頑張れオヤジ(笑)
家に着くと、真っ先に博幸が玄関に呼び出される。
「これ、真央の部屋に運んであげて」
「なんだよこれ…結構な重さだぞ」
「ドレッサー。こういうのは父親の役目でしょ、男なんだから」
「よろしくね、父さん」
真央と雅子はほかの細々したものを持って、そそくさと家の中に入ってしまった。
なんだ、この扱い…女2人になったせいで俺の立場が弱くなってないか…?
真央は部屋に入ると、早速ベッドのシーツや布団カバー、枕カバーを外しにかかった。
特に意識したことはなかったが、なんだかんだで1年半くらい使っていた気がする
今までのカバーを邪険に扱う気にはなれなかったので、
「今までありがとうね」と感謝の気持ちを伝えて、丁寧に折りたたんだ。
そして新しいカバーを開け、それらをかけて布団まわりは完成。
ピンクがベースなので、一気にかわいらしいベッドになったのでニコニコしていた。
次はカーテンかな…
カーテンを外すためにレールに手を伸ばすが、今の真央の身長では届かなかったので
椅子に乗って外そうと思っていたところに、ドアの外からゴソゴソと音が聞こえてきた。
「真央、開けてくれ!」
博幸がいいタイミングでやってきた。
真央は慌ててドアを開ける。
「これ一人で運ぶの辛いぞ…階段が特に…」
「ありがと。でも父さんが重いんだったらわたしや母さんじゃ絶対に無理だよ。さすが父親だね」
そういうと、博幸は少し誇らしげに「ま、まあな」と胸を張っていた。
単純だな、父さんって。
心の中で笑ってから、ついでのお願い事をする。
「ねえ、段ボールからドレッサー出したら、ここに置いてほしいの。でね、それ終わったらカーテン外してくれない?届かなくて…」
「ええー、もう腰が痛いんだけど…」
やっぱり嫌がったか…だったら!
渋る博幸をもう一度持ち上げる。
「わたしも男だったら自分でやったよ。でももう男じゃないから…そうなるとこういうのって父さんにしか頼れないの」
「うっ…わかったよ。真央が俺に頼み事するなんてあまりないからな」
「さすが父さん、ありがとう!」
ホント単純で助かる。
再び心の中でニヤリと笑い、博幸と一緒に段ボールの解体を始め、
クッションになっている発泡スチロールを外していくと、待ちに待ったドレッサーが
姿を現した。
「こんなの買うなんて、真央はホント女だな」
「今さらなに言ってるの?はい、ここに置いて!」
「はいはい…よっと!」
指定した場所にドレッサーが収まり、真央はニンマリした。
早くこの中にコスメを入れたいな。
「で、次はカーテンか?」
「あ…う、うん」
いけない、まだ終わってないのに。
真央の頭の中はドレッサーのことでいっぱいになっていて、
カーテンのことをすっかり忘れていた。
博幸が手際よくカーテンを外していくので、
真央はその間に新しいカーテンを袋から取り出し、効率よく進めていく。
「はい、じゃあこれ付けて」
新しいカーテンを渡し、それが付いたことで
また一段と女の子らしい部屋の雰囲気になっていた。
「お、いい感じじゃないか」
「でしょ、やっとわたしらしい部屋になった気がするもん」
「そうかもな。で、ほかは?」
「あとは…」
カーペットを敷いて、コスメを入れれば終わりなので、博幸はお役御免だ。
あ、まだあった!
真央は散らかっている段ボールの残骸をチラッと見てから言った。
「これ、捨ててもらっていい?」
「おいおい…これくらい自分でやれよ。大体こういうのは女の仕事だろ」
このいい方にムッとする。
「そういう考え方古すぎ!じゃあなに、男はゴミ捨てしないわけ?ゴミ捨ては女の役割なわけ?」
「わ、わかったよ!俺が片付けるよ!」
どうも尻に敷かれてる気がするな…自分の子供なのに…
そんなことを思いながら、博幸はドレッサーのゴミを持っていった。
「ありがとね、父さん」
お礼を言ってから、今度はカーペットを敷き、見た目は完成した。
「わー…なんか別の部屋になった気分!」
嬉しくてウキウキしてくる。
あとはコスメを移すだけだ。
机に置いてあったり、引き出しに入っているものを一度全部並べてみる。
「こうやって見ると結構あるなぁ…ちょいちょい買ってたんだ」
リップだけでも5種類、そのうち2本は大好きなシャーロットフランシスだ。
ほかにもアイシャドウ、マスカラ、アイライナー、チーク、
ファンデーション、フェイスパウダーなど、どれも複数あり、
真央は完全にコスメ大好き女子になっていた。
もちろん下地やスキンケア、ブラシなどもあるのですべて整理してしまったら…
想像しただけで楽しくなる。
「さて…まず化粧水はここの引き出しかな。大きいからちょうどよさそう。ついでに乳液や美容液もここに入れて」
独り言をいいながらしまっていたら、下から雅子の呼ぶ声が聞こえてきた。
「真央、おそばできたよ!」
「もう…まだ途中なのに」
と言いながらも、そばが伸びてしまうので渋々中断する。
下に降りると、湯気の出ているおいしそうなそばが置かれていて、
テーブルには博幸と雅子が座っていた。
「きたきた、じゃあ食べよう」
真央がくるのを待っていて、年越しそばなので、3人で一緒に食べるつもりだったらしい。
箸を持って「いただきます」と言ってからそばを食べる。
「うん、おいしい」
「一味は?」
「使う」
真央は七味より一味のほうが好きなので、家にはちゃんと一味唐辛子が置かれている。
それを受け取り、そばにかけてからまた食べる。
「やっぱり一味だよね」
「そうか?絶対に七味のほうがうまいぞ」
「えー、絶対に一味だよ」
真央と博幸が言い合いをはじめ、雅子はそれを見ながら微笑んでいた。
いろいろあって大変な一年だったけど、無事に終わってよかった。
そう思いながら、雅子はそばを啜っていた。




