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アルフの心境

 元々僕はただの腕力だけが取り柄の農民だった。でもうちには兄弟がいっぱいいたし、このまま皆で農地を相続しても大した分け前はもらえなさそうだったから、十三の時兵士に志願した。

 兵士なんて大変な仕事をわざわざやりたがる人はそんなにいないから、多少幼くても志願は通り、僕は王軍に入った。若かったし戦った経験もなかったから最初はひたすら剣の鍛錬を積まされた。後から思えば鍛錬というよりはいじめみたいなものもあったけど、持って生まれた身体能力とセンスで僕の剣技はみるみる上達した。


 そして十五のころには部隊で有数の腕前になっており、近衛騎士に入らないかと勧誘を受けた。近衛騎士と言えば下級貴族に匹敵する名誉ある地位だし、当然給与もいい。平民でもなれる職業の中では一番高い地位だろう。

 そこで僕はその話を受け、近衛騎士に入隊した。最初は王族の護衛専門の部隊だと思っていたが、実際は特殊警察のような役割も担っているという。基本的に治安はその領地を治める貴族の役目だが、特に危険な組織や人物、広い範囲に渡って活動する反乱組織の調査などは近衛騎士が行うこともあるらしい。また、王都のような王家の直轄領の治安を守る仕事も兼ねていた。


 そして十七の時、近衛騎士の一人がレティシアという闇魔術師を発見し、交戦の末とり逃がしたという報告が入った。その騎士はレティシアが他人に危害を加える違法性の高い魔道具を開発していたところを突き留めたものの、見つかって戦闘になり、傷を負わされて逃げられてしまったとのことだった。


 その時彼女は試作品の魔道具を試しに使ってみたいと言っていたらしい。そして魔道具はある程度の魔法の素養がなければ使うことが出来ないものが多い。また、レティシアの自己顕示欲の高そうな性格から彼女は目立つところで実験を行うだろうという予測と合わせて、デルフィーラ貴族学園を含むいくつかの候補を重点的に警戒することになった。

 そして一番年齢が若く、学生の中に入っても違和感が薄い僕が学園に派遣されてきた訳である。


 これまで農家と兵士しか経験がなく、当然学校など通ったことのない僕にとって貴族が集まる学園生活は良くも悪くも新鮮なことだらけだった。

 最初は座学の授業についていくのがひたすらに大変だった。これまで読み書きすらまともに習わなかった僕にとって、それらのことが出来ていて当たり前の学園の授業はレベルが高かった。しかも放課後は学園で異常なことが起きてないか、周辺で事件が起こっていないか見回りをしなければならず勉強時間もとれない。それでも落ちこぼれては変に目立ってしまうので必死に勉強し、どうにか下の上ぐらいの成績を維持した。


 逆に体育や剣術の授業は簡単すぎて拍子抜けしてしまった。初日は危うく学年最強と言われるオルクを倒しそうになってしまい、慌てて手加減して負けたということもあった。しかし自分が手加減したことすら誰も見抜いていないようで安心した。


 また、軍に比べると全体的に人間関係がややこしかった。軍にいたときは気に入らない奴は直接暴力を振るわれたり、過酷な訓練をさせられたりしたが、学園では遠回しな仲間外れや陰口といういじめが多かった。将来の人間関係に繋がるためか、好きではない人と無理矢理仲良くするというケースも多く、表では仲良くしながら裏で悪口を言い合っている、という例もあった。

 他人の人間関係など本当はどうでも良かったが、仕事上最低限は把握しておかなければならない。また、怪しい生徒がいないかも見張らなければならず、その結果エマの外泊のようなしょうもない校則違反ばかりを次々と突き止めてしまった。


 そんな中、僕はレミリアというクラスメイトがいじめに遭っているのを知ってしまった。彼女は家が下級貴族なのに入学時に圧倒的な魔法の実力を見せたこと、そしてそのおかげで家柄と顔がいいオルクと婚約したことで嫉妬を受けているようだった。

 僕からするとそういうくだらない事情で他人を貶めるのはどうかと思ったが、目立つことはするなと言われていたので止めることも出来ずに苦々しく思っていた。


 それでもレミリアは他のクラスメイトと違い、腐ることもやり返すことも媚びることもなく淡々と自分の魔法の腕だけを鍛えていたので、そのストイックなところに僕は密かに好感を抱いていた。


 異変が起こったのは進級試験の時である。突然レミリアが魔力を失い、シルヴィアが魔力を得た。潜入して一年ほど何の手がかりもなかったので外れかと思っていたが、これは絶対に闇魔術と関係がある、と僕は確信した。通常の魔法では他人の魔力を本人に気づかれずに奪うことなど出来ない。


 そしてレミリアに話しかけようと機会をうかがっていると、彼女が同級生に暴力を振るわれそうになっているのが眼に入った。軍にいたときは暴力など日常茶飯事だったが、なぜか僕はレミリアが殴られそうになっているのを見ていても立ってもいられなくなってしまった。


 それから彼女を助けて事情を聴いたのだが、理不尽な目に遭っていたというのにレミリアは随分理性的で驚いてしまった。

 そして教会に呪いを解きに行ったとき、彼女は重要な“聖なる腕”を使う役を僕に任せてくれた。出会って間もない、しかも正体を隠して活動していた僕をここまで信頼してくれることに僕の心は大きく動いてしまった。


 きっとそんなレミリアに惹かれてしまったせいだろう、クラスメイトのミラがいじめられていた時もレミリアの頼みを断れずに僕は割って入ってしまった。そして仕事で集めた情報を使ってエマにいじめをやめさせた。本来は近衛騎士としての職務中に集めた情報を個人的なことのために使ってはいけないというのに。


 これまでずっと職務に忠実に生きてきたというのにレミリアと関わりだしてから僕は感情に流され過ぎていて不安になってしまう。しかし同時に、それでも悔いはないと考えている自分もいて驚いてしまった。近衛騎士としての任務と剣術の訓練以外で僕が何かに執着したのは初めてだった。


 そして僕が自分の気持ちをより明確に認識したのはそれから数日後のことだ。


 無事魔力を取り戻したレミリアは授業で元の力を披露した。それを聞いた元婚約者のオルクという男が図々しくもレミリアに復縁を持ちかけたのだ。レミリア本人から断るのが筋だろうとしばらくは黙っていたが、やがてあろうことか彼はレミリアの腕に触れた。


 その瞬間、僕は我慢が出来なくなって飛び出してしまった。


 そして気が付くと僕はオルクと決闘することになっていた。こうして僕は一年目を目立たずに乗り切ったのに、今ではクラスで一、二を争う注目の人になってしまったのだ。

 でもそれは僕がレミリアにどうしようもなく惹かれてしまったからだと思う。どんな時でもひたむきに自分の信じる道を進む彼女のことが気が付くと、僕の心の中で大きな部分を占めるようになっていた。


 そして、調査を進める動機もいつの間にか闇魔術師を捕えるためからレミリアのために移り変わっていくのだった。

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