ヴァンピィの日常
時間軸が少しだけ前の話です。
幻の吸血鬼の種族であるヴァンピィ。
彼女達吸血鬼は、今は幼いが、成長すればかなりの戦闘力を持つと言われている。
そんな彼女には、大切なものがある。
彼女をこの世に生み出した父のような存在である、パパ。
アカネの交際相手でもあり、魔王でもあるママ
最近会っていないが、お姉さんのような存在であるクリロ。
しっかり者で真面目すぎる、でも偶に遊んでくれるアルバート。
そんな、彼女達をいつも守ってくれているものの他に、もう一つ、大切なものがある。
それはーー
▽
「気をつけるのじゃぞ」
「いってらっしゃいなのー!」
いつもの様に、朱音を見送るリリィとヴァンピィ。
「さて、我は書斎に行くかの」
「ヴァンピィはもう少し寝てくるの」
これもいつもの会話。
「あまり寝すぎるのも良くないぞ」
「寝る子は育つの!」
「まったく……」
すくすくと育っていくヴァンピィを見ると、それ以上は言えなくなる。
「ほどほどにの」
リリィはそう言って書斎に向かった。
それを確認したヴァンピィも、寝室へ向かった。
ヴァンピィ用に低く取り付けた扉を開け、中へ入る。
「んし……」
そしてリリィに言った通り寝る……という雰囲気はない。
「~♪」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、窓のカーテンを開け、コンコンとノックした。
一体何をやっているのか、傍から見ればそう思う。
「きたの!」
ヴァンピィがそう嬉しそうに言った時、
巨大とまでは言わなくとも、大きな鷲のような生物が窓に向かって飛んでくる。
それにヴァンピィは笑顔を向け、窓を開けた。
そしてとうとう、その生物がヴァンピィの両腕をつかみ連れ去ったではないか。
「ひゃっふーい! なのー!」
最期にその言葉を残して……
▽
「パタさんと一緒だ楽しいな♪」
ヴァンピィは楽しそうに、空中散歩をしていた。
“パタさん”と呼ばれているのは、先程彼女を寝室から連れ去った生物。
『はぁ、バレて叱られても知らんぞ』
「だいじょーぶなの、ヴァンピィのいんぺいはカンペキなの!」
パタさんと呼ばれている生物、ヴァンピィと会話をしているではないか。
『隠蔽か……バレてるな、それは』
「そ、そんなことないの!」
『安心しろ、叱られる時は共に居てやる』
「大丈夫っていってるの!」
『はぁ……』
それにしてもパタさん、なんか色々と苦労してそうだ。
「とうちゃーくなの!」
着いた場所は、城から微妙に離れた小さな洞窟。
そこにヴァンピィとパタさんが入って行く。
「みんな元気にしてるかな〜」
『ああ』
暫く歩き、奥に着くと、
『キタ、キタヨ!』
『ヴァンピィダ!』
『ワーイ!』
猿、狐、兎等の様々な種類の生物が二人を迎えた。
「みんなー! 二日ぶりなの!」
ヴァンピィは三日に一度、リリィにバレない程度の日数(本人はそう思っている)でこの洞窟に訪れている。
この洞窟は元はこのような生物が存在しない、普通の洞窟だった。
では、何故こんなにも賑やかになってしまったのか。
そのヒントは、ヴァンピィに懐いている生物の目に隠されている。
彼らの目は、赤い色をしている。
赤ということはつまり、魔物ということになる。
しかし、何故魔物である彼らは、リリィを襲わないのか。
それについても、その目を見ればヒントがある。
その赤は、ほかの魔物とは違い澄んだ赤色をしている。
流石に神獣程とまでは行かないが、その目からは知性が感じられる。
実は、この洞窟にいる約二十匹もの魔物は全てヴァンピィの従魔なのだ。
彼女には、ある能力が目覚めていた。
それは、“服従”だ。
本来であれば、“捕獲”し、調教をして服従させる。
魔物という例はごく稀な前例しかなく、野犬を猟犬に調教させるのがほとんどで、これも最近ではほとんど見られない。
そんなヴァンピィの服従は、簡単にいうと“友達作り”だ。
先程の説明とは異なり、これは、使用者(つまり彼女)と、対象の二つが共に認めた場合成功するのだ。
逆に言うとどちらかが認めないと、成功はしない。
しかし、そのメリットは大きく、第一に魔物が味方に着くというのはかなりの戦力向上にも繋がる。
最大のメリットは、“絆”だ。絆は我々が思う以上に大きな影響をもたらす。
強制された服従では無い為、お互いのストレスが軽減され、時には持っている力以上の実力を配下に発揮させることも出来る。
とまあ、そんなとてつもない能力を開花させたヴァンピィだが、自分でも未だ自覚しておらず、彼女曰く、“お友達はみんなできるの!”とのことで誰でも出来るらしい。
さて、そこで疑問ができてしまう。
一体、どうやってヴァンピィは、一番初めの魔物を服従出来たのか。
それは「語り」である我々にも分からない。
いや〜、参るよまったく……本当に子供の行動力って恐ろしい……
「今日は何して遊ぶー?」
『オニゴッコ!』
『カクレンボ!』
『ヤダ! キノミトル!』
がやがやと喧嘩を始める配下たち。
「喧嘩はメッなの! ちゃんと全部やるから仲良くするの」
そうヴァンピィが叱ると、
『ワカッタ』
『ソレナライイ』
と喧嘩をやめた。
「みんないい子なの。じゃ、鬼ごっこからするの!」
そして二時間、休むことを忘れてぶっ通しで遊び続けた。
『お前はこいつらの姉のようだな』
「そうなの! パタさんのお姉さんでもあるの!」
いつもは守られる存在のヴァンピィ。
しかし、守る側にも憧れていたため、“姉”というワードが最高に気持ちがいい。
『なら、守る者の気持ちもわかろう?』
「……うん、もうお昼になるから帰るの! ママ達を心配させたくないから」
『それでよい』
パタさんは優しく微笑む。
『モウカエッチャウノ?』
「うん、また一緒に遊ぶの!」
『キヲツケテネ』
「うん、皆も仲良くね」
配下たちに見送られ、ヴァンピィはパタさんの背中に乗った。
行きは捕まって、帰りは乗るらしい。
「バイバイなのー!」
▽
魔王城・寝室
キィ……と、小さく軋む音がして窓が開いた。
「ただいまなの」
ヴァンピィがひっそりとした声で言う。
「ありがと、パタさん」
そう言うと、パタさんは飛んで行った。
「ふぅ……」
遊び疲れ、ベッドにコロンと横になる。
「ふぁ……んむゅ、むにゃ……」
自然と瞼が重くなり、
「すぅ……」
夢の中へ落ちる。
魔王城・書斎
「帰ってきたか」
ヴァンピィが居なくなっていることなど、知らないはずがない。
リリィはそう呟きながら本を閉じた。
「さて、昼ご飯でも作るかの」
少し早いが、どうせいつものように疲れて寝ているだろう。
「今日はアカネの言っていた、サンドウィッチとやらでも作るかの」
そしてお昼に、ヴァンピィが幸せそうな顔でサンドウィッチを頬張るのは……言うまでもないか。
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