邂逅──少女シャルロッテ
「ん……」
目を覚ましたハートが身を起こして辺りを見ると、そこはどこかの執務室のような部屋だった。
「ここは……?」
ハートはそのなかに置かれていた大きなソファに横になっていた。
「目が覚めた?」
唐突にかけられた声に、ハートがその方を見る。
執務室の奥──大きな両開き窓を背にして置かれた立派な事務机の上に、誰かが直に腰かけていた。
「ここは学校だよ」
その小さな細い影から高い澄んだ声が発せられた。月明かりを逆光にしたその顔はハートからはよく見えない。
声の主は、座りながら組んでいた脚を解き、高さのある事務机からひょいと飛び降りた。
人影が、ソファにいるハートの近くまで近寄ってきて、ようやくその顔が見えた。
魔法学校の制服を着たショートヘアの少女であった。
「わたし、シャルロッテ。きみは?」
「えっ?──俺はハートだけど」少女の唐突な自己紹介にハートも思わず応じる。
「ふーん、ハート君っていうのか」シャルロッテと名乗った少女は、なにやら独り頷きながらハートのいるソファの周囲を練り歩いた。
「えっと……」
何から尋ねていいのか訊きたいことがありすぎてハートは迷った。──彼女が今言ったが、なぜ自分は学校にいるのか?シャルロッテというこの少女は何者なのか?それにリルフィリアたちは……?
するとシャルロッテが、
「なんか、荷馬車の行商人さんがきみたちのことを見つけたみたいで。それで先生が学校にきみたち三人をつれてきたんだよ」
と、ハートの疑問を言い当てるように説明をしてくれた。
「あっ……」
ハートの頭に記憶の切れ端が蘇る。
街道に倒れたとき、誰かが自分たち三人を見つけてくれたこと。そして、荷馬車に乗せられ『ビブリア』に戻ってきたこと。
「私は先生に言われてきみを見ていたの」
少女シャルロッテが続ける。
「そうなんだ……ありがとう」 ハートは少女にお礼を言った。
「俺の他に二人──女の子と、女性の騎士の人もいたんだけど……」ハートがシャルロッテに、リルフィリアとウィンクルムのことを尋ねる。
「あー」シャルロッテが笑みを浮かべる。
「あの二人のことなら大丈夫だよ──今、ここの医務室にいるから。きみは男の子だから別の部屋ってわけ」
そしてシャルロッテは恥ずかしいことを言ってしまったかのように、フフッと独り笑う。
「二人に会いたい?」
「それは、まあ」とハート。
「その前にちょっと質問」
ソファの側まで歩いてきたシャルロッテが、不意にすっとハートに顔を寄せてきた。
間近で彼女の大きな瞳がハートを覗きこむ。
果実のような甘い香りがした。
「魔物の大群に遭遇したんだって?──どうやって倒したの?」
「えっ?」
「行商人の人が言ってたよ。きみたちが魔物に遭遇したって」
「えっと……」ハートはその問いかけに戸惑った。
助けられたときすぐに気を失ってしまった自分は、彼にどこまで説明をしていただろうかとハートが記憶を巡らす。
「ねえ、教えてよ」するとシャルロッテがハートに詰め寄り、断りもなくソファに腰かけてきた。
ソファに下半身を伸ばしていたままのハートは慌てて脚を退ける。
それでもシャルロッテはハートの隣にぐいっと体を寄せてソファに座ってきた。
スカートから覗くシャルロッテの白い膝が、ハートの脚に触れる。
ハートはやたらと距離感の近い少女に思わず顔を逸した。
「えっと……」何と説明してよいか迷うハート。
魔物に襲われたことは説明しやすいにしても、そのとき起きたあの出来事──突如現れた謎の光の剣のことを話して、理解してもらえるだろうか?
「#君__・__#、どうやって魔物を倒したの?」シャルロッテが興味津々といった様子で再度訊いてくる。
「えっと魔物が現れて──」 ハートが事のあらましを一から説明しかけた、そのときだった。
「──?」ぴん、と何かがハートの頭に引っかかる。
──どうして彼女は、『自分が』魔物を倒したことを知っているのだろう。
ハートはわずかに眉を寄せた。
自分が記憶していないだけで、行商人に助けられたときに何が起きたかを全て説明したのだろうか──でも、あのとき自分はそんなに何かを話す余裕はなかったはずだ。
ハートはどうしても気になってシャルロッテに尋ね返した。
「──どうして、『俺が倒した』って、知ってるの?」
さっきの彼女の質問は言葉のあやだったかも知れない──そう思いながらもハートは、何か変な予感が頭をよぎって、シャルロッテにそう問いかけていた。
「え──?」
シャルロッテが、きょとんとした顔で首を傾げる。
わずかな沈黙──そして彼女は、そこで大きく破顔した。
「アハハっ!────うん!頭も悪くないね!」
突然笑い声を上げたシャルロッテに、ハートがびくっと身構える。
「よっ」
シャルロッテが体を揺らし、反動をつけてソファから立ち上がる。
そして立ち上がった彼女は、ソファに座ったままのハートを微笑みながら見下ろした。
「──ハート。あの二人に会わせてあげるよ」
先程まで表情豊かだった彼女が、すっと瞳を細めた。
「えっ──」
「入ってきて」
戸惑うハートをそのままに、
シャルロッテが、部屋の外に向けて声を出した。
すると、ガチャと執務室のドアが開き、誰かが静かに中に入ってきた。
「──?!」
ハートはその姿に見覚えがあった──この魔法学校の校長と、主任の先生たちだ。
虚ろな表情をした彼らが、ハートを取り囲む。
手にはそれぞれ杖が握られていた。
「ついてきて、くれるよね?」
シャルロッテがハートに言った。
その声のトーンは冷たさを帯びていた。
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