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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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衣香の攻撃

香蓮とトイレから戻ってくると、巴菜が教室にいなかった。

ついでに龍弥も…そっちはどうでもいい。

「巴菜は?」

凜に聞くと「どっか行っちゃった」と答えた。

「どっかって…」

そんなやり取りをしていたら、教室に衣香が入ってきた。

目的はもちろんわかっている。

その衣香はキョロキョロしたあと、

見当たらなかったので真央のところに堂々とやってきた。

よくもまあ来れるもんだと、ある意味感心してしまう。

「龍弥くん知らない?」

いつものようにニコニコしながら平然と聞いてくる神経が理解できない。

龍弥を勝ち取った自信からきているものなのだろうか?

それとも心底性格が悪いか、まあどっちでもいい。

わたしには関係ないことだ。

「さあ?トイレから戻ってきたらいなかったから」

「ふーん…竹下くんも知らないのか」

竹下…くん?

真央の表情が変わった瞬間に、衣香の笑みが深まったので

わざと「くん」と呼んだことに気づいてしまった。

「クラスの子たちに聞いたよ、竹下くんって男の子だったんだね。それ聞いて安心しちゃった。だって龍弥くん、ゲイじゃないから」

ゲイという言葉が真央の中でこだまして、固まってしまった。

ゲイ…もうわたしは男じゃないのに…

「ふざけんな!なんなの、さっきから!真央はもう男じゃないんだよ」

隣で聞いていた香蓮がキレて衣香に文句を言っていた。

それでも衣香は動じず、ニコニコしながら言ってくる。

「身体はどうあれ、男の子じゃない。いくら女の子みたいに振舞っても、中身まで本格的に変わるはずないでしょ?結局は女の子になりきれない男の子。しかも、男の子だったくせに龍弥くんが好きってことはゲイってことだよね。別にわたし、ゲイだってことは否定しないけど」

パンッと乾いた音が響き渡る。

香蓮が衣香の頬を叩いたのだ。

「お前に真央の何がわかるの?なにも知らないくせに適当なことを言うな!」

そして香蓮は慌てて真央を見ると、真央は放心状態になっていた。

わたしは女なのに女じゃない…結局は男ってこと…?

居てもたっても居られなくなった健吾が衣香のところに行く。

「お前がどう思おうと勝手だけど、今すぐ出ていったほうがいいぜ。そして二度とこのクラスに入らないことを勧めるよ。お前はこのクラス全員を敵に回したんだからな」

クラス中のみんなが殺気立って、衣香を睨んでいる。

それでも衣香はニコニコしていた。

「もう、事実を言っただけなのに。みんな騙されてるんだよ」

そう答えると、そこに今度は杏華がやってきた。

「ねえ、聞こえなかった?出ていけって言ってるの。このクラスはね、みんな竹下さんの仲間なの、友達なの」

「竹下「くん」でしょ。ま、龍弥くんもいないし戻ろうかな」

やっと出ていこうとドアのほうまで近づいたあと

衣香は足を止めて真央たちのほうを見て言った。

「大谷さんだっけ?叩いたこと忘れないからね。じゃあね、竹下くん」

勝ち誇ったように出ていこうとしたところで、

ドアのすぐ横の席にいた源治が珍しく突っかかった。

「そこのバカ女」

源治がこんなことを言うのが信じられなくて、みんなが驚いている。

「わたしのこと?メガネくん」

「お前以外にバカ女はいないからな」

「そう?その辺にバカ女はいっぱいいると思うけど。いきなり叩く女とかね」

嫌味ったらしく香蓮のことを言っている。

「余裕かまして堂々としてるけど、内心じゃかなりビクビクしてるな。それをかき消すために竹下を追い詰めてるんだろ、木谷を自分のものにするために。単純でわかりやすい女だ」

一瞬、ほんの一瞬だけ衣香の顔が引きつったのを源治は見逃さなかった。

「なるほど、当たると右の目じりがピクッて動くのか」

さらに衣香の右目じりがピクピク動く。

だが、その直後にまた笑顔になって源治に言った。

「人の癖を見抜くのが趣味?気持ち悪いね」

「自己利益のためだけに人の心をズダズダに傷つけるよりマシだと思うけど」

衣香は何も答えず、今度こそ教室を出ていった。

「西川、お前やるな!」

男子たちが源治のところに集まる。

「別に。ああいう女の鼻を明かしてやるのもたまにはいいかなって思っただけだよ」

こういう言い回しは源治っぽい。

確かに源治のおかげで胸がすいた気分にはなったが、肝心の真央は放心状態のままだった。

こっちのほうが大問題だ。

「真央、気にしちゃだめだよ!真央は女なんだからね」

「うん…わかってる」

そう返事をしたが、どこか上の空だった。

「全部あの女のせいだよ!木谷が戻ってきたら文句言ってやろう」

凜が息巻いていて、まわりのみんなも「そうだ」と賛同している。

だが、それを止めたのは真央だった。

「龍弥は関係ないから。もうこの話はおしまい!ちっとも気にしてないしさ…みんなありがとう!」

真央は無理をしている。

きっと泣きたいくらい傷ついているはずだ。

それでも精いっぱい強がる真央を見て、香蓮は何も声をかけてあげられなかった。

それは、真央が女になってしまった原因が自分にあるかもしれないから…

もし女になっていなければ、こんな傷つき方をすることはなかったからだ。

その罪悪感からか、香蓮は真央に異変が起きていることに気づくことができなかった。


何事もなかったかのように振舞って家に帰ったが、真央はずっと考え込んでいた。

女なのに女じゃない…じゃあわたしは何なの?

龍弥を好きになったら、ゲイなの?

掛かっているロマンスドールのコートを見る。

こんなの着て喜んで、メイクして楽しんでるわたしはおかしいの?

結局、わたしは本当の女じゃないんだ…だったら…

自暴自棄になった真央は間違った選択をしてしまった。

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