巴菜の提案
お風呂から出てきて、髪を乾かしながらスマホを見てみると、
龍弥からLINEが届いていたので見てみる。
(お風呂?出たら連絡ちょうだい)
なんだろう?とりあえず、やることやったらでいいか。
真央のやること、それは髪を乾かすのとスキンケアだ。
これらが終わった30分後に、真央は龍弥に電話をした。
「どうしたの?」
「ああ、話があって…」
やけに深刻な声で言ってくるので、ドキッとする。
別れ話…?付き合い始めたばかりなのに?
「嫌だよ、別れるなんて嫌だよ!そりゃ、今日は学校で恥ずかしい思いさせちゃったかもしれないけど…」
「ん?なに言ってるんだ?」
あれ…違った?
「誰が別れるなんて言ったんだよ?」
焦りすぎて大きな勘違い。
恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。
「だって…声が深刻な感じだったから…」
「お前な、深刻だったら別れ話と思うのか?被害妄想激しすぎるぞ」
「うっ…じゃあなんなの?」
「今日さ、西川と駅まで帰ったんだよ」
西川…あいつの話を別れ話と勘違いしたの?
すごいショックなんだけど…
ある意味悔しいが、今は龍弥の話を聞く。
「そしたら、あいつ好きな子がいてさ…」
「西川に好きな子?それは興味ある!」
面白半分に真央は食いついた。
「誰?誰なの?」
「まさかの衣香なんだよ…」
「え?衣香…ええええ!」
驚く以外の反応を示せない。
ビックリしすぎてスマホを落としそうになってしまった。
それぐらい衝撃的だった。
「それ本当なの?間違いないの?」
「こんなの冗談で言えないだろう…」
それもそうか…しかし何でまた衣香なの?
真央も龍弥も同じことを思っている。
源治の好きな相手が衣香でなければ、くっつけようと余計なことをしていたかもしれない。
しかし、衣香となれば話は別。
今までのいきさつもあると同時に、源治に衣香は合わないからだ。
見た目もかわいく、おっとりした衣香は普通にモテるだろう。
それに対し、源治はお世辞にもかっこいいとは言えず、オタク気質でネクラだ。
人間観察という趣味まであって、悪いやつではないが、
衣香と付き合うには申し訳ないけどタイプが違いすぎる。
それに龍弥に振られて次が源治というのも無理がある。
「これ…どうしたらいいんだろうな?西川、悪いやつじゃないんだけど…」
「うん、意外といいやつだよね、西川って。でも、違うよね…」
同じことを思っているので、結論がまったくでない。
「香蓮とかに相談してみようか?」
「ダメだ!それは絶対にダメだ!西川に誰にも言うなって言われてるから…」
それでは余計に八方塞がりだ。
うーん…
「衣香は西川をどう思うかな?」
今でこそ、龍弥と真央は衣香の友達だが、元は恋愛の三角関係だったので、
この2人が衣香に源治をどう思うかなど絶対に聞くことはできない。
「俺が言うのもなんだけど…タイプではないだろうな。文句も言われてるし…」
「だよねぇ…」
けど、文句を言ったのは真央のためでもあるので、
それでマイナスなイメージを持たれてるのも申し訳ない。
「しばらくは…様子をみるかないか、やっぱり?」
「そだね…」
それが2人の今出せる、精いっぱいの結論だった。
一難去ってまた一難、今回は別に衣香が悪いわけではないけど、
どうも衣香が絡むようになってからドタバタすることが多いと思った真央だった。
一週間が過ぎ、基本的には平穏な日々が続いている。
ただ、たまに衣香が教室へ遊びに来ると、その都度源治が衣香をチラチラと
見ているのがわかる。
わかりやすすぎる…
しかし、肝心の衣香はまったく気づいていない様子だ。
「じゃあまたね」
笑顔で手を振って出ていく衣香を源治は目で追っていた。
やりすぎだよ…
思わずため息をつきそうになったとき、巴菜が小声で聞いてきた。
「真央も気づいてるでしょ?」
「なにが?」
「西川、こないだから衣香のことばかり見てるよね」
「気のせいじゃない?」
とぼけてみたが、巴菜は完全に気づいていた。
おそらく、ほかにも誰か気づいているかもしれない。
それくらい、源治の行動はわかりやすかった。
巴菜が気づいたなら…巴菜には相談してみようかな。
気づいていない香蓮は、この日ちょうどよく佑太と会うので一緒には帰らない。
いいタイミングだ。
放課後、巴菜と2人でファーストフードへ行き、源治と衣香のことについて話をした。
「やっぱり…あの西川がねぇ。なんか意外。タイプ的に衣香みたいな子じゃないと思ってた」
「だよね。でもさ、西川って本当はいいやつじゃん?だからなんとかしてあげたいんだけど、相手が衣香だと…」
「うん、それに西川は絶対にタイプじゃないだろうしね…」
巴菜じゃなくても同じことを言うよね。
西川には申し訳ないけど、諦めてもらうしかないかな。
「一応…わたしから衣香に聞いてみようか?真央が聞くよりはいいでしょ?」
「うん…でも」
聞いても無駄だと思う。
せめて西川源治という男が、意外といいやつというのを知ってもらえれば…
そこで巴菜が閃く。
「みんなで遊びに行ったらどうかな?例えばわたしたちと一緒に」
一瞬、それはいい考えだと思ったが、すぐに夏の記憶が蘇ってきた。
特に彼氏をほしいとも思っていなかったのに、香蓮のためにダブルデートをして、
そのあと散々な目に遭った。
これをやったら、衣香に同じ思いをさせることになるかもしれない。
「紹介じゃないよ、単に遊ぶだけだもん!ほかに渡辺とか伊藤とかも誘ってさ。それに真央と木谷は誘わないから」
「え、なんで?」
「だって2人が一緒だと衣香も多少は気まずくなるでしょ?いくら衣香が付き合えっていっても、元を考えればね」
それはそうかもしれない。
「まあ、任せてよ!付き合うとか付き合わないは置いておいて、西川がどういう人間かを知ってもらうだけだから」
自信満々な巴菜を見て、任せてみようと思えた。
「わかった!よろしくね」
巴菜なら大丈夫、そういい聞かせて見守ることにした。




