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軍師ワナビーと傭兵くずれ

「まーたやっちまった……」

 盛り場の端っこで、長い黒髪を結んだ東洋人の男が独りごちていた。

 ヨーロッパの服装を着ているが、唯一羽織だけは豪壮な中国風のものであった。

 だがそれもカードゲームに敗北し、賭けの賞品として奪われてしまっていた。

 冬のイングランドの寒さは過酷である。シャツとズボンだけで野宿生活を続けていればほぼ間違いなく春を迎えることはできない。

「劉さんやい、今日も派手に負けてるじゃないか!」

 酒場の店員が東洋人の男を慣れた口調でからかってきた。

「あんた宿代も飯代もどうするつもりなんだい? 一冬ツケておけるほどこの村も余裕はないぜ?」

「ふんっ、村ひとつ数年は食えるほど蓄えさせてやったのによく言う。冬には冬の稼業があるから、黙って私の言うとおりにしておけばお前達ももうちょっと儲けられるよ」

「果たしてペテンじゃないかどうか。まあ確かにうちの村はあんたの言うとおりに麦を育てたら信じられないくらい収穫が増えたし、役人や盗賊からも守ってくれた。業者にも破格で売れるように交渉してくれたし、ひと冬と言わずとももうずっと居てほしいくらいだよ」

「はっはっはっ。この大明帝国が大忠臣、劉音様のありがたみがわかったかね夷狄どもよ。そうとわかったらとりえず毛布と酒を持ってきなさい」

「それにしても劉さん、あんたあのチャイナの国の役人だったんだろう? なんでこんな天国より遠いような所にある島国にやってきたんだい? 国にいりゃ大貴族様の生活ができているはずじゃないか」

「……」

 細く引き締まった上半身を起こし、法的所有権がすでに移った上着を羽織って劉音は苦々しく見栄を切った。

「首も髪も留めたかったからだ!」


 時は十七世紀半ば。明国は大いに荒乱し、ここイングランドでも未曾有の混乱が訪れようとしていた——


 暑さ寒さで睡眠が妨げられるほど、劉音文律はやわな根性をしていなかった。隙間風吹き荒ぶボロい酒屋の床でも寝れる時に寝ておけるし、どんなに精神が参っていても目の前に飯があれば食える時に食っておく男であった。

「……あとは悪夢さえ見なければ何も言うことはないんだがな……」

 劉音文律は、確実に自らに救うべき義務があるものを救えなかったことに対してのみ、自責の念を覚えていた。



次回

「UNSTOPPABLE GIRL」

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