戦闘開始!
マグナスによって魔術師の装備一式を与えられたハート。
魔法力の粒子が周囲に漂うフード付きの魔術師のローブは、何か大きなものに守られているかのような安心感でハートを包んだ。
(こんな杖、見たことない……)
ハートは右手に握る杖を──特にその上部にはめ込まれている魔石をまじまじと見つめた。
魔石は、この世界に空気のようにあまねく存在する魔法力をその中に吸収、蓄積する性質を持つ特殊な石である。
魔術師の杖は基本的に、その魔石を柄の上部に取り付けた造りをしている。
魔術師は、杖に付属する魔石が持つ魔法力を利用することで、自身の魔法術を強化して発動する。
魔法術の増強装置──それが魔術師の杖ある。
(どれも大きいし、しかもきれいだ……)
マグナスの杖に輝く、いくつかの魔石。
魔石に取り込まれる魔法力は、魔石の大きさが大きければ大きいほど、またその純度が高ければ高いほど──質の高い魔石は宝石のような美しさを持つ──大きくなる。
マグナスの杖の魔石はそのどれもが大きく、宝飾品のような色調と透明感を持っていた。
それはその魔石が膨大な魔法力を内臓しているのを示唆していた。
だが、それだけではない──
(しかも五個も……?!──全属性の魔石がついてるのか)
魔石には種類があり、特に特定の色を持つ魔石は、それに対応する特定の属性を帯びた魔法力を──例えば赤い魔石は火属性の魔法力を持つというように──内包している。
ハートが驚いたのは、マグナスの杖には赤青黄緑紫の五色──すなわち火水土風雷という魔法力の基本的な五属性それぞれの魔石を全て備えていたことである。
普通の杖──例えばハートたちの魔法学校の先生が持つ杖をハートは見たことがあるが、そのどれも魔石は一種類──その教師が専門にする属性の魔石を備えているだけだ。
(でもこっちは……?なんで本が?)
ハートは左手に抱えた分厚い本を見て首を傾げる。
杖と違い、武器とは思えないその本は何のためのものだろう……?
ハートは無作為に本を開いて見た。
(これは魔法陣と──呪文?)
開いた本の左ページには、幾何学的な図形──魔術の構造式である魔法陣が描かれていた。
その隣の右ページは、上から下までをびっしりと埋める文章──呪文が記されていた。
(これ全部魔法術なのか──!)
魔法術は、その原動力──燃料ともいえる魔法力を、それぞれの『形』へと出力したものである。
魔法術の使用者の体内や魔石のなかにある魔法力を呼び起こすのが呪文であり、魔法力がどのような『形』になるのかを決定するのが魔法陣に代表される魔法術の構造式である。
マグナスの本には、開くページのどれもに魔法陣と呪文が載っていた。
この分厚い本の見開き全てがそれぞれの魔法術だとすると、その数は膨大なものになる。
──『私の力と智恵を貸してやろう』
ハートはマグナスの言葉の意味を理解する。
魔法力と魔法術──その二つを扱うために必要なアイテムをマグナスはハートに授けてくれたのだ。
「なあに、そのかっこう──?」
突然かけられた声に、ハートたちがはっとその方を振り向く。
そこにいたのは、先ほどマグナスにより吹き飛ばされたシャルロッテであった。
マグナスの魔法力の衝撃のせいか、纏まっていたショートヘアが乱れ、シャルロッテが着る制服の襟元ははだけて、スカートの裾の端が切れていた。
「ねえ、さっきの人は?」
シャルロッテが姿を消したマグナスの行方をハートらに問う。
その声色には怒気が織り込まれているのが感じられた。
ハートはキッと、彼女に鋭い眼を向けた。
──与えられたこの力で、戦うしかない。
「なあに、その目?」
シャルロッテが片方の眉を吊り上げる。
「魔術師みたいな格好しちゃって──きみが戦うの?」
シャルロッテが好戦的な台詞をハートに向ける。
「私、もう一回さっきの人と話しをしたいんだぁ……。ハート、また召喚してくれない?」
シャルロッテが芝居じみた甘ったるい口調でハートに訊ねる。
「……断る」
しかしハートは毅然とした態度でシャルロッテの要求を断った。
「ふーん……じゃあ、覚悟はいい?」
シャルロッテが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
すると、ザッと足音が鳴るとともに、ハートたちの周りに複数の気配がした。
ハートたちを取り囲む六人の人影──魔法学校の校長と五人の主任教師たちだ。
生気のない表情のなか、その瞳に怪しい光が帯びる。
「っ!──この人たちを解放しろ!」
ハートがシャルロッテに吠えた。
「……するわけないじゃん、何言ってるの?」シャルロッテはその顔にいよいよ苛立ちを隠さなくなった。
「この街ごと、きみたちを潰してあげるよ!──やれ、お前たち!」
シャルロッテの命令とともに、六人の魔術師がハートたちに杖を向けた。




