やっぱり2人は無敵だった
「木谷、交代」
「は?」
返事も聞かずに、香蓮は海に飛び込んだ。
「香蓮!なにしてるの?」
「今度はわたしが真央と乗るの。だから木谷は向こう行って」
「は?なんで俺が木谷と乗るんだよ!まだ女の大谷とのほうがマシだ」
伊藤が反論するが、香蓮は「伊藤、うるさい」と一言で黙らせた。
「ムチャクチャだな、お前…」
呆れながら龍弥は海に飛び込み、伊藤が乗っているカヤックへ泳いでいった。
そして、香蓮は真央のカヤックに乗り込む。
「よいしょ…」
ちょっと苦戦していたので、真央が香蓮を掴んで「もう」と言いながら引っ張り上げた。
「えへへ、ありがと」
無事に乗れた香蓮はニコニコしていた。
「香蓮、ムチャクチャ」
「知ってる。けど真央とも乗りたかったから」
「だったら最初から一緒に乗ればよかったじゃん」
呆れながら真央が言うと、香蓮は「だって…」と言い出した。
「木谷と乗る真央も見たかったから」
ただのわがままだ。
そう思ったが、香蓮らしいなとも思ったので、真央は笑った。
そうこうしているうちに、龍弥も伊藤のカヤックに乗り込み、
これでペアが完全に入れ替わった。
「お前と乗っても楽しくないからさっさと戻るぞ」
「ああ」
伊藤と龍弥が漕ぎ始めたら、香蓮が呼び止めた。
「ねえ、せっかくだから競争しない?どっちが速く戻れるか」
「ちょっと、香蓮…疲れたからやめようよ」
「だって真央と一緒だからさ、二人三脚みたいにぶっちぎれるかなって」
あのときは確かに速かった。
けど、今回の相手は女子ではなく男子の龍弥と伊藤だ。
「力が違うからさすがに無理だよ」
「そう?わたしたち2人なら負けないと思うけど。だって無敵でしょ」
こないだと同じことを香蓮は言っていた。
この言葉を聞くと、真央は不思議と本当に無敵な気になってくる。
やってみようかなと思い始めた矢先、伊藤が否定した。
「やんねーよ。疲れるし勝ってもメリットないし」
「あ、伊藤は負けるのが怖いんだ」
「なんとでも言え。なあ、木谷」
龍弥も頷いている。
しかし意地でも香蓮は勝負がしたい。
くそー、乗ってこないか…だったら!
「そっちが勝ったら、わたしたちの水着姿見せてあげるよ」
「ちょっと香蓮!」
真央は嫌なので否定しようとしたが、その前に伊藤が言う。
「今も水着じゃん」
「上に着てるの脱いでビキニになるよ」
勝手に香蓮が話を進める。
そしてビキニという言葉に伊藤は食いついた。
「目の前でポーズ取ってくれるならいいぜ」
「いいよ、グラビアみたいにやればいいんでしょ」
「香蓮!」
「伊藤!」
真央も龍弥もそれぞれ名前を呼んで止めようとしたが、もう手遅れだった。
「大丈夫、負けないから」
この根拠、どこから湧いてくるのか…
「お前も竹下のビキニ見たいだろ?俺は女のビキニならなんでもいい」
このエロ野郎が…
「真央、行くよ!スタート!!」
勝手に香蓮が合図を出して漕ぎ始める。
「え、いきなり??」
慌てて真央も漕ぎ始めた。
伊藤は「きたねー」と言いながら、急いで追いかけてくる。
龍弥もしかたなく漕いでいる感じだ。
「おい、伊藤。わざと負けてやれよ」
「は?何言ってんだ、本気で勝つ!お前も漕げ」
伊藤の目は完全にエロの目になっている。
バカだ、こいつ…
龍弥はため息をつき、負けるようにのんびり漕いでいた。
だが、思った以上に差が開いていく。
「ほら、無敵でしょ」
「うん!負ける気がしない」
阿吽の呼吸で漕いでいるので、スピードは増すばかりだ。
「龍弥たち遅すぎ。ばいばーい」
呑気に真央が叫ぶ声が聞こえてくる。
ちょっとカチンときた。
手加減してやってるのに…
「伊藤、本気で行くぞ!」
「当たり前だ!」
龍弥が本気になったので、スピードが上がる。
それでも距離はなかなか縮まらなかった。
「くそ、追い付けない…」
ペアなので、やはりチームワークが大事だ。
龍弥は見返すため、伊藤はビキニのため、お互いの目的が一致していないので
漕ぐタイミングがバラバラ、
これでは抜群のチームワークを発揮している真央たちには勝てないのも当然だった。
「やった、ゴール!」
佐紀に到着した真央と香蓮はハイタッチをして喜び、
少し遅れて龍弥たちもゴールするが、伊藤は本気で悔しがっていた。
「くそー!木谷、お前が最初から本気出さないからだぞ」
「いや、悔しいけど本気でも勝てなかったと思うぞ。あの2人のコンビには…」
反論しようとしたが、事実かもしれないと思った。
それほどまでに2人の息はピッタリだった。
「かもな…。無駄な勝負しちゃったぜ」
カヤックから降りていると、巴菜がやってきた。
「なんで入れ替わってるの?」
「いろいろあってね。それより伊藤、わたしたちの勝ちだよ」
「ああ、負けましたよ。まったくビキニが…」
まだ言ってるのか、こいつ…本当にアホだな。
龍弥が呆れていたら、真央が近づいてきた。
「龍弥も見たかった?わたしのビキニ」
いきなり思いがけないことを言ってきたので、龍弥は戸惑っていた。
「は?そ、そんなもん…」
「あ、そう。見たくないんだ。せっかく龍弥だったら見せてもいいと思ったのに…」
真央が少し悲しそうな顔をしていたので、龍弥は慌てた。
「そ、そういう意味じゃ…見れるなら…見たかった…」
少し恥ずかしそうに答えると、真央が笑いだした。
「見せるはずないじゃん!龍弥たち負けたんだし」
こ、こいつ…
「騙されてんの、あははは」
女になってからの真央は、今みたいにちょいちょいからかってくる。
真央が香蓮と一緒に大笑いしているのを見て、龍弥は思った。
真央も香蓮も本質は同じだな、と。
だが、そのあと真央は小声でまわりに聞こえないように言ってきた。
「見せてあげる。いつかね」
それだけ言って、真央は香蓮たちと引き上げていった。
そのいつかとは、付き合ったらという意味だということを龍弥は瞬時に理解したので、
フッと笑っていた。




