クレルさん、久々に活躍してくれます
「ここ……で教えて下さるのですか?」
「ええ、そうですよ」
俺とレシファが今いる場所は、王国から結構離れた森。俺が少しの間だけお世話になった場所だ。
「この森って、もしかして“モンスの森”ですか?」
「名前なんてあったんだ……」
この森の名前など知らないが、確かにここが訓練する場所だと伝えた。
すると、レシファの足がガクガクと震えはじめる。
「あ、貴方は馬鹿ですか!?」
「え? なんですかいきなり! え? え?」
突然罵倒され、しかもレシファから言われ軽くパニックに陥った。
「この森が、どんな場所なのか知っていて此処を選んだのですか!?」
「え、そうですけど……一応」
「一応って、あなたねぇ」
レシファがひとりため息をついているが、正直俺は何故怒られているのか解らない。
「……まぁ仕方ないわ、どんな事でも乗り越えると誓ったのですから!」
そして今度は吹っ切れたように気合を入れた。
ーーーなんだあの人
ーーー《流石マスター、初っ端からこの場所を選択するとは……流石の私でも少々引いてしまいました》
ーーーく、クレルまで! そんなにヤバいのか!?
ーーー《例えるなら、なんの経験もない普通の子供に、「今から熊を石ころで倒す方法教えるからやってみろ」と言っている感じですかね》
ーーー鬼畜すぎんだろそれ
ーーー《それを今行おうとしているのがマスターですけどね》
ーーーや、やってやろうじゃねぇか! ここまで来たらレシファさんを一流にしてやるぜ!!
「ツダ君!!」
「ん? なんです?」
「さっきから何ぼーっとしているのですか! 返事くらいしてください!」
「あっ、すいません」
「それで、早速練習に入りたいのですが、何をすれば良いのです?」
「はい、それじゃあ早速……」
ーーー何させればいいんだ?
ーーー《しっかりしてください、マスターが鍛えるのですよ》
ーーーが、頑張る……けど、ピンチの時助言してくださいぃい!
ーーー《全く……仕方ありませんね》
溜息をつきつつも、どこか嬉しそうにクレルは承諾してくれる。
「早速、早速何をすれば良いのです?」
またぼーっとしているように見られたのか、少し苛立ち混じりに俺に返答を求めるレシファ。本気具合……というよりも、どちらかというと焦りが強く伝わってくる。
「早速、レシファさんの一番得意な魔術を拝見させてください」
「現在の実力を測るのですね……承知しましたわ!」
と言い、約十メートル離れた、一本の大きめな木に向かって詠唱を唱え始める。
「集え、風の子達よ……“風弾”!」
バァン
放たれた空気の塊は狙い通り木に直撃し、表面の皮を弾け飛ばす。
「お〜」
「どうでしょうか」
上手くできたのか、少し得意げな様子で尋ねてくる。
「正確性はバッチリですよ」
「正確性はですか……」
確かにレシファのコントロールは、並の生徒を遥かに上回る程に安定している。
しかし、
「威力が足りていないですね」
「やはり威力ですよね、正確に狙うとなるとどうしてもブレないように力を抑えてしまうのです」
レシファの言うことが本当であれば、逆に言うと十分な威力を出すことが出来る程の魔力があるということになる。
「少しお手本をしてみましょうか?」
「是非お願いします」
と言っても、正直この風弾という魔術は初めてだ。
ーーー恥ずかしいところは見せられないな
俺は先程レシファが使った木よりもさらに大きな木の前に、約二十メートル離れて立つ。
ーーーはじめに魔力の塊を右手に集めて……
早速そこで少し迷う。
風を魔力で作るか、魔力の塊に風を集めるか。
ーーーよし、集めるやつでいってみよう
俺は集めた魔力を……しかしここで俺はやめた。
ーーーどうやって集めよう……つか無理じゃね?
てことで作ってみた。
すると、右手にある透明な拳大の魔力の塊が霧散し、魔力を持った風が起こる。
ーーー……それだけ!?
てことでまだ手段は用意してある。
ーーー圧縮ね。これで解決
はじめからそうしろと言われても気にしない。
先程のように魔力の塊から、風を作り、起こった瞬間に圧縮する。
ーーーできた!
圧縮され、球状になった風。現実的に有り得るのかと思ったが、なんせ此処はファンタジーの世界。地球の常識で考えたら負けだ。
「いきますよー」
「随分と遅いですね」
「なんせ初めて発動するもんで」
そう言って、俺は木に向かって放つ。
ーーーちょっとズレたか
ドパァアン!!
常人には目にも止まらぬ速さで放たれた弾は、中心より右にずれた箇所に当たった。
コントロールはイマイチだったが、威力は抜群だった。
圧縮されていたからか、当たった瞬間に解放された風が木の中で爆発し、幹の半分を抉った。
「な、なんという威力……」
あまりの威力に唖然とするレシファ。
「何言ってるんですか?」
だが、あのクレルに鬼畜と称された俺は……
「今日中にここまで到達してもらいますよ」
手加減なんて一切しません。
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