表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

枯渇する資本と都市インフラの再起動

セクター7での致命的なインシデント「水供給の完全停止」。極限の疲労と魔力不足で倒れたアレンでしたが、彼に休む時間は与えられませんでした。生存のため、そして自身が奪い取った「管理者権限」を行使するため、彼は再び動き出します。

意識が途切れる瞬間の感覚は、強制終了された端末の挙動に似ていた。


……視界が再起動する。


網膜に映るのは、セクター7仮設拠点の無機質なコンクリート天井だ。鼻腔を突くのは、過負荷で焼けた回路から漂うオゾンの残臭。

身体を動かそうとして、左腕から焼けるような熱が脳に伝達された。


「っ……」


脳内で自己診断が走る。

左腕、広範囲の重度火傷。末梢神経へのダメージを確認。魔力回路のオーバーヒートに伴う物理損耗。不十分な休息ではマナ残量もさほど回復はしていない。


……無茶な出力の代償だ。


思考は冷静だが、肉体は悲鳴を上げている。

視界の隅、システムログの末尾には、簡潔な一行が刻まれていた。


『システム管理権限:譲渡完了。現管理者:アレン』


あの金色の髪の少女――都市システムの生きた「管理端末」だった彼女の術式を書き換えた際、中核にあるインフラへのアクセス権限を僕が強引に引き継いでいたのだ。日常的な屋敷の運営は専門の管理官に任せたが、セクター7の基幹インフラへの接続権限という重石は、僕の脳内にしっかりと居座っている。


「あ……起きた! アレン、大丈夫!?」


傍らにいたミーナが、身を乗り出すようにして僕の顔を覗き込んできた。少し離れた場所では、セイラが徹夜で僕のバイタルを監視していたのか、疲労の色を滲ませながらも眼鏡を押し上げている。彼女たちの瞳には明らかな安堵の色が浮かんでいるが、今の僕にはそれを受け止める情緒的な余裕が欠けていた。


「……またか」


掠れた声で、僕は苦い事実をこぼした。

前日の無理なシステム復旧によるオーバーヒート。その対価がこの腕の損傷と魔力枯渇ーほんの少しだけの回復ーだが、僕が倒れても問題は何も解決していない。


「気分はどう? 少しは痛みが引いた?」

「ああ。……それから、状況の報告を」


乾ききった喉が張り付きそうになるのを堪え、僕は掠れた声で現状の確認を求めた。事態は少しも好転していないはずだ。


「拠点の備蓄状況は?」


「最悪、かな。飲料水の配給限界はとうに過ぎてるわ。アレンが倒れてから、まだ水路は一滴も戻ってないの」


彼女の報告は、僕が予測していた通りの数値を突きつけてきた。

セクター7の生命線である水供給システムが死んでいる。これを放置すれば、このエリアに残された生存者は全滅する。


僕は不自由な左腕をかばいながら、右手でメンテナンス端末を手に取った。

システムに接続。僕の持つ「管理者権限」が承認され、遠隔地にあるろ過装置のステータスが次々と吸い上げられていく。


エラーコード:ERR-703。

ろ過装置第3ポンプ、完全固着。動作停止。

原因は……取水バルブ付近におけるバイオスライムの異常繁殖。


「……やっぱりか」


昨日、あの屋敷での臨界状態を回避するため、地下の冷却系へ強引に魔力を流した。その急激な負荷変動が、滞留していた配管内の有機汚染物質――バイオスライムを急激に増殖させたらしい。インフラを救うための行動が、別の場所でインフラの首を絞める。皮肉な因果関係だが、今の僕にはそれを嘆いている暇はない。


残されたマナは僅か。物理資材、ほぼ皆無。

それでも、システムを完全に停止させるわけにはいかない。


僕は痛む左腕を、手近な布で首から吊るすようにして固定した。神経のノイズがうるさすぎる。これで少しは演算の邪魔にならないだろう。


「おい、アレン! どこに行くの!? まだその腕じゃ……!」


立ち上がった僕の背中に、ミーナの叫び声が突き刺さる。だが、足を止めるという選択肢は僕の演算回路には存在しない。


「ミーナ、セイラ。僕が作業する間、ろ過装置の周囲の警戒と魔力的な異常検知を頼む。排気孔の奥から、バイオスライムの汚染反応が逆流してきている。……動けない理屈をこねている間に、セクター7の生存者は全滅するぞ」


「……無理よ、アレン! その体でそんな、バイオスライムの巣に手を入れるなんて自殺行為だわ。お願い、今は休んで……!」


「彼の言う通り、機能停止による再起動コストの跳ね上がりは致命的です。ですが、その損傷での単独作業もまた、極めて非合理的ですよ」


僕の肩を掴もうとしたミーナの手と、セイラの論理的な制止を、僕は冷徹な言葉で遮った。


「システムが完全に停止すれば、再起動のためのコストは指数関数的に跳ね上がる。最悪のトラブル…完全沈黙を避けるためには、今、僕が直すしかない」


マナ残量、僅か。

もはや、乾ききった雑巾を絞るような状態だ。一瞬のミスが即座に死に直結する。


だが、ゼロではない。残された僅かな魔力があれば、論理的な解体を遂行するトリガーにはなる。


僕は歪む視界を強引に固定し、セクター7の心臓部――バイオスライムが巣食うろ過装置のある暗がりの底へと歩みを進めた。死重となった左腕を引きずり、インフラ復旧という名の生存競争に再び身を投じる。


己の限界を理解しながらも、足を止めることを許さないアレン。彼がセクター7のインフラへの管理者権限を持ったことで、街の生存は完全に彼の双肩にかかっています。バイオスライムが異常繁殖したろ過装置。魔力も資材もない状況で、彼はどうやって物理的清掃と再起動を行うのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ