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事情聴取②

「なに?」ウィンクルムの発言にゲーンズが驚く。

「人語?──魔物が話をしたのか?」

「ミノガントスは『女の子ども』と言っていた。おそらくこのリルフィリアのことを指していたと思う」

「魔物が言葉を話すとは……それで?」ゲーンズがウィンクルムの説明を促した。

「いや」ウィンクルムが首を振る。「私はミノガントスに敗れ、そこで気を失ってしまった──この二人の話では、致命的な傷を負っていたらしいが……ここからはこの二人に説明を頼みたい」

 そう言ってウィンクルムはハートとリルフィリアのほうを見た。

「あ、はい……」

 ハートが畏まった表情で口を開いた。

「魔物が襲ってきたって分かって、俺たちは馬車から出たんですけど」

 ハートが話し始めると、それを追うようにそばの書記役の兵士がペンを走らせる。

 それに少し気を取られながら、ハートは説明を続けた。

「辺りを見渡したら、そこらじゅうに狼みたいな獣がたくさんいて、どこにも逃げられない状態でした。兵士の人たちはそいつらと戦ってたけど、魔物の数のほうがずっと多くて……」

 ハートが口調を陰らせる。

「兵士の人たちは、そこでたくさん命を落とされたと思います……俺もその狼の魔物に襲われて……」

「そうか……」ゲーンズも深刻そうな表情で唸る。「それで、君たちはどうして無事だった?」

「はじめは、このリルフィリアが召喚術で助けてくれたんです」

「召喚術?」

「はい、リルフィリアが使い魔を召喚して、その使い魔が狼の魔物を何体か倒してくれました」

 ほう、とゲーンズが息を漏らす。

「まだ子どもなのに、それほどの召喚術を扱えるとは大したものだ──それで逃げられたのか?」

「いえ……」ハートが首を振る。

「そうしたら今度は、巨人みたいな、牛の顔をした大きな魔物がいて──」

「ミノガントス、だな」ゲーンズが相槌を打つ。

「──その魔物が、リルフィリアの使い魔を倒してしまいました……ウィンクルムさんが倒れているのにも、その時に気がついて」

「うむ……それで、どうなった?」

 ゲーンズが興味深そうに尋ねる。

「それで……」ハートが、言葉に迷う。

 ここからは、ハートにとっても不思議な出来事だ。記憶も断片的だから、うまく説明出来るか──

「……始めは、もう一回リルフィリアに召喚術を唱えてもらおうとしたんですけど、それに失敗して、俺はその巨人の魔物に吹き飛ばされました。そしたら、リルフィリアがその魔物に拐われそうになって……」

 ハートが確認を求めるようにリルフィリアのほうにちらりと目を遣る。

 リルフィリアもこくりと頷いた。

「何とかしないとって、俺は召喚術を唱えたと思います」

「君も、召喚術を?」ゲーンズが訊ねる。

「俺も、魔法学校の学生なので……」ハートが説明する。「でも、全然できないんですけど」

 ハートが独り気まずそうに自分を卑下して自嘲するも、周囲は黙ってハートの言葉を聴いている。それを見て、ハートは慌てて説明を再開した。

「そしたら、召喚術の魔法陣から、剣が出てきて」

「──剣?」ゲーンズがわずかに前のめりになった。

「あっ、すみません……ここから俺も記憶が曖昧なんですけど──そうだよな、リルフィリア?」

 ハートがリルフィリアに助けを求める。

「──はい」それを受けてリルフィリアが凛とした声で返事をした。

「私は、ハートの召喚術の魔法陣から、一本の剣が現れるのを見ました」

 リルフィリアがハートの説明を受け継ぎ、ゲーンズとウィンクルムが彼女のほうを見つめる。

「とても綺麗な剣でした──光輝いていて、それはまるで神話に出てくる聖剣のようでした」

「ほう……」

「ハートはその剣を手にとりました。そうしたら、ハートがものすごい強さで、魔物たちをやっつけました」

「彼が、一人でか──?」

 ゲーンズがリルフィリアに訊ねる。その顔は信じられないといった様子だ。

「はい。まずはミノガントスという巨人の魔物を、その剣で倒しました」

「ちょっといいか、リルフィリア」

 するとウィンクルムが割って入ってきた。

「剣を振るったというが、ハートには戦いの心得があったわけではないだろう?──その時の彼の様子はどうであった?」

 この間の出来事は、ウィンクルムも知らないところだ。

 今日一日続いた不思議な出来事の端緒となる場面──彼女自身も気になる箇所なのだ。

「はい」リルフィリアは頷く。

「剣を手に取ったときのハートは、まるで別人でした。動きも、私を抱えたまま空高く飛び上がったり、魔物を次々と切ったり、まるで何かがハートに乗り移ったみたいに……」

(そうなのか……)

 ハートも、リルフィリアの説明をどきどきした心地で聴いていた。──第三者の視点から見た、そのときの自分はどんな感じだったのだろう。

「狼の魔物は、とてもたくさんいたんですけど──」リルフィリアが続ける。

「ハートの剣から強い光が出てきて、その光を浴びた魔物は、みんな消えていきました」

「こんな子どもが、一人で……」

 ゲーンズが唖然とする。

 うん、とウィンクルムも頷いた。

 日々、戦いのための鍛練を積んでいた彼女ら兵士たちが敵わなかった魔物たちを、その光の剣を手にしたハートは一人で打ち払ったのだ。

 大人の騎士である二人にとって、信じられない話であった。


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