自業自得です
この時間、生徒指導室が開いているので黒岩と真由美はそこに入った。
黒岩は助かったといわんばかりに話し始めた。
「いやぁ、ホント参りましたよ。みんなが責めてくるからどうしようかと…奥寺先生がきてくれて助かりました。ありがとうございます」
気が緩んだのか、少しヘラヘラしていた瞬間、冷たい声が聞こえてきた。
「何がおかしいの?」
「あ、いや…すいません」
「なんでみんなに責められたかわかってるの?なんで竹下が泣いてたかわかってるの?あの子たちがどういう気持ちかわかってるの?」
年齢も教員歴も真由美のほうが上だが、普段は敬語で話してくる。
その真由美が敬語じゃなく、タメ語で話してくるので黒岩は驚いていた。
「答えなさい、黒岩!」
まさかの呼び捨てまでされ、「は、はい!」と返事をしてしまった。
なんで俺ばかりこんな目に…
とりあえず言い訳を必死に考える。
「そ、そうは言っても…なにかあったあとじゃマズいじゃないですか…全部担任の僕のせいになるんですよ」
「何があるっていうの?ハッキリいいなさい」
「その、ほら…竹下がいやらしい目で一緒お風呂に入ってる女子たちを見たり…変な気を起こしたり…」
「そんなことあるわけないでしょ!あんた本当に自分の生徒をちゃんと見てるわけ?竹下が普通の女子と同じように笑って、大谷や三上と笑いながら抱き合ったりふざけあったりしてるの見たことないの?わたしは担任じゃないのによく目撃しているのに」
「そ、そんなこと言っても竹下ばかり見てられないですよ…ほかの生徒も見ないといけないし」
「竹下は特異なんだから気にして見るのが担任の役目でしょ!それにね、クラス全員が反対してる理由わかる?みんな竹下がもう普通に女子だってわかってるからだよ。あのクラスでそれをわかってないのは、担任のアンタだけ。もっと真剣に生徒たちと向き合いなさい、教師は授業だけしてればいいわけじゃないの、いまさらこんなこと言わせないで!」
なんでも荒立たないよう無難にやり過ごしていたことが、
真由美にはすべてバレていたので、黒岩は反論できずに黙るしかなかった。
「今日の職員会議でもう一度この話をするから。アンタも担任なら担任らしい行動をとりなさい」
真由美は吐き捨てるように言って、部屋を出ていった。
「ふーっ…」
黒岩は思わず息は吐きだした。
どいつもこいつも無責任なこと言いやがって…
なんかあったら全部俺の責任になるんだぞ、
100%間違いが怒らないほうを選択するのは当然だろう。
まったく、竹下なんていう厄介な生徒のせいで…
男が女になったからって、中身まで女になるはずがないだろう。
俺が竹下の立場だったら、自分の身体でエロいことして、女湯に行ってみたり、
プールの更衣室に入ってみたり…普通そう考えるだろ!
くそ、もう一度職員会議で多数決を取ったら、
俺は賛成のほうに手を上げなきゃいけないじゃないか…迷惑な話だ。
心の中で散々文句を言ってから黒岩は教室に戻った。
すると、杏華が一枚の紙を手渡してきたので「なんだ?」と聞いたら
「クラス全員の意見をまとめました」と言ってきた。
めんどくせーな、と思いながら紙に目を通したら、
とんでもないことが書いてあったので目を疑った。
今後も竹下真央を特別扱いするなら、2年3組全の員が金輪際、学校行事には出席しません。
「なんだこれは!?」
しかも、その下にはクラス全員の名前まで書いてある。
「書いてある通りです。もしそうなったら先生の責任問題になりますよね」
「お、お前ら…」
「あとは先生にお任せします」
それだけ言って杏華は自分の席に戻った。
これじゃあ脅迫じゃないか!こいつら…
黒岩は怒りで紙をクシャクシャにしそうになっていた。
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ…
竹下が問題を起こして責任を問われる、
クラス全員が学校行事に参加しなくて責任を問われる、
どっちも俺のせいじゃねーか…
どっちの処分が重い?後のほうだな。
竹下の問題は竹下一人だけど、後のほうは全員だ、被害の少ないほうを選択するしかない。
「わかった、今日の会議でもう一度相談してみる。けどな、これは俺一人でどうにかできる問題じゃない、可能な限りはやってみるが、それでも無理だったら納得してもらうぞ」
そこでちょうどチャイムが鳴ったので、黒岩は逃げるように教室を出ていった。
逃げてもこのあと地獄が待ってるんだけどな…
黒岩は大きなため息をつきながら職員室に向かった。




