旅立ちの準備
「そうとなれば、旅の仕度を今一度整えねばならん」
校長が今後の動きについて話し出した。
「先のウィンクルム殿の気持ちは理解した──とはいえ、ウィンクルム殿一人でこの二人を守るのは、荷が重かろう……旅には食事や夜営の手間もかかる」
「──はい」とウィンクルムが頷く。
その顔には先ほどまでの重苦しい雰囲気はなく、きりっと前を向いている。
「この街から王都にたどり着くには何通りかの道のりがあるが、そのいずれを通るにせよ、その旅路は容易くはない──それに賊の行方も気になる」
校長が次に言及したのは、昨日の襲撃者のことだった。
「退けたとはいえ、賊はまだ、お主たちを狙って近くに潜んでおるかもしれぬ──やはり旅の供が……それも訓練された者が必要であろう。ウィンクルム殿、ゲーンズ隊長に手勢を割いてはもらえぬか、訊ねてみてはどうかな?」
「──なるほど。はい、そうします」
校長の提案に納得したウィンクルムは、ゲーンズを呼ぶために部屋の外で待機していた兵士に声をかけた。
しばらくして、ゲーンズが部屋にやってきた。
彼ははじめに、彼のほうでこれまでやっていたことの連絡──警戒体制を敷いていたもののシャルロッテの動向は掴めなかったことや、この一連の騒動をまとめ『ビブリア』の領主や王都に向けて知らせを走らせたことをハートたちに告げた。
そして校長をはじめとして、ウィンクルムたちが今後のことをゲーンズに相談した。
「──そこで、隊長の麾下の兵士をお借りしたいのだが……」
とウィンクルムが願い出る。
「──うむ……」
しかし、話を聞いたゲーンズは難色を示した。
「……正直に言うと、我が隊の兵士たちは、貴殿の隊の者たちより、個々の力も隊としての練度も劣ると思う」
(えっ?)
口には出さないが首を傾げるハート。
「仮に、今回ウィンクルム殿が連れたのと同じ数の兵士を従えても、もし似たような出来事に遭遇したとき、敵を撃退できるとは思えん」
ゲーンズは苦い表情で告白した。
そうなのか、と話を静かに聞いていたハートは内心驚く。
多数の魔物にあえなく斃れたウィンクルムの兵士たちであったが、それでも彼らはもともと精強な兵士たちで、決して弱かったわけではないのだ。
逆に、あの魔物たちがそんな彼らを蹂躙するほどの数と力を備えていたということになる。
ゲーンズの話は続く。
「かといって、大勢の兵を従えても結果は変わらないだろう……むしろ、賊がまだ君たちを狙ってビブリアの近くにいるとすれば、そのような大所帯は必ず目につく」
「……」
ゲーンズの指摘に、一同が沈黙する。
「ならば、ギルドを訊ねてはどうかな?」
静寂を破って、校長が提案した。
「ギルド?」
新しく出てきた言葉に、思わずハートが反応する。
「この『ビブリア』にも、他の街と同様、冒険者や流浪の強者が集うギルドがある」
校長が『ビブリア』についてまだ詳しくないウィンクルムに向けて説明する。
ギルド──それはハートも耳にしたことがある。
ギルドというのは、剣や弓、魔法術といった戦闘技術を身につけた冒険者や戦士や魔術師、その他さまざまな職能を持つ者からなる組合組織であり、そこに登録された冒険者らは、ギルドに寄せられた多種多様な依頼を、その成功報酬を目的として受託する。
兵士のようにその国や都市に雇われるのではなく、自分の腕一つで生計を立て、時には各地を渡り歩くその生き様には、憧れる子どもや若者も少なくない。
そしてギルドに登録されている者のなかには、強大な魔物を単独、あるいは少数の集団で討伐する手練れの武芸者もいるという。
「そこで旅に慣れており、かつ腕の立つ者を見つけてはどうかの?──彼らを雇うに要する金は、我ら学校が賄おう」
「なるほど、それはいい」
とゲーンズも賛同した。
「……感謝いたします」
ウィンクルムが校長に礼を言う。
「まあまあ、まだ然るべき者がいると決まったわけではないがの」
頭を下げたウィンクルムを校長が制する。
「──まずはギルドに向かい、こちらの要求とその報酬を提示するのじゃ。ハートとリルフィリアも同行するとよい。共に旅をする仲間をその目で見定めよ」
(なんか──すごい!)
ギルド、そして冒険者──これから未知の旅が始まる予感に、ハートの胸には今まで感じたことのない、わくわくする気持ちが芽生えた。




