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神器の召喚術

 ゲーンズの使いに連れられて、ハートたちは城壁近くの兵舎に向かった。

 そして案内された兵舎の一室に入ると、そこには魔法学校の校長と、五人の魔法教師が立っていた。

 シャルロッテの術に操られた彼らであったが、今はもういつも通りの様子に戻っていた。


「二人とも、此度はすまなかった」

 開口一番、校長先生が、ハートとリルフィリアに頭を下げ、それに習って五人の教師たちもそれぞれハートたちに頭を下げた。

 事情は、ハートたちが昨日の昼間に魔物に襲われたことを含めて、全てゲーンズから説明されたらしい。

「いえ、そんな……」

 ハートたち二人が当惑する。

 リルフィリアからしてみれば、彼らは普段から彼女を指導してくれる尊敬の対象である。一方でハートにとっては、試験など事あるごとに彼らを失望させているので、そんな相手に謝られるのは、二人とも落ち着かない気持ちになる。

「ウィンクルム殿」

 すると校長がウィンクルムの方を向いた。

「この子たちを守ってくれてありがとう」そう言って彼女に頭を下げる。

「──貴殿の部下の方たちは、気の毒であった……」

 気遣いの言葉を伝える校長。

「いえ……私は何も」

 そんな校長に対し、ウィンクルムは恭しく礼で返す。



「聞いたわハート。貴方、召喚術でリルフィリアを助けたんですって?」

 すると教師の一人、火属性を専門とする女性教師がハートに訊ねてきた。

「おお──不思議な剣と、あのマグナス様を召喚したんだってな?!」

 それに呼応して水の魔法教師もハートに詰め寄ってきた。

 二人とも魔法術の授業で面識のある教師だ。

「えっと……」

 授業や試験でため息しかつかれたことのないハートは、教師たちにまるで期待の生徒のように迫られて思わずたじろぐ。

「それなんですけど……武器とかを召喚できる召喚術ってあるんですか?」

 ハートはこれまで疑問だったことを教師たちにぶつけてみた。

「私は聞いたことがないわ……」

「私もだ」

 二人が首を振る。


「それは神器かもしれぬ──」


 すると校長が口を開き、皆が彼の方を見た。

「神具または神器──神々が扱うと言われる武器や器具のことじゃ。我々の召喚術はもともと天界との繋がりを作る術。ハートは召喚術を通じて、天界の神々が持つ武具を手にしたのかもしれぬ──わしも見たことはないがの」

「神器……」ハートが呟く。

「ハートが手にしたという光の剣は、まさに神話に語られる聖剣そのもの。神話ではこれを『カエルム=グラディウス』という。『天の剣』という意味じゃ」

「──じゃあ、あの杖と本は……」

「まさしく大魔術師マグナス様の扱われるものであろう。その御姿まで現されたことはまことに希有であるが」

 神々が操る武器──確かにそれならあの絶大な強さにも納得がいく。

 それに、天使と肩を並べる存在であるマグナスの出現もまた、ハートが手にした武器が、人界のものでないことを裏付けていた。


 そんな武器を操る力が自分にあるなんて──ハートの胸にじわじわと興奮が沸いてきた。

「すごいな……」

 教師の一人が呟く。

「ええ、リルフィリアと並ぶ逸材──もしかすると、それ以上かも」と、女性教師が口元に手を当てて言った。

(リルフィリア以上……)

 女性教師の言葉に、ハートがぴくりと反応する。

 魔法術や学業に関しては雲の上の存在ともいえる秀才のリルフィリアを引き合いに出され、これまで学校でうまくいかないことばかりだったハートに、得意な気持ちが生まれる。

 教師たちのハートを見る視線は熱い。興味や関心、期待と称賛の色を帯びたそれは、今まで学校で教師たちに落胆しかされたことのないハートにとって、初めて自分という存在が認められたようだった。

(俺だけの、力──)

 そしてこれは魔法学校の先生たちが誰一人として──校長先生ですらも──見たことも聞いたこともないような珍しい能力だ。

 自分だけが使える能力──そう思えば思うほど、ハートの頭に甘美な陶酔感が漂う。



「ハート。我々にその召喚術を見せてくれないか?」

 すると、水の魔法教師がハートに提案してきた。

「私も、マグナス様のお姿を一度でいいから見てみたいわ」

と女性教師。

「そうだな」と他の教師たちも続々と同調する。

「えっと…」

 教師たちに期待の目で注目され、どきりとするハート。

「わ、わかりました……」




「我、天と人とを繋ぐもの─.」

 ハートが召喚術の詠唱を始め、ハートの前に魔法陣が出現する。

 教師たちがそれを間近で見ようと、校長先生より前に来て、魔法陣を囲む。

 教師たちの視線が、ハートと魔法陣に集中した。


(…………)

 しかし、ここでハートの胸に戸惑いが生まれた。

(これ、出てきてくれるのか……?)

 呪文を唱えたものの、その先の言葉が紡げない。

 思えば、初めて光の剣を召喚したときはそれをどうやったか記憶がないし、マグナスの時も当初は──リルフィリアがシャルロッテに苦しめられるまでは──失敗している。

 何も起きないんじゃないか?──ハートの頭に、『失敗』の言葉がよぎった。

(出てくれ、なんでもいいからっ──)

 ハートが焦る。

 しかし、ハートの思いも空しく、魔法陣はしばしの間白く輝いたものの、その中からは何も現れることなくやがて消えていった。



「……」

 一同の間に沈黙が流れる。

(またかよ──)

 ハートが悔しい顔で息を漏らす。

 試験でのいつもの光景──先生たちにうまくいくかと期待されながら、しかし結局は失敗し、やれやれと肩をすくめられるその記憶が頭によみがえる。

「……」

 教師たちはまだハートに注目していた。

 召喚術がまだ続くと思っているのか、それとも何と言葉を発していいかわからないのか──静寂のなか、ハートは恥ずかしくて彼らに顔を向けられず、ぐっと下を見る。

「──くそっ」

 ハートが小声で悪態をついてぎりっと奥歯を噛み締めた、その時だった。


「召喚術で一番大切なのは、心からお願いすること」


 奥から、事の行方を見守っていた校長が口を開いた。

 彼の方を振り向く教師一同。

 ハートも俯いていた顔を上げた。

「きっとお主は、リルフィリアを守るために心から助けを求め、そして天はそれに答えたのであろう」

 校長の瞳が優しくハートを見つめる。その言葉にはハートを包み込む温かさがあった。

「召喚術とは天の助けに他ならぬ。我らの物見たさ一つのために応えられるべくもない」

 そう言って校長は、右手を己の胸に当てた。

「天に感謝しよう」

 そう言って目を瞑り、天に感謝の念を捧げ始める。

 すると他の教師たちも、先まで興味本位だった態度を慎むように後ろに下がって、校長のそれに習った。

 彼らの姿にリルフィリアもまた目を閉じて感謝の祈りを捧げる。

(神様の助け──)

 校長の言葉を噛み締めるハート。

 その力に傲りかけた自分を戒めて、ハートもまた胸に手を当てた。


他の作家さんと比べたら全然その数は少ないかも知れないけれど、この話を読んでくださる方のために、大切にこの物語を作ろうと決意。

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