予想外
彼女が、動き出したことによって戦いの火蓋は切られた。速度的には・・・。少し違和感がある。だがまぁ、Fクラスの人間・・・と言われれば、納得も出来る速度。だが、入学したてにしては、中々に速い速度。
「学園に入学する前に、鍛えてきたのか?」
「そりゃあ、太刀打ちできるようにはね・・・!!」
そうやって叫びながら、そいつはナイフを振りかざしてくる。だが、まだ動きが初心者だ。落ちこぼれのFクラスの生徒なら、ギリギリ掠り傷を負ってしまうかもしれないが、俺からすれば蟻が地面を歩いているような速度で見える。
「それが、お前の本気なのか?」
「っ・・・うるさいです!!勝負は、まだ始まったばかりで・・・!!」
「だったら、俺とお前の格の違いを見せつけてやろう」
たかが、学園に入学したばかりの最弱クラスに所属する生徒。俺の6割でも、致命傷を避けることが出来るか危ういほどの実力。
「遅い」
俺が動き出したときにはもう、その少女の背後にまで回っていた。
「・・・え?今、何が起きて・・・」
「遅いんだよ。お前と俺では、それほど差がある。何にしろ。スピードだって、技術だって。頭脳だって・・・。分かるか?この、俺の攻撃で分かったんじゃないか?少し、自分の実力を過大評価しすぎていたんじゃないか?だから、俺もどうせFクラスの生徒だからって油断をして舐めてかかったから・・・こんなことになるんじゃないのか?」
「・・・」
俺がナイフを動かすその瞬間まで、そいつは何も言わなかった。
「えぇ、分かりましたよ。私と貴方の間に、そこまで差があったなんて・・・」
俺が、ナイフを握りしめた瞬間、そいつはそう言った。そりゃあそうだ。Fクラスに入学した生徒と、神とでは・・・それほどの差が開いている。俺が、この世界の最強に君臨し続けている限り・・・この世界では、俺に敵う奴は誰一人としていない。
「残念だったな。瞬殺だ」
そうして、俺はそのナイフを・・・。
確かに、刺した。血だって、滴り落ち、俺の視界に入った光景は、心臓がある位置にナイフが刺さっていて、ものの数分もしない内に即死するであろう場所だった。故に・・・その少女は段々と崩れ落ちた。まるで、倒壊したビルのように。
「・・・あ、あぁ・・・」
その少女は、そのような呻き声しか発せなかった。
「喋らない方が、長く生きられるぞ。お前は、喋れば喋るほど、その傷口から血が吹き出す。と同時に、エネルギーも使うことだろうな」
「それで、いいから・・・話したいの」
「はっ。お前は馬鹿なんだな。だったら、遺言くらい話していけよ」
「私と、貴方の間では・・・そこまで差が開いているなんて・・・正直、思いませんでした。私は、貴方とよく関わっていたと思います。だから、少しくらい、私を殺すことに、躊躇いが生まれるんじゃないかって・・・そう思っていました」
血が溢れ出ていながらも、その少女は話し続ける。
「実際、私には躊躇いが生まれていましたからね。本心は、貴方を殺したくないって・・・。そう思っていました。しかし、貴方は違ったらしいですね。貴方は、躊躇いもなく、私に致命傷を与えることが出来ましたね・・・」
「そりゃそうだ。お前に情が湧いていたら話は変わっていたが、生憎俺はお前に対して何の情も湧いていない。だから、お前が死んだって、泣いていたって、殺されたって・・・別になんだっていい。現、俺の中でお前はただの隣の席の人間だ。だから、俺は躊躇いもなくお前を殺すことが出来た」
「そう、ですか・・・」
そうして、その瞬間。
「・・・あっ」
何かを察したように、そいつは、段々と目を閉じていった。名も知らない少女は、死んだ。俺の手によって、殺された。
「じゃあ、約束通り、バッジを奪わさせてもらうぞ」
そうして、俺は目を開けていないそいつのポケットに手を伸ばした。
<<シュシュシュ・・・>>
俺が、バッジを取ろうとしていると、段々とそんな音が聞こえてくる。流石に、誰かにバレてしまったか。・・・まぁ、いい。体力は有り余っているから・・・。
「そこだな」
その、飛来してくる何かを避けようとして、俺はとりあえず空中へと飛び上がる。・・・勿論、タイミングを見計らって。
「よっ」
すると、その刹那。
「・・・は?」
その飛来してくる”何か”は、突然進路を変えて・・・!?
「う、嘘だろ・・・?」
その何かが、進路を変えてからものの数秒後、爆発音が辺りを轟かせた。そうして、気づけば俺は、負傷していた。どうして?何故、俺は負傷した?あの攻撃は、避けきれるタイミングだったはず。何故、飛来した”何か”は突然進路を変えた?何故、その飛来している”何か”は、俺の眼でもその物体の正体が何だったのかが確認できなかった?・・・様々の疑問が、俺の頭の中を駆け巡る。数秒の間、俺は戸惑っていたことだろう。そりゃそうだ。完全に避けれる攻撃が、予想外の事態が起きて、結果。俺の体が負傷しているから。
と、その瞬間、
「確かに、貴方と私の間には大きな差がありましたが・・・それはあくまで、先程の話です」
そこには・・・いるはずのない人間が、立っているのであった。




