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騒ぎ②

「わかった。では兵舎へ向かおう」

 ウィンクルムの頼みを受け、兵士たちの隊長であるゲーンズは答えた。

 しかし、その表情はまだウィンクルムたちを訝しんでいる。

「ありがとう、隊長。──ただ……」

 ウィンクルムはここで、訓練場に倒れている魔法学校の校長と教師たちのことを説明した。

 それを受けてゲーンズは、さらに当惑した顔になったが、兵士たちに命じて教師たちを救護させた。

 教師たちはまだ目を覚ます様子はなく、そのまま身柄をハートたちと同じくゲーンズの言う兵舎に移送することになった。



 

 ゲーンズを先頭にして、兵士たちに周りを囲まれながら魔法学校から出るハートたち。

(こんなに人が──!)

 見ると魔法学校の門の外には大きな人だかりができていた。

 それはそうか──思えば、真夜中に魔法で戦い合って、辺りに大音響と光を出していたのだから人の目を集めて当然だ。

 しかし、こんなにも人が集まっていたことにハートは改めて驚いた。

「あっ、あの子よ!」

 すると、群衆のなかから一人の女性が、兵士の行列の中でハートのそばを一緒に歩いていたリルフィリアを指差した。

(──?!)

 その突然の挙動に、ハートとウィンクルム含め、周囲の者がみなリルフィリアに顔を向ける。

「えっ?」

 当のリルフィリアも、当惑した様子だった。

「天使さまよ!──私、見たんだから!」

「えっ──」

 女性の唐突な発言に、周囲の群衆がざわめき、兵士たちはどういうことかと顔を見合わせた。

「天使さまの降臨よ!」

 女性が興奮した様子で再び大声を出す。

「静かにしろ──」

 そんな女性をゲーンズが静止しようとするが、

「俺も空から何か降りてくるのを見たぞ!」

「俺もだ!」

 その女性に呼応したように、群衆の他の者も声を上げだした。

「おい──」

 にわかに熱をおびだした群衆に、ゲーンズが慌てた様子で彼らを静めようとする。

 しかし──

「天使さま!」

「この子に祝福を!!」

 箍が外れたように騒ぎ出す群衆。

 あるものはリルフィリアに向けて手を振り、またあるものはその腕に抱えていた赤子をリルフィリアに向けて掲げて示した。

「天使さま!」

 そしてとうとう、冷静さを失った群衆がリルフィリアに近づこうと兵士たちの列に押し寄せ始めた。

「落ち着け!」

「静かにしろ!!」

 冷静さを失った群衆と兵士たちの押し合い圧し合いが始まる。

「ハートっ!」

 集団ヒステリーを起こした群衆に、リルフィリアが怯えて隣のハートの腕にしがみつく。

「こっ、こっちだ」

 ハートは慌ててリルフィリアの体に腕を回し、彼女を群衆から庇う。

 なんだよこれ──リルフィリアを守ろうとするハートであったが、自身も驚きを隠せなかった。

(天使?!──降霊術のことか?)

 彼らが言う『天使』とは、先ほどリルフィリアが自身に憑依させた水の精霊のことであろう。

 空高くから舞い降りてきた精霊はとても幻想的で、事情を知らず端から見ただけの人にはそれが天使に見えたのかも知れない。

 もちろん、リルフィリアが召喚したのは天界の精霊であって、そのさらに上位の存在である天使ではない。

 しかし、ビブリアにはもともと神や天使を信仰する人たちが多く暮らしている。

 敬虔な信者である彼らが、今まで見たことがない現象を、天使の降臨と結びつけてしまうのは理解できなくもなかった。

 でも──と、ハートは戸惑う。

 まるで飢えた獣のように、リルフィリアに向けて押し寄せる群衆に対し、その中心にいるハートたちは恐怖を覚えた。

「道を開けろ!」

 ゲーンズが群衆に向けて怒鳴る。

 そして兵士たちに命じて群衆を押し返し、無理やり道を作ってハートたちを通過させる。

「天使さまー!」

 兵士たちが作った人の壁の向こうで叫ぶ群衆を尻目に、ハートたちは何とかその場を抜け出した。



(天使……)

 その騒ぎを少し離れた場所から見ていた少年──ゼンは、群衆の隙間から、騒ぎの張本人らしき少年と少女の顔を見つけた。

 あれが──その二人から特別な『なにか』を直感したゼンは、その顔を覚えてその場を後にした。


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