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 気が付くと、光りも、痛みも、寒さも、音も、匂いも、自分が呼吸している感覚さえない世界にいた。

 ただ暗く、無音だけが支配し、すでにどれほどの時間を過ごしたのかも分からない。


 自分は何故ここに存在するのか?

 自分は一体何者なのだろうか?

 自分は何処から来たのだろうか?


 いくら記憶を探ろうとも、その答えは出なかった。


 恐らく始まりなどは無く、終わりも無い。


 この空間に“俺”という何かが有り、その俺は存在してもしなくても、この世界に影響を及ぼさない。

 俺という存在は、多分そんなものだろう。

 だけど……何故か俺は、光というものを知っていた。


 明るくて、温かくて、幾つもあって……でも、そのせいで喧しくて、気苦労ばかりで、時に面倒くさい事をさせられたような……光とはあまり良い物ではないのかもしれない……


 でも、出来ればもう一度だけ、見てみたい。とても心地良かったことだけは知っているから……


 リーパー……


 誰かが遠くで俺を呼んだような気がした。


 リーパー……


 気のせいだと思ったら、また聞こえた。

  

 …………


 耳を澄ますと、やはり聞こえない。こんな世界にいれば、大して珍しい事ではないのだろう。だがそう思っていると、今度はしっかりと、はっきりした女性の声が聞こえて来た。


 リーパー!


 この声は知っている。アイツだ!


 そう思った瞬間、突然今までの世界は消え、全ての記憶と感覚が戻った。そして、誰かに抱きしめられている事に気付いた。

 分けが分からずにいると、匂いで今俺を抱きしめているのが、ヒーだと分かった。が、


「リーパーはここにいなければなりません」


 という声で、抱きしめている相手を引き離し顔を見ると、それがリリアだったと知った。


 目を合わせ、はっきり顔を確認し、それがヒーではないと確信すると、リリアが何か言いかけたのを無視して抱きしめた。


「さぁ帰りましょう」


 抱きしめるリリアが耳元で囁いたその言葉に、ゾッとした。


 〝俺は死んだ〟


 そう思ったからだ。


 だがそれでも仕方がなかったと納得し、今度はリリアとは離れる事は無い時間を過ごそうと思い、もう一度顔を見ようとリリアに声を掛けようとしたとき、何かがおかしいと気付いた。


 その一番の理由は、玉座に座る男がニヤニヤ俺の顔を見ていた事だ。


 周りを見渡すと、その下にエヴァはいるが恐怖は感じなく、後ろからはヒーに声を掛けるフィリアの声が聞こえた。


「リリア。俺達は死んだのか?」


 小さな耳にドキッとしたが、少し口を近づけて話すと、リリアは顔を見て、


「まだ死んでいませんよ。これが証拠です」


 と、俺に頬擦りした。

 とても柔らかく温かいリリアの頬は、いい匂いがして気持ちよかった。


「おい! どう言う事だ? お前首ちょんぱになったんじゃないのか?」


 あまりの幸福感に忘れるとこだったが、何とか自制し、リリアを問いただした。


「あれは、ルキフェル様が見せた幻覚ですよ」

「はぁ⁉ じゃあお前のパンツの色が水色だったのも幻覚か⁉」

「‼」


 驚いた顔をしたリリアはすぐに目を逸らし、顔を赤らめてスカートの裾を下に引っ張った。


「説明しろよ! どういうことだ?」

「……私たちは試されたんですよ……」


 リリアは小さな声でボソッと言った。


「試す? もっと大きい声で言えよ!」

「……ルキフェル様が! 本当に! 私達が! 国を作るのに! 相応しいか! お試しに! なられたんですよ!」


 少し大きな声と言ったが、顔を近づけ、大声で怒鳴るように言ったことに、ビビッた。


「…………?」


 ルキフェルと言われ玉座に座る男を見たが、その人物は先ほどまでの威圧感も畏怖も何も無い、二十代前半の若いただの人間にしか見えなかった。


「いや~悪いね。ちょっと脅かしすぎた。でも君たちは合格!」


 多分違う人だろう。さっき見ていたのは夢だった。きっとそうだ!


「……リリア、説明して?」


 玉座に座る軽いノリの男性と、全く恐怖を感じないエヴァ。そして生き返ったリリアとフィリア。今の頭では理解出来ず、簡潔な答えが欲しい。


「私たちは認められたんですよ、ルキフェル様に。先ほどまでのはその試練です」

「それはさっき聞いた。どういうこと?」


 首を傾げ考えるが、全然意に解する答えが出ない。


「帰れるんですよ……私たちは今までどおり、あの城で暮らせるんですよ!」


 いきなりテンションが上がったリリアはそう言い、抱きついてきた。


 はぁ? どういうこと? …………でも帰れる! それだけ分かれば十分だ!

 こんなに嬉しい事はない! と喜びリリアを強く抱きしめた。


 ヒーとフィリアも無事なようで、嬉しそうに笑っている。

 そんな俺達に、ルキフェルを名乗る男が言った。


「ゴメン、一つ言い忘れてた。俺、ルキフェルじゃないんだよね」


 よく分からんが、男は面目なさそうにしている。


「俺、アドラメデクって言うんだよね」


 俺にはどうでもいいが、リリアにはそうではなかったらしく、抱きつく俺を強めに引きはがし、アドラメデクを見て言った。


「では、ルキフェル様はどこに居られるのですか?」

「ルキフェル様は、ご寝室にてお休みになられている」


 チャラチャラ喋るアドラメデクに代わり、エヴァが答える。そのほうが話が早くて助かる。


「私たちは、ルキフェル様に認められたわけではないと言う事ですか?」

「いや。アドラメデク様の言葉はルキフェル様のお言葉でもある。そなたらが認められたのは事実だ」


 全く話は見えないが、とにかく俺達は認められたようだ。


「だが、ルキフェル様の御名を悪用する事は許さん。これからは努々気を付けろ」


 そうだった。だが俺はそれが原因でこんな事になったと思っていたのだが、今理解できる中ではどうやら違うようだ。


「まぁいいじゃん。それよりさぁ~、君たち国作るんでしょ? だったら俺と同盟組まない?」


 どこの誰だか分からないが、恐ろしい力を持つアドラメデクの提案は、話の順序が目茶苦茶だ。


「あの、それはどういう意味ですか?」


 リリアの返答がそうなるのは当然だ。


「実は俺、天使と殺り合おうと思ってるんだけど、全然戦力足りないんだよね」


 天使? 殺り合う? この人は大丈夫なのか? 天使自体神話の存在で、ルキフェル以上に信憑性が無い。


「君たちさ、ここに国作るってことは、人間と殺り合う気なんでしょ? だったらさぁ、別に問題ないでしょ?」


 問題だらけだ! 何を勘違いしているのか、というより、この人は何をしたいんだ! 魔王にでもなるつもりなのか!


「あ、いえ。私たちは別に争いを起こすために建国を目指しているわけではありません。私達は誰もが幸せになれる国を目指しています」


 リリアの考えは俺も賛成だ。しかし下手に断れば殺されるかもしれない。そう感じ緊張が走ったが、アドラメデクは気にする様子も無く返す。


「あ~妹のためね。そりゃ仕方ないか」


 いきなり変な事を言い、勝手に納得しているが、そんな軽いノリで許してくれるとは、意外と良い奴なのかもしれない。


「でも、俺の名前使えば、結構楽に民集められるけど~?」


 本当にいいの? 的な顔をしてもったいぶる。何故彼にルキフェルの代わりが務まるのだろうか……


「アドラメデク様! 貴方は今、天使に追われる身なのですよ! 名を使わせる事は許しません!」


 エヴァに怒られるアドラメデクは、どことなくリリアと似ている。


「エヴァ、俺は今ルキフェルだから! その名前で呼ぶのは禁止!」


 どことなくでは無く、やっぱりリリアとそっくりだ。


「まぁいいや。とにかく今日は帰っていいよ。なんか悪いね、こっちから呼んどいてなんだけど……」

「い、いえ。本来ならば、私から挨拶に伺わせてもらうのが礼儀。そしてルキフェル様の名を勝手に使わせて頂いた事をお許し頂き、誠にありがとう御座いました」


 王としての器は、リリアの方が上のようだ。


「良いよ良いよ別に。じゃあエヴァ、送って行ってあげて」


 軽っ! さっきまでの人物は、絶対この人じゃない気がする。


「分かりました。城までお送り致します」


 こうして俺達はルキフェル様? のお許しを頂き、無事全員でグリードガーデンに帰ることが出来た。


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