悩む龍弥
やっぱりこんなこと間違ってる。
衣香にちゃんと話してわかってもらおう!
そう思いながら校門まで行くと、すでに衣香が待っていた。
「龍弥くん」
3年前と変わらぬ笑顔を振りまいてくる。
この人懐っこい笑顔に3年前の龍弥は惚れてしまった。
いまだにこの笑顔にはドキッとしてしまう。
しっかりしろ、俺!
自分を鼓舞するものの、なかなか言い出せないまま2人で歩いている。
「龍弥くん、今度の日曜日どっか行こうよ。わたし遊園地とか行きたいな」
「遊園地か…」
遊園地か、じゃない!断るんだ、ちゃんと言うんだ!
「衣香、やっぱり俺は…衣香とは付き合えない」
意を決して言うことができた。
一気に全身の力が抜けてくる。
「そんなにあの真央って子が好きなの?」
「気づいてたのか…」
「それくらいはね。けどね、わたしは諦めないしあの子に譲る気もないよ。さっきも話したけど3年間ずっと龍弥くんのことだけを想っていたんだから。それに別れてないって言ったでしょ」
衣香はこの言葉を笑顔で言っている。
やはりそんな簡単には納得してくれないか…
そもそも、こんな程度で納得してくれるなら、こんな短期間に引っ掻き回されたりはしない。
「どうせ俺が別れようって言っても嫌だって言うんだろ?」
「さすが!わたしのことよくわかってるよね」
このペースに俺は3年前、散々苦労したんだ…
当時の記憶が増々蘇ってくる。
別れたいとばかり思っていた、束縛されるのが嫌で、振り回されるのが嫌で、
毎日別れたいと思っていた。
だが、蘇る記憶の中で完全に嫌いにはなれなかったのを思い出した。
そうだ…別れたいと思っていたのに、
それを言うことであの笑顔を失うのが怖かったんだ…
引っ越してからもそうだった。
自然消滅していくなかで、ずっと衣香の笑顔だけは残っていた…
今でも心の片隅に…
俺は誰が好きなんだ、衣香なのか?真央なのか?
自分の気持ちがわからず、龍弥の心は深い闇に落ちていく気分だった。
翌日も、その翌日も龍弥は真央と目を合わせようとしなかった。
そんな真央も、完全に龍弥を無視するようになり、2人の関係は最悪になっていた。
それはクラスのみんなが気にするほどだ。
いてもたってもいられなくなった巴菜は、
真央が席を外したタイミングで龍弥を呼び出すことにした。
「木谷、ちょっといい?」
顔で廊下を指すと、龍弥は何も言わずに立ち上がって廊下へと歩き出した。
いつになく素直に応じるので、本人も罪悪感のようなものがあるのだろうと思った。
すると、そこに伊藤も加わってきた。
「俺も話がある。きっと三上と同じことだから」
伊藤がこういうのを言ってくるのは意外だったが、
過去に龍弥と一緒に真央を助けたことがあるので、
それなりに心配しているのかもしれない。
龍弥と伊藤と3人で人がいない場所、考えた中で思いついた屋上へ移動した。
思った通り、誰もいないので安心して話をすることができる。
「木谷、どういうつもりなの?あの衣香って子と本気で付き合うの?」
龍弥は何も答えずに視線を逸らす。
その行為に伊藤がキレた。
「お前!何考えてるんだよ!竹下が好きだったんじゃねーのかよ」
「うるせー…俺だってどうしていいかわかんないんだよ!俺は真央が好きだったのに、頭の片隅には衣香がいるんだよ。あれだけ別れたくてしかたなくて、それでも別れ話を言えなくて、衣香が転校したことで自然消滅したけど…そのあと結局俺は衣香のことを忘れられてなかったんだよ」
龍弥の言葉が終わると同時に静まり返る。
龍弥は本当にどうしていいのかわからず自分を見失っているように巴菜は見えた。
衣香がまだ好き?ううん、きっと違う…
「それは情だよ」
思わず巴菜は口にしてしまった。
「そうかもしれないな…けど、俺はどっちかなんて選べないし、そんな資格もないんだ」
「だから真央を捨ててあの子を選ぶわけ?木谷が真央となかなか付き合おうとしなかった理由がわかったよ。本当はあの子に対する罪悪感があったからでしょ。けどそれを上回るくらい真央のことが好きだってわかったから付き合おうとした。それなのにあの子がまた登場したことで罪悪感が蘇ってきて情が沸いてしまった。そんなところじゃないかな」
真央のことを考えての行動でも、
最終的には他人事なので巴菜は冷静に状況を分析していた。
龍弥はなにも答えない。
きっと龍弥自身もそれはわかっていたのかもしれない。
ただ、現実となると話は別だ。
理論上はそうでも、思い通りに行動できないことはよくある。
やはりこういうときは、当事者ではない第三者がちゃんと後押ししてあげないといけない。
「木谷、ちゃんと自分の心に聞いてみなよ。どっちと付き合いたいか、どっちが好きか。それでもし衣香って子を選んでもわたしは文句言わないよ。それが木谷が本気で考えた答えならね」
「お、おい、三上…それじゃ竹下が…」
伊藤はマズいだろうと慌てているが、巴菜は動じなかった。
「わたしは本気で真央のことが好きじゃないなら付き合ってほしくないよ。そのほうが真央、かわいそうだし失礼だから」
「そりゃそうかもしれないけどさ…」
伊藤の答えなどどうでもいい。
問題は龍弥がどう答えるかだ。
肝心の龍弥は真剣なまなざしで考えている。
「そんな急がなくていいと思うよ。真央には時間あげてって言っておくから」
ややあってから、龍弥は「すまん」と呟いた。
これで木谷のほうは大丈夫かな。
香蓮だと同じ目線で考えちゃうから、わたしがしっかりしないと!
巴菜は龍弥たちを置いて屋上をあとにした。




