ギルドに行こう
翌日、ハートとリルフィリア、そしてウィンクルムの三人は朝から宿を発ち、ビブリアの街のなかにあるギルドに向かった。
「ここかな……?」
魔法学校の校長が渡してくれたギルドへの地図を見ながら、リルフィリアが一つの建物を指差した。
レンガ造りのその建物は三階建ての大きな造りで、アーチ状の入口に『ギルド』と書かれた看板が吊られていた。
「入ってみよう」
中に入ってみると、一階は広いフロアとなっていた。
「うわぁ……」
ハートの目に何より先に入ったのは、フロアにいた大勢の人たちであった。
ある者は鎧姿のその背中に大剣を背負い、ある者は漆黒のローブを羽織りその手には魔石の輝く杖を握り、またある者は筋骨隆々の巨大な体躯に拳闘士の装具を身に纏っている──皆、このギルドに登録している様々な職業人であった。
(かっこいい……)
様々な装いをした武芸者たちに、ハートは瞳を爛々とさせた。
彼らはそれぞれ、フロアの壁や立てられている掲示板の前で、仲間とおぼしき他の武芸者と一緒に何かを見ている。
壁や掲示板に隙間なく張られていたのはこのギルドに寄せられたさまざまな内容の依頼書であった。
「奥が受付だな」
そう言ってウィンクルムがハートたちの先に立ちフロアを進む。
ギルドの登録者の間をすり抜けた先に、受付のカウンターがあった。
「こんにちは、ギルドへようこそ」
ハートたちがカウンターの前に立つと、受付のお姉さんが笑顔で挨拶をしてきた。
「こちらのギルドに依頼を出したいのだが」とウィンクルム。
「はい!どのようなご依頼ですか?」
受付のお姉さんの対応は快活で愛嬌あふれるものだった。
もっと物々しい場所かと想像していたハートは、その人当たりのよい物腰に好印象を抱く。
「王都まで、我々三人の護衛をしてくれる人材を探したいのだが、可能だろうか?」
「はい!そういったご依頼も受け付けています。詳細を伺いたいのですが、こちらの紙にお書きになりますか?初めての方は、係の者がお話を伺うこともできますが?」
「そうだな……出来れば手助けを願いたい」
「かしこましました。では、奥のお部屋へどうぞ」
詳細を聴くために別室に案内されたウィンクルムが、ハートとリルフィリアの方を振り向く。
「二人とも、私は少し行ってくるが構わないか?」
「あっ、はい」とハートとリルフィリアは互いに顔を見合わせてウィンクルムに頷いた。
「三人とも行くことはないだろう──二人はここで待っていてくれ」
「わかりました」
そう言ってウィンクルムは、別のところからやって来た他の女性受付員に連れられて、奥の部屋に消えていった。
「すごいね、ハート」
ウィンクルムを待つこととなったハートとリルフィリアは、受付カウンターから離れ、近くの掲示板にあった依頼書を一緒に見ていた。
掲示板いっぱいに張られていた依頼書には、様々な内容────魔物の討伐や、聞いたことのない名前の植物の採集、目的地への護衛など──が書かれていた。
「うん……」
ハートの口から自然と息が漏れる。
大人の──外の社会ではこのようなことが日常として行われていたことに、自宅と魔法学校を行き帰りするだけだった二人は、新しい世界に触れた心地だった。
「やっぱりあの人たち、すごい強かったりするのかな……?」
「絶対強いよ──多分」
リルフィリアとハートは、フロアにいる剣士や魔術師をちらちら見ながら小声で話し、その想像を膨らませていた。
「まだかな、ウィンクルムさん」
ウィンクルムがフロアの別室に入ってからそこそこ時間がたった頃、ハートがそう言った。
「そうだね」とリルフィリアが答える。
「──俺たち、なんかちょっと場違いな気がするんだよな……」
ハートが、はは……と居心地悪そうに笑う。
確かに、周辺を武装したギルド登録者たちが占めるなかで、背格好が完全に子どものハートとリルフィリアは浮いて見えた。
現に、ハートたちのことが気になっているのか、じろじろとハートたちのほうを見る者たちも出始めている。
すると……
「おい、お前たちも冒険者なのか?」
「えっ……」
突然、端から声をかけられて、ハートとリルフィリアはその声のほうを振り向いた。
見ると、背の高い屈強そうな男三人が、ぞろぞろとハートたちの方へ歩いてきた。
腰にはそれぞれ剣を納めた鞘を提げており、体には革製の防具を膝や肘、胸に部分的に身につけている。浅黒く焼けた肌に粗暴な印象の顔つき──冒険者というよりは野盗のような男たちであった。
「いや、俺たちは……」
「ちょっと俺たちと話そうぜ」
ただ依頼に来ただけです──とハートが言おうとしたが、三人の男たちはそれを遮ってハートとリルフィリアをとり囲んだ。
「冒険者同士、情報交換は大切だからなぁ」
「ちょっ……」
へっへっへ、と笑いながら男二人がハートの左右に立ち、ハートの肩をそれぞれ掴んで、リルフィリアから離そうとする。
抵抗しようとするハートであったが、男たちの大柄な体に押されて、そのままリルフィリアと分断されてしまった。
「ハート!」慌てたリルフィリアがハートに手を伸ばそうとするも、
「お嬢ちゃんは俺と話そうぜ」
と三人目の男がリルフィリアの腕を掴んだ。
「やめてください──」
「リルっ!」
嫌がるリルフィリアに不躾に触れる男の姿を見て、ハートの頭にぐわりと血が上った。
「どけっ」
左右の男二人をかき分けてリルフィリアの元に行こうとするハート。
「おっと」
しかし、ハートよりもずっと大きい体をした男たちに、ハートは引き戻されてしまう。
「ハートっ」
二人の男の向こうで、リルフィリアが助けを求める。
こいつらの狙いは俺じゃなくてリルフィリアだ──男たちの言動からそう感じたハートは、強引に男たちの手を振りほどくも、すぐさま男たちにそれ以上の力で抑えこまれてしまった。
「はなせっ──ぐっ!!」
抵抗するハートに、右の男が小さな動きでハートの腹を殴った。暴力でハートを黙らせようというのだ。
「ぁ"──」
鳩尾に響く痛みに苦悶するハート。
「ハートっ」
リルフィリアが残る一人の男に連れ去られそうになるのが、ハートの視界の端に見えた。
「待て──」
しかし、二人の男が依然としてハートを取り押さえるせいで、体格でも力でも劣るハートは身動きができない。
「いいからボウヤは大人しくしてろよ──」
そう言って今度は左側の男がまたもやハートの腹に拳を入れようと腕を振った。
────その時だった。
ガシッ!
「っ!?」
何者かの手が男の腕を掴み、その動きを止めた。
(ウィンクルムさん……?)
彼女が助けに来てくれたのだろうかと顔をあげるハート。
(────誰っ?)
しかし、そこにいたのは、見ず知らずの一人の少年であった。




