少女
このような試験において、一番狙われやすいのが夜。食料を奪われるにも、バッジを奪われるにも。何故なら、普通の人であれば寝ている時間帯であり、一番抵抗されずに襲いやすい時間だからだ。だから、俺はそんな時間に出歩いていた。別に、バッジはまだ必要としていない。・・・まぁ、取れるなら取っておくが。目的は、別にある。それは、
「あの状況になっても、何も起こらないか」
俺が考え付いた結論である『特殊能力』について調査をしていた。過去の世界、異能力を発動するには色々な条件があったが、その中でも発動しやすかった条件が『人生の危機を感じること』。言わば、死にそうになった瞬間が一番異能力を発動しやすかった。だから、もし特殊能力も発動条件が同じであれば、この試験でその瞬間を見られると思ったが・・・。
「あぁ。そのまま死んじまったか」
俺が眺めていたその戦闘は、終了してしまった。何も起こらずに、Fクラスの生徒がFクラスの生徒を殺害した。一応説明をしておくが、この試験では、殺しが許されている。理由は簡単・・・。この世界が、実力主義の学園であるから。
とりあえず、今日は観察重視で行う。せめて、覚醒の瞬間を見れなくとも、何かしらの手がかりを掴めればそれでいい。
それから、一晩中手がかりを探したが、結局、そう言った場面には直面しなかった。一応、拠点に帰って食料を確認してみると、食料は奪われていなかった。頑張って、掘った甲斐があった。と、まぁ。それはなんでもいいが。
「一応、人が立ち入った形跡はあるな」
微かに、靴で歩いたかのような足跡が残っていた。おそらく、足跡が残らないように頑張って歩いたんだろう。だがしかし、うまく証拠隠滅が出来なかったようだ。
「所詮、Fクラスだからな」
ま、食料が奪われなかっただけマシだろう。バッジは、今日の夜から集めるとしよう。・・・そういえば、
「あの名も知らない少女は、どうなったんだろうな」
これほどにないくらいに震えていたが、しっかり太刀打ちできているだろうか?最近学園に入ったばっからしいし・・・。1日夜を越せたらいい方だろうか。
「世の中ってのも、残酷だよなぁ」
この世界になってしまったからには仕方のないことではあるが、実力がなければ不遇な扱いを受けてしまう。実際、俺も実は神であるが、学園の階級ではFクラスに所属しているから、そこまでいい扱いは受けていない。飯だって、まだ不味い飯しか食わされない。あるだけマシなのかもしれないが・・・。
それからまた、夜がやってきていた。日中は、誰も俺のところへはやって来なかった。だったら結局、俺があの拠点を離れていた間に俺の拠点へやってきていた人物は何者なのだろうか。俺の拠点に、食料も何もなかったから、
「あそこには何もない」
と解釈したのだろうか。別に、なんだっていいが。そうして、俺が辺りを歩いていると、
「あ、あの!!」
その時、少しだけ聞いたことがある声が響き渡った。・・・いや、思い当たる節がある。だが、本当にそいつなのか?まさか・・・と思いながら俺はその声のした方向へ振り返る。すると、そこに立っていたのは、
「お前、生きてたんだな」
「流石に舐めすぎですよ!ま、まぁ。本当にたまたまですけど」
「どうやって生き残ったんだ?」
「なんとかバレなさそうな拠点を見つけて、そこにずっと引きこもっていました」
「ふーん。そっか」
そこには、正直生き残る可能性が低いだろうと思っていた、名も知らない少女が立っていた。
「お前、この試験の合格条件はしっかり聞いていたのか?」
「はい。バッジを30個集めること・・・ですよね?」
「あぁ。そうだ。それなのに、いもっているままでいいのか?このままだと・・・退学になってしまうんだぞ?」
「そう・・・ですね。大和さんは、見た感じ・・・バッジがついているということは、奪われた形跡はないってことですよね」
「あぁ。そうだよ。逆に言えば・・・バッジをまだ一つしか持っていない」
「貴方こそ・・・しっかり話を聞いていたんですか?」
「これから集めに行くんだよ」
「そうですか」
数秒の間、沈黙が流れる。
「用はそれだけか?俺は、誰とも仲良くするつもりはない。用がないならどっか行け」
俺が、そう言うと、黙り込んでいた名も知らない少女が口を開いた。
「大和さんは、バッジをまだ一つしか持っていないって言っていましたよね?」
「あぁ。そうだな」
「そんな大和さんに・・・いい提案があります」
「いい提案?なんだ、それは」
そうして、次の瞬間、そいつは確かにそう言った。
「私、いもっていたのは本当ですけど・・・バッジは1個だけじゃないんです」
「はぁ?それはどういうことだ?」
「現在、私の手元には29個のバッジがあります。信じられないなら、証拠を見せましょうか?・・・ほら」
そう言って、そいつはポケットから29個ほどのバッジを取り出した。
「そろそろ、貴方なら察しているんじゃないですか?私は今29個持っていて、貴方は1個・・・」
「つまり・・・だよな」
「はい。出来れば、貴方と戦うのは嫌でしたけど・・・でも。それは分かってますよね?」
「・・・。あぁ」
俺が目的を持ってこの学園に入学したように、こいつも何かしらの目的があってこの学園に入学したのだろう。だから、つまり・・・。
「手加減しませんよ?」
「そりゃこっちもだ」
そこで、始まるのであった。その、初めての”戦闘”が。




