一緒に乗ることに
あいつ…みんなの前でなんてことを…
龍弥は完全に固まっていた。
伊藤が首に腕をまわしながら言ってくる。
「よかったなぁ、早く行ってこいよ」
「ふざけんなよ、誰が行くか!」
「お前、行かないほうが気まずくなるぞ」
「うっ…」
伊藤のいう通りだった。
行っても気まずいが、行かないほうがもっと気まずいだろう。
「龍弥、腹を決めて行ってこい。男を上げるチャンスだぞ」
そう言いながら、健吾は「行け」と手を動かしている。
さらに追い打ちをかけるように、
まわりが「いーけ、いーけ」と手拍子をしながら言ってくるので、
本当に腹を決めて行くしかなかった。
大谷…覚えてろよ!
龍弥はゆっくりと真央たちのほうへ歩き出していった。
龍弥が目の前まできて、苦笑いをしている。
同じように真央も苦笑いだ。
「じゃあ2人で楽しんで!わたしは誰と乗ろうかな」
香蓮は楽しそうにその場から離れていった。
「ごめん…龍弥」
「いいよ…悪いのは大谷だから」
まわりの視線も気になるし、非常に気まずい。
すると、龍弥が突然大きな声で言い出した。
「よし、こうなったら乗って楽しもうぜ!どっちみち乗るんだったら楽しまないと損だろ」
どうやら完全に開き直ったらしい。
どっちみち乗るんだから…よし、こうなったらわたしも開き直ってやる!
「うん!乗ろう、龍弥」
まわりの視線を気にせず、シーカヤックに乗り込む。
「龍弥、頑張って漕いでね」
「真央も漕げよ」
「こういうのは男子の役目でしょ、わたしはもう女子だもーん」
「だもーん、じゃねーよ!まったく…」
龍弥が漕ぎ始め、ゆっくりと進みだした。
「しゅっぱーつ!」
まあ、真央が楽しそうだし、いいか。
「よし、行くぞ!」
2人ではしゃぎながら、シーカヤックを楽しむ。
しばらく漕いだ後、龍弥が「少し休憩」といって、波に揺られることにした。
「波に揺られるのも悪くないな」
「うん。天気もいいし、海はきれいだし、文句なし!」
真央の笑顔が眩しく見えて、龍弥は少しドキッとしていた。
いい笑顔するな…
「ジッと見てどうしたの?」
誤魔化そうかと思ったが、もう気持ちは伝えてある。
素直に言ってみよう。
「いい笑顔だなって思って」
「ば、ばか…」
照れて赤くなっている真央がかわいい。
こういう顔が見れたのも、告白したからだ。
そう考えると、告白して正解だったな。
そこへ、真央たちのところに近づいてくるカヤックがいた。
乗っているのは、香蓮となぜか伊藤だった。
「真央、楽しんでる?」
応えるよりも先に疑問をぶつける。
「なんで伊藤と乗ってるの?」
「大谷と乗るやつがいなかったから、仕方なく乗ってやったんだよ」
そう叫ぶ伊藤に香蓮が突っ込む。
「伊藤が2人の様子見に行きたいって言ったんじゃん!」
最悪…この2人は野次馬だ…
それがわかった以上、ここに留まりたくない。
「龍弥、出発!逃げよう」
「おお、任せろ!」
必死になって逃げる真央たちを香蓮たちが追っていく。
「伊藤、もっと飛ばしてよ」
「だったらお前も漕げよ、そのほうが速いだろ」
「そっか、よーし」
香蓮も漕いでスピードアップ。
距離が近くなってきたので、今度は真央も漕いで差をつけていく。
こんなことをしているうちに、4人とも疲れて止まってしまった。
「疲れた…もう、なんで追いかけてくるの?」
「真央たちが逃げるからだよ!」
「逃げるに決まってるじゃん!恥ずかしいもん…」
ちょっと顔が赤くなっている。
その表情は恋する乙女、そのものだ。
香蓮はこれが一番見たかったので満足だった。
そうなると、もう一つの目的を果たすだけだ。




