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クソゲー世界の聖女になってしまったようです。

本日、小説家デビュー4周年を迎えました!


ひとえに読者の皆さまのおかげです!

感謝の気持ちをお伝えしたく、久々に新作小説を書き下ろしてみました!!

少しでも楽しんでいただければ幸いです!


(書きかけ小説も亀の歩みで執筆し続けておりますので気長にお待ちいただければ!!)


 四人のきらびやかなイケメンが、こちらに手を差し出すさまは、圧巻としかたとえようがなかった。

 固く編み込んで肩から流した黒髪と、黒曜石のような瞳。中東風の衣装に身を包んだ、小麦色の肌の精悍な青年。

 腰まで届くつややかな銀髪と、琥珀色の甘い瞳。純白の僧服を着た、中性的で繊細な面差しの少年。

 後ろで一つにまとめた黒髪に、怜悧な漆黒の瞳。中国の漢服が似合う涼やかな美貌の青年。

 白金の髪に、縁なし眼鏡の向こうにある淡い青の瞳。いかにも西洋の高位貴族といった格好をした、神経質そうな美貌の青年。

 まるでスチルだ。

 ――え、え、え。というか、これ本当にスチルなんじゃない?

 そう思い至った瞬間、堀内要は卒倒した。

 けれど、倒れてしまってかえってよかったのかもしれない。


 もし考えなしに誰かの手を掴んでいたら、どこかの国が滅亡するところだった――……。


   ◇ ◆ ◇


 目を覚まし真っ先に視界に飛び込んできたのは、白い天蓋だった。

 精緻な蔓草模様が全体に彫刻され、随所に金が散りばめられている。まさに絢爛豪華、お姫様のためにあつらえられたものだ。

 おかしい。目が覚めたはずなのに、現実に戻っていない。

 要はしばらく現実逃避のため美しい模様を鑑賞していたが、諦めてのろのろと右手を持ち上げた。

 手の甲を確かめると、小さな鍵の文様がある。つい先ほどまでは決してなかったのに。

 ――あぁー……やっぱり……。

 絶望しかない。

 これは、この世界では聖紋と呼ばれ、聖女にのみ顕れるとされている。

 聖紋を持つ者は聖女の屋敷にある『絆の扉』とやらを開くことができ、周辺四ヶ国の王宮を自由に行き来できるようになるのだ。

 聖女の屋敷は、四ヶ国が接する禁足の森の中央に位置している。先代聖女の聖廟もあり、本来ならたとえ王族だろうと立ち入りは許されていない。

 にもかかわらず先ほど四人の男性がいたのは、聖女召喚が行われたからだ。彼らは禁足の森を囲うように存在する、四ヶ国の代表だった。

 それぞれサマートル騎士国、セントスプリング国、秋華国、ウィンターフォレスト王国という。

 現在は険悪な関係にある四ヶ国だが、聖女の前での争いはご法度。これは、四ヶ国全ての国祖と親交があったという、先代聖女が作った取り決めらしい。先代聖女と国祖達は、当時世界中をはびこっていた瘴気を、力を合わせて浄化したのだとか。

 けれど千年が経ち、再び四ヶ国の各地に瘴気が発生しはじめたことを機に、新たな聖女が召喚される運びとなった。

 現在の状況――それに当てはまるのは要だ。

 そしてなぜここまで詳しいのかというと、これが乙女ゲームの世界だから。


『ロイヤル♡ラブウォーズ』


 タイトルでお察しの通り、乙女ゲーム……しかも大炎上したクソゲーだ。

 絵師も声優陣も豪華で、発売前はいい意味で注目を集めていた。要も発売初日に入手し、前情報なしでワクワクしながらプレイした口だ。

 攻略対象は、反目しあう四ヶ国の王子達。

 このゲーム、ルートの分岐は冒頭にある。

 聖女の屋敷で目を覚ましたヒロインは、四人の美麗な男性に囲まれ、わけが分からないままその内の誰かの手を取るのだ。

 他の攻略対象に言い寄られることはほとんどなく、たった一人と純愛を育てていく珍しいストーリー展開。はじめたばかりの頃は物珍しさしか感じなかった要も、息もつかせぬ展開や素晴らしい構成に、次第に引き込まれていった。

 数ある攻略対象から誰を選ぶか悩むのも乙女ゲームの醍醐味だが、長らく繰り広げられる戦争や国内の問題を二人で乗り越え、少しずつ絆を深めていくのもまた楽しい。

 一人目攻略の終盤では、要はすっかり『ロイヤル♡ラブウォーズ』の虜になっていた。

 そうして一人目の攻略対象とのハッピーエンドを無事回収し、幸せの余韻に浸りつつ二人目のエピソードに取りかかる。

 けれど、序盤を過ぎた辺りから、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

 二人目の攻略対象との仲が深まるにつれ、他国との情勢が悪くなり……何とクリア途中で、一人目の攻略対象が戦死してしまったのだ。

 現実を受け入れられず呆然としていた要は、ふと一人目のルート攻略時を思い出した。

 そういえば、ルートの後半で隣国の王子を討ったけれど、あれってもしかしなくても今攻略中の王子だった? 何人かいる兄弟の誰かではなく?

 ……最終的に、二人目のルートでは、一人目の攻略対象の国が滅びた。

 一度はハッピーエンドを迎えた相手を、要は次のルートで国ごと叩き潰したのだ。

 何という地獄の所業。

 それでも要は死んだ目でゲームを続行した。もしかしたら次のルートでは誰も死なずに終わるかもしれないと、かすかな希望を抱いて。

 結果、心が粉々に砕け散った。

 全ルートを制覇したのに達成感はゼロ。ヒロインの幸せの裏には、常に攻略対象の屍が転がっていた。攻略対象を討ち取るヒロインなど前代未聞だ。

 血の涙を流した同士は数多くいたようで、『ロイヤル♡ラブウォーズ』は大炎上したのち発売停止。

 クレームだらけの駄作としてある意味歴史に名を刻むこととなった。

 要の胸に居座るのは、あの時と同じ絶望だ。

 よりにもよって、これほど血生臭い乙女ゲームの世界の、聖女に選ばれてしまうとは……。


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