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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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気持ちを強く持って

どれくらい泣いたかわからない。

涙がとめどなく溢れてくるので、真央はそれに従って泣き続けて、

ようやく涙が止まってきた。

その間、真由美はずっと抱きしめて背中をさすってくれていた。

「少しは落ち着いた?」

真央はゆっくりと頷き、真由美から離れた。

「先生…ありがとう…」

「そんなのいいの。何も言わなくていいから、事情はちゃんとわかってるから」

その言葉を聞くと、また少し涙がこみ上げてきた。

犯されそうになった…あとちょっとで犯されそうに…

「先生…男だったからって理由で…なんでこんな目に合うんですか…そんなにわたしは安っぽい人間なんですか?」

「そんなことない!竹下がそんな人間じゃないっていうのはみんなわかってるから。だから木谷も伊藤も助けに来てくれたんだよ。だからね、男子のみんながあの2人みたいって思ったらダメだよ」

危なかった…男子全員を佐山たちと同じと思ってしまうところだった…

そうだよね、龍弥も伊藤も助けにきてくれて真剣に怒ってくれた…

きっとクラスのほかの男子たちだってみんな助けてくれる…

「わかってます…だから…少しでも早く立ち直れるようにします…」

それが今の真央が言える精いっぱいの言葉だった。


「もう一度確認するが、お前たちが見つけたらああいう状況だったんだな?」

「だからそうですって!それよりも真央のケアをちゃんとしてくださいよ!」

「わかってるよ、さっきから何度も言ってるだろ」

どうもこないだから黒岩が信用できない。

今だって佐山たちが一方的に悪いかどうか何度も確認してきた。

そんなに自分が処罰されるのが怖いのかよ。

そんなことより真央のこと真剣に考えてやれよ!

龍弥は黒岩に対して怒りを覚えていた。

伊藤も同じことを思っていたのか、しびれを切らして黒岩に問いかけた。

「先生、まさか竹下が誘ったとか考えてるんじゃないの?もしそんなこと思ってたら俺、本当に先生のこと一生軽蔑するからな!」

「いや、さすがにそれは思ってない…」

まあ当然だよな、真央はあんなに怯えて泣いていたんだから…

真央、大丈夫かな…心の傷が残らないといいけど…

龍弥はずっと真央の心配だけをしていた。


丹波は内心頭を抱えていた。

こんな事件は教師になって初めてだ。

これからいろいろと協議になるが、2人の退学は免れないだろうと考えている。

未遂にすんだから、まだよかったものの…あと少し木谷たちが遅かったら

竹下は一生消えない傷を負うことになっていた。

佐山も田村もシュンとなっているが、本当にバカなことをしてくれたもんだ。

「丹波先生、2人の保護者と連絡が取れました。すぐに学校にくるそうです」

「わかりました」

それを聞いてさらに落胆する2人。

しかも佐山は涙目になっていた。

「泣くくらいならそんなバカなことを何でしたんだ」

「軽いノリだったんです…あいつなら元男だしやらせてくれるかなって…」

「ふざけるな!」

丹波は怒鳴ると同時に机をバンと叩いた。

「そのせいで竹下がどれだけ傷ついたかわかってるのか!お前たちがやろうとしたことは強姦罪だ、犯罪なんだぞ!」

2人が怯え始める。

犯罪と聞いて、やっと事の重大さに気づいたようだ。

「どんな処分が下されても文句を言えないことをしたんだからな、覚悟しておけよ」

本当にバカなことしやがって…

丹波は、怒りと自分の学校の生徒が犯した事件への落胆が入り混じっていた。


やっと真央も完全に落ち着き、涙は完全に流れなくなっていた。

「親に連絡して迎えにきてもらう?」

真央は思いっきり首を横に振った。

「親には内緒にしておいてください!もちろんほかの人たちにも!」

「他の人はともかく、親にはそういうわけにいかないの」

「お願いします!変な心配かけたくないんです。わたしはもう大丈夫ですから!ただでさえ女になったということで心配や迷惑をかけているのに…」

それなのに犯されそうになったなんて知ったら…きっと母さんは泣き叫ぶし、父さんは2人のところに怒鳴りこみかねない。

そうなったら、話がドンドン大きくなっていって、みんなにも知られちゃう…

ややあってから、真由美は「わかった」と言ってくれた。

「竹下が本当に大丈夫なら、そうする。その代わり、辛くなったらいつでも言ってきて。誰にも言えないと辛くなったとき相談できないでしょ。でもわたしなら相談に乗ってあげられるから、ね」

「ありがとうございます…」

真央も真由美にだったら話せると思った。

この人は黒岩と違って、真剣に考えてくれる先生だ。

けど、もうこの件は終わりだ。

強い覚悟を持って前だけを向くことにした。


真央がお願いした通り、この件は当事者だけの秘密ということで話はまとまった。

佐山たちの親は真央に謝罪したいと何度もお願いしたが、

それを本人が望んでいないのと真央の親にも内緒だからということで納得してもらった。

「お前たちも誰にも話すなよ」

「わかってますよ。それじゃ、先生」

龍弥と伊藤が校舎を出ると、もう夜の9時になっていた。

「真央のやつ、大丈夫かな?」

「奥寺が車で送ったらしいから大丈夫だろう」

「そういうことじゃなくて!」

「お前、さっきからそればっかりだよな」

「そりゃそうだろ、お前は心配じゃないのか?」

「心配は心配だよ。あんな目に遭ったんだからな。けどあいつ根は強いから大丈夫だと思うよ。だってよ、男から女になっちまって、それでも平気だったんだぜ。俺ならショックで学校なんて来れないよ。それどころか順応しちまったしよ、たいしたもんだと思うぜ」

伊藤のいうことも一理あるなと思った。

ただ、泣きながら抱きついてきた真央はとても弱々しく、

あのとき龍弥は守ってあげたいという感情に駆られていた。

「本当にあいつ、強いのかな…」

「俺は多分、としか言えない。あとの弱い部分はきっと大谷たちが埋めてるんだろう。それとお前もな」

「俺はなにもしてないよ」

「さて、それはどうかな…」

そこまで言って、伊藤なニヤニヤしていた。

「お、お前、なんか勘違いしてないか!?」

「してないよ、木谷が竹下のこと好きなんて、そんな勘違いするはずないだろ」

「て、てめー…」

伊藤はギャハハと笑い、龍弥をずっと冷やかしていた。

そうか…俺はやっぱり真央のこと好きだったんだ…

けど今はそんなことどうでもいい、

真央が完全に普通に戻れるまでは陰ながらフォローできれば、それでいいんだ。

自分の気持ちに気づいても、それは二の次と考えていた龍弥だった。


頭がボーっとする…あまり眠れなかったせいだ。

昨日は大丈夫と言ったけど、部屋で一人になってから何度も泣いてしまったし、

恐怖で身体が震えてしまった。

けど本当に大丈夫!わたしは一人じゃない、みんながついているんだ!

気を取り直して家を出た。

「おはよー…って目が腫れてるよ!どうしたの??」

「んー、昨日ちょっと泣いたから」

「何があったの??」

香蓮が心配そうに聞いてくるので、真央は笑顔で答えた。

「あのね、わたしだって泣きたいときくらいはあるの!それより早く学校行こう!」

真央は香蓮を置いて駆け出した。

下手な心配をかけさせないための真央なりの行動だった。

学校に着き、教室内を見まわすと伊藤を発見した。

真央から伊藤に話かけると珍しがられるかもしれないが、

これは真面目にお礼をいわなければいけないので話しかけた。

「伊藤…」

伊藤は何事もなかったかのように「おう」と返事をした。

「お前も下ネタに加わりにきたのか?」

「は?そんなはずないじゃん!ばーか」

文句を言って、伊藤に背を向けて歩き始めた。

真央はちゃんとわかっている。

これは伊藤の「気にするな」というメッセージだ。

まわりにほかの生徒がいたのも気を使ったのだろう。

だから真央もいつの通りの返しをした。

でもいつかちゃんとお礼を言う、それだけは間違いなく実行するつもりだ。

その直後、教室に龍弥が入ってきた。

お互い目が合い、一瞬気まずくなる。

そういえば…昨日龍弥に抱きついたんだっけ…

なんであんなことしちゃったんだろう…

けど、龍弥を見たとき、心の底から安心したんだよね…

いいや、深く考えるのはやめよう!

「えい!」

真央は龍弥に体当たりした。

「いて…な、なにするんだよ…」

「邪魔だったから」

「じゃ、邪魔って…」

「いつまで経ってもたどたどしいの治んないね」

「よ、余計なお世話だろ…」

真央はケラケラ笑い、

龍弥の横を通り過ぎるタイミングのときに小声で「ありがとう」と呟いた。

聞こえたかな?

けど振り返って確認はしない。

龍弥ならどっちみちわかってくれると信じていたから。

あえて元気に振舞っているということに。

そして一週間後、黒岩から佐山と田村が正式に退学処分になったことを聞かされた。

もう2度と会うことがない、それだけで安堵感に包まれる。

「もう文化祭まで3日しかないよ、気合入れていこう!」

真央は実行委員として、クラスのみんなを鼓舞していた。

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