをする老人。雑踏を形成する人々は、魔物の脅威にさらされていると思えないほど平和的だ。

 要に、彼らの生活を守れればいいのだが。

「なぁ、カナメ。あそこの屋台の肉がうまいんだぞ。香辛料がたっぷりかかっているんだ」

 イスハークが要の腕を引いて歩き出す。

 自然と楽しい街歩きをはじめそうになり、慌てて踏みとどまった。

「ちょっと、買い食いしてる場合じゃないでしょ。まずは郊外がどんな状況なのか見て……」

「郊外の民については心配ない。早急に王都への避難を進めていたから、もう誰も住んでいないんだ。この辺りに魔物が出没したことはないから、少しは肩の力を抜いていいぞ」

「その油断が命取りなんだけどね……」

 強引に引きずられているせいで、既に屋台が近い。食欲を刺激する香ばしい匂いにつられ、要はつい店先を覗き込んだ。

 店頭に並ぶのは串に刺さった鶏肉。大量の黒コショウがまぶされており、流れてくる煙まで目に染みるほどだ。辛いに決まっているのに、滴り落ちる鶏の油を目にしてしまえばゴクリと喉が鳴った。

 ――郊外に人がいないなら……万が一シナリオ通りのことが起こっても、大丈夫だよね……?

 確かに調査は大切だが、彼の言う通り少しくらい警戒を緩めてもいいかもしれない。

「……まぁ、こんなに散漫になってちゃ、調査もなかなか進まないでしょうしね。腹が減っては戦ができぬとも言うしね」

「いい言葉だな。それを言い出した者とは仲良くなれそうな気がする」

「どうせこぶしで語り合うんでしょ」

 軽口を叩き合いながらも、屋台の店主に肉串を二つ注文する。

 侍従達の分もと思って振り返れば、無言で首を振られてしまった。

 これはおそらく例によって、イスハークと聖女をより親密にさせようという作戦に違いない。パルクールでの完全勝利にあれほど引いていたのに、友でもある主人の相手が本当に要でいいのか。

 彼らが一生懸命気配を潜めれば、目論見通りデートをしているような感覚になったかもしれないが、ゴリゴリの巨躯が二つ並んでいるのに無視できる強者などいるだろうか。そもそも重要な役割があるというのに恋愛を楽しむ余裕はない。

 何とも言えない気分になりながらも、差し出された肉串を受け取る。

「ありがとう。悪いけどこっちの世界の通貨なんて持ってないから、図々しく奢られるわよ」

「聖女様に金銭を求めたなんて知れたら、俺が親父殿に吊るし上げられる」

「吊るされるの⁉」

 不穏な単語にギョッとする要をしり目に、イスハークは早速鶏肉にかぶり付く。

 特にマナーは必要ないようなので、彼を真似て熱々の串を一口。プリっと弾力のある肉を頬張った瞬間、口内に鶏の肉汁と旨みが広がっていく。シンプルな塩と黒コショウのみの味付けが、鶏そのもののおいしさを引き出している。

「う~ん、舌が痺れるほど辛い! 最高!」

「この辺りは香辛料が採取できて、他国との貿易の主軸にもなっているんだ。量自体は多くないがな」

 歴史でも、かつて香辛料は同じ量の金と取引されていたと聞いたことがある。ここは蒸気機関車も発明されていない世界観、他国との往来もさぞ骨が折れるだろう。

 やはり中世くらいの設定のようだと冷静に考える要を見下ろし、イスハークはニッと笑った。

「どうだ? カナメにも、我が国が誇る香辛料を思いきり味わってほしかったんだ」

 子どものように無邪気で自慢気な笑みは、彼が国に傾ける愛情の深さを如実に表している。

 口では脳筋だと笑っているものの、民を守るために剣の腕を磨くほど国を大切に思うイスハークを、要は密かに尊敬していた。

 普段の脳筋な行いを見ていると、とても伝える気になれないが。

 カシムとラシドの術中に、すっかり嵌まってしまったのかもしれない。間近にある精悍な笑みが、やけに魅力的に映る。

 要は照れ隠しに肉をかじり、憎まれ口で答えた。

「……王宮での食事で、いつも満喫してるわよ」

「王宮の味付けはお上品だろ? こういう肉の臭みを誤魔化すためにたっぷり香辛料を使った代物は、城下でないとなかなか出会えない」

「それ、店先で言ったら怒られるやつ」

 案の定店主に睨まれており、要はイスハークから素早く距離をとった。

 頭を叩かれながらへらへら笑っている王子は、城下での目撃が珍しくないのだろう。通行人達も微笑まし気に見守っている。

 民を愛し、民に愛される、自由な第十二王子。

 眺めているだけで要の口元も自然に綻んでいた。


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