第7話
文化祭が初日である。接客担当がそれぞれメイド服と執事服に着替える。
「かわいい」
「似合ってるよ」
「写真撮ろ」
みんな盛り上がってるなと思いながら辺りを見回していると、ミサトが近寄ってきた。
「写真撮ろうよ」
「良いよ」
気恥ずかしいけど写真に納まる。すると、着替え終わった男子が教室に入ってきた。そう、執事姿の北条君や東雲君が入ってきて、女子から黄色い悲鳴が上がった。
「写真撮って良い?」
「一緒に撮ろうよ」
「マジ、ヤバい」
そんな女子をかき分けて北条君が隣に来た。
「熊ちゃん、似合ってるよ」
「ありがとう。北条君もね」
「写真、一緒に撮ろう」
北条君の隣なんて更に気恥ずかしいのだが・・・ミサトが北条君のスマホで写真を撮ってくれた。
「あとで送るね」
「うん」
「あ。熊沢さんと北条君、お願いがあるんだけど・・・」
クラスメイトが寄ってきた。
「集客のために校内を回って宣伝してきてくれる?これ看板」
どうやら北条君を客寄せパンダにするらしい。良い作戦だ。でも・・・。
「私も行くの?」
「だって、熊沢さんは北条君とセットだから」
「うんうん。熊ちゃんと僕はセットだよね」
北条君は満足そうだった。まぁ、接客よりましか。
・・・と思った私が馬鹿だった。北条君が目立つのを忘れてた。一番、宣伝になるであろう校門付近に来たら、お客さんが北条君の写真を撮ろうと渋滞したため、私は交通整理のオバサンと化した。むしろ、北条君目当てで文化祭に来ている子とか居るよね?
あ、北条君の機嫌が急降下していくのが分かる。なんだかんだでクラスのみんなは、この美形に慣れてきているからな。あ、限界かな?
「熊ちゃん、他の所に行こう」
「・・・そうだね」
私たちは校門から離れることにした。
「少し休む?」
「うん。流石に撮られ疲れた」
休めるところ・・・私たちは裏庭に行くことにした。
裏庭に着くと、小学校低学年くらいの男の子が居た。一生懸命、目をこすっている。あれは泣いてるな。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんと・・・はぐれちゃって」
「そっか、お姉ちゃん一緒に探そうか」
「・・・うん」
「放送部で呼び出してくれるんじゃない?」
「そうだね。君、一緒に行こう」
男の子に手を差し出すとギュッと握り返してきた。心細いよね。北条君と放送部のブースに男の子を連れて行った。放送部はすぐに放送を入れてくれた。
「ごめんね北条君。休憩できなかったね」
「気にしないで。男の子を見つけられて逆に良かった」
「そうだね」
北条君はまだ何か言いたそうだ。
「何?」
「何か言いたそうだと思って」
「うん・・・熊ちゃんが思い出してくれそうで思い出さないなって」
「・・・小さい頃のこと?」
「そう」
「もう、教えてくれる?話したそうだし」
「そうだね。僕が迷子になった時、助けてくれたのが熊ちゃんだったんだよ?」
まだ日本語が分からない頃だった。デパートで迷子になった。周りの大人の目が怖くてフードを被って泣いていた。
「どうしたの?迷子?」
その時、同い年くらいの女の子が声をかけてくれた。日本語が分からない僕は、ただ泣くばかり。
「パパは?ママは?」
「・・・nicht」
「あれ?外国の子か~とりあえず、迷子センター行こう」
女の子は手を差し出した。僕はその手を取った。
「名前は?私は熊沢ヒカリ」
「わ?」
「熊沢ヒカリ。く・ま・さ・わ・ひ・か・り」
女の子は自分を指さして繰り返す。名前の事だと思った。
「・・・レオン」
「レオン君ね。あ、あそこで放送してもらおう」
放送で呼び出された親がやってくる頃には、女の子は消えていた。名前は確か・・・
「くま?」
それが熊ちゃんとの出会いだった。
・・・全然覚えていないんですけど!フード被ってたのか。それじゃあ私の美形レーダーに引っかからなかった訳だ。
前世を思い出してから積極的になったから、迷子もよく助けてたんだよね。迷子って同じ背の高さだと見つけやすいんだ。
「全然、覚えてないって顔してる」
「・・・ごめん」
「良いんだ。熊ちゃんにとっては普通の事だったんだよね」
「なんか恥ずかしい・・・」
「そうだ。忘れちゃってた熊ちゃんに罰ゲーム」
「え?」
「後夜祭のベストカップルに一緒にエントリーしよ?」
「・・・は?」
北条君は何を言っているんだろう。ベストカップル?カップル?
「そろそろ良いかなって」
「何が!?」
「分からない?」
「何も!?」
「あの時から、ずっと熊ちゃんが好きなんだよ?」
北条君からの告白に私は・・・頷くしかなかった。
中途半端な気もしますが、書きたいところは書けたので終わりにします。