1対6──ハートvs校長
ゴォン……
「なんだ……?」
夜闇に覆われた『ビブリア』に轟音が木霊する。
その音を聞いて不審に思った街の住人が外に出て何事かと辺りを見渡した。
「なんだあれ……」
住民の一人が指差して、ほかの者もそれに気がついた。
『ビブリア』の魔法学校がある方向の空が、時折何かの光で明滅していた。
「──くっ!」
魔法教師たちの攻撃をかわしていたハートであったが、教師たちの奥でもう一人──魔法学校の学校長が動きを見せた。
あれは──
校長の手にはそれぞれ一本ずつ杖が──魔石は無属性の魔法力を内蔵する透明色のものだ──握られている。
杖の二刀流──右手の杖の先に赤の魔法陣が、左の杖の先に緑の魔法陣がそれぞれ出現した。
そしてその二つの魔法陣が校長の前で重なって合わさり、橙色の大きな魔法陣と変化した。
基本属性の火と風、その二つを合体させる発展技『複合魔法』である。
「──『フレアストーム』」
橙色の魔法陣から、巨大な炎の竜巻が発生した。
『ビブリア』随一の魔術師である校長がもつ強力な上級魔法だ。
火災旋風は、周囲の空気を取り込み膨らむように巨大化する。その炎は天をつくほど高く立ち昇った。
(まずい──)
巨大な炎の竜巻を前に、ハートは自分の背後──『ビブリア』の街並みに目を遣った。
自分一人がこの魔法をかわすことはできる。しかし、この巨大な炎が勢力を失うことなくこの魔法学校の敷地から外に出れば、たくさんの人がいる『ビブリア』の街が焼かれてしまう。
そうなれば、被害は甚大なものになるだろう。
──俺が止めないと……!
決意と、失敗は許されない緊張感で、杖を握るハートの右手に力がこもる。
そんなハートに、左手のマグナスの本が再びバラバラとめくれ、新たに別の魔法術がハートの頭にインプットされた。
迫りくる炎の竜巻にハートが杖をつき出す。
杖に据えられた青と緑の魔石が輝いた。
「──氷よ、時をも止めよ」
そのままハートが杖を空に掲げる。
上空に、魔法学校の敷地全体を覆う巨大な魔法陣が出現した。魔法陣は、訓練場で渦を巻く巨大な炎すら囲んでいる。
その色は輝く澄んだ水色──水と風の複合魔法である『氷属性』の魔法陣であった。
「『ゼロ=アブソリュート』!」
ハートの詠唱とともに、上空の氷の魔法陣から、凍てつく吹雪が吹き荒んだ。
ビュオオオオッ!!
強力な冷気が炎の竜巻に向かって吸い込まれていき、そして炎がかき消される。
魔法陣から生まれた冷気は、巨大な炎の熱を奪っただけでは足らず、『ビブリア』上空の大気を一気に冷やし、空気中の水分を氷結させた。
キラキラと『ビブリア』の夜空に、季節外れの雪が舞った。
(ハート……)
教師たちと戦うハートを見守るリルフィリアとウィンクルム。
しかし、周りを兵士に囲まれるなか、ウィンクルムはこっそりとリルフィリアの耳元に顔を近づけた。
近くにいるシャルロッテは、訓練場で教師たちと激突するハートを、目を爛々とさせて見つめている。
「──合図をしたら伏せろ」
ウィンクルムは小さく呟いた。
「!──はい」
一瞬はっとした顔をしたリルフィリアであったが、その最小限の言葉からウィンクルムが何かしようとしていることを察知して、すぐ返事をした。
「……」
ウィンクルムがタイミングを伺う。
ハートと魔法教師たちの戦闘で、激しい音がまた新たに響いた。
(──今だ!)
その瞬間、ウィンクルムが周囲の兵士たちに向かって突っ込んでいった。
そしてもっとも近くにいた兵士を殴り倒し、その兵士が持っていた剣を奪い取った。
「──ん?」
シャルロッテがウィンクルムの動きに気がついた。
「伏せろ──!」
しかし、シャルロッテが動くより早く、ウィンクルムがリルフィリアに向けて叫ぶ。
ウィンクルムが握った剣に魔法力を込めると同時に、リルフィリアがその場に伏せるのが見えた。
ウィンクルムは腰の横に下げた剣を、体を一回転させながら水平に薙ぐ。
──『ウインド=イノセイド』!
ウィンクルムを軸に三百六十度──全周囲へ向かって剣の刀身から衝撃波が放たれた。
ドカッ!!
衝撃波を受けた周りの兵士が吹き飛ぶ。
「あっ、ちょっ──」
突然の出来事に驚いた顔をするシャルロッテ。
「お前は逃げろ───」
ウィンクルムは兵士の包囲から自由になったリルフィリアに向けて叫びながら、手にした剣でシャルロッテに斬りかかっていった。
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