力と智恵
マグナスと名乗った魔法使いの男は、リルフィリアをシャルロッテの拘束から開放すると、地上のほうを見下ろした。
その先には、シャルロッテに操られている兵士たちに囲まれたウィンクルムがいる。
「散れ」
マグナスが無造作に、右手に握る杖を軽く前に出した。
「──!」
すると、地上のウィンクルムを中心に大きな魔法陣が出現した。
そして魔法陣から白い粒子が吹き出して、風となってウィンクルムたちの間を吹き流れる。
「なっ!」
その白い風に触れた兵士たちが、力を失ったように倒れていく。
自身は何事もないウィンクルムは、次々と倒れていく兵士たちを目の当たりにし驚愕した。
マグナスが呼び起こした聖なる風が、シャルロッテの『ヒューマンテイム』──闇の使役魔法にかかっていた兵士たちを浄化したのだ。
(すごい──)
それを間近で目撃したリルフィリアが、マグナスのその尊い姿に目を奪われる。
深い信仰心を持ち、日頃から魔法学校で神話や伝承に関する書籍を読み漁っていたリルフィリアにとって、それはまさに神の所業──奇蹟であった。
「ふむ」
兵士たちを無力化したマグナスが、ゆっくりと空中から降下し始めた。
マグナスの魔法に身を委ねるリルフィリアも同じくふわりと地面に降り立つ。
「リルフィリア!」
リルフィリアの傍にまずウィンクルムが、そしてハートが駆け寄ってきた。
「騎士よ」
マグナスがウィンクルムのことを静かに呼んだ。
「──はっ!」
ウィンクルムは思わず片膝を地面につき、頭を深々と伏せて忠誠を示す騎士の礼をした。
間近にしてわかる──その威厳は、ウィンクルムが王都にいるときに謁見したことがあるこの国の王のそれよりも畏れ多いものだった。
「その身を賭してこの者に尽くせ」
「っ──はっ!!」
その言葉を解釈して受け止めるより早く、反射的にウィンクルムは一層大きな声で返答した。
ザッ──ザッ──
マグナスが今度はハートの前に歩んでいく。
「小僧、お前に私の力と智恵を貸してやろう」
「えっ──」
「示してみよ。お前が『剣』であるのなら──」
マグナスは一方的にハートにそう告げた。
戸惑うハートがその言葉を理解する前に、マグナスの体を光が包む。
その光が霧散するとともに、マグナスはその姿を消してしまった。
「?──うわっ!」
マグナスがいなくなったかと思うと、次の瞬間、ハートの足元に白い魔法陣が現れ、そこから何本もの光の柱が立ち上がった。
これは────!
膨大で、しかも強力な魔法力がハートの体を包む。
その光のなかで、魔法力の粒子が徐々に集まって形を成した。
形を成した魔法力は光の衣となって、ハートの両腕と胴体を覆う。
それはマグナスが着ていた魔法使いのローブ──光を糸にして織ったような美しい賢者の衣であった。
魔法陣から溢れる魔法力が、その長い裾を波打たせた。
しかし、それだけではなかった。
魔法力の粒子がハートの両手にそれぞれ纏まっていく形を結んでいく。。
光のなかから現れたのは二つのもの──ハートがその右手に握っているのは、先ほどマグナスが持っていた杖だ。
それは水晶柱のような美しい透明の長い柄を持ち、その頂部には五色の宝玉──火水雷風土の五属性それぞれの魔石が冠のような台座に据えられている。
また左手には、同じくマグナスが携えていた、硬い板紙の表紙で綴じられた大きな分厚い本──表裏の装丁は古文書のような意匠をしている──が抱えられていた。
「ハート……」
様変わりしたその姿を目にして、リルフィリアが唖然として小さく呟く
マグナスによってハートは魔法使いの姿になっていた。
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あとがき:どこかで『魔法陣』を算数の『魔方陣』に誤記しているかもしれません。
すみません。




