ふざけんなし!
遅くなりました。すいません。
俺は怒りを覚えた。
突然強烈なプレッシャーを与えられ、俺の精神はボロボロになりかけた。
そしてどんなことを言うのかと思ったら……
ーーーメスたちの水浴びを見たいだとぉ
「ふざけるな!!」
ーーー《まったくその通りです》
クレルもあいつに対して呆れている。
そして、あの鹿野郎はというと
『ふざけるな? なんの事だ?』
きょとんとしていやがる。
そのリアクションに、俺はさらに怒りを募らせる。
「じゃあ教えてやるよ。耳の穴かっぽじって聞けや!」
そう言って俺は大きく息を吸う。
ーーー《さあ、マスターの怒りをあの鹿にぶつけてください》
ぎりぎりまで吸い、息を止めた。
そして俺は、あの鹿に負けないくらい大きく叫んだ。
「毛で覆われた奴らの水浴びで、興奮する要素なんてある訳ねぇだろぉがああああああ!!」
ーーー《はぁ〜〜〜〜っ》
『何を言っている!?』
俺の言葉に、鹿に微かな怒りが見える。
「それはこっちの台詞だ! 常に毛で覆われた状態でいるんだぞ!? 脱がないのになにがおもしれぇんだよ!」
俺が男子として極当たり前な質問をすると、
『馬鹿かお前は? 楽しそうにメス同士でキャッキャウフフしている姿が“尊い”……それだけで十分だろう』
さも当たり前のように言ってくる。
「変態かお前は!?」
ーーー《マスターが言う資格はありませんよ》
「そ、それに! 水に濡れた動物って毛がペタってなって、ガリガリになんじゃん!」
『それが良いのだろう! その美しい身体のラインがたまらないではないか!!』
「たまるし! めっちゃたまるし!!」
自分でももう、何言ってんのかわからなくなってきた。
『何を言っている、だいたいお前はーー』
ーーー《ほんっとうに下らない》
ぎゃあぎゃあと言い合ってから十分が経った。
「はぁ、はぁ、もういい。結局のところ、種族の違いということにしてやる」
『ふん』
むかつく野郎だ。
「ちっ、無駄に疲れたじゃねぇか……」
『お前がいちいち噛み付くからであろう』
「はあ!? お前がだろ!」
そう言うと、鹿は驚いたように目を見開いた。
『なんと、そこまで馬鹿だったとは』
「んだと、おい!」
『むっ』
睨み合う。
目を逸らしたら負けだと思い、お互い逸らす気配はない。
しばらく睨み合い、
「『はぁ〜』」
下らない。お互いにそう思った。
「このままいちいち、お前の相手していても疲れるだけだ」
『同感だな。お前の相手は疲れる』
「うっせ」
『ふん、だから宝物を持って帰れ。私は眠くなってきた』
あっち行けとばかりに、首を、ぶんっと振った。
「へいへい……じゃあな」
『もう来るなよ』
ーーーいちいちむかつくな
ーーー《マスターが言えたことではないですよ》
帰ろう。そう思って歩き出す時、
「あっ、ちょっとまてよ」
俺は足を止め、鹿に向く。
『なんだ?』
ため息をつくようにして、聞いてきた。
「お前さ、“覚悟を見せろ”とか言って、結局見せないで宝物貰ったけどどういうことだよ」
そう、俺は鹿にそう言われた。だが、覚悟を見せる前に宝物を受け取った。
『ん? ああ、その事か』
まるで忘れていたかのように言った。
『この宝物を使うことで、お前が欲望にまみれないような覚悟を見せて欲しかったのだ……覚悟と言うより、精神力だな』
だが、と言って鹿は続ける。
『その必要は無くなったからな』
「どうしてだよ」
訝しむ俺に、ニヤッと馬鹿にした笑みを浮かべた。
『この宝物の力により、“覗き”ができる。よって、それに慣れ始めると物足りなくなり、それ以上を求めてしまう。そして欲望にまみれる』
そこで何となく察した。
『だが、心配は無用だったな。お前にはそもそも、覗きという行為をできる度胸がないのだから』
「やっぱり変態だなこいつ!!」
ーーーしかもそんなんだったら、あんな痛めつけられる必要はなかったんじゃ……ああ、狼達の仇か
「ごめんな……お前の仲間を殺して」
そう思うと、申し訳なくなる。
『どうした急に』
「いや、改めて酷いことしたかなって……」
すると、鹿はくるりと俺に背を向けた。
『この世界は言わば、弱肉強食だ。生きるためには仕方の無いことだ』
「鹿野郎……」
結構カッコイイなと思っていると、
鹿野郎は再びこちらに向いた。
『鹿野郎では無い。私の名は“ホルン”だ』
不機嫌そうに名乗った。
「ホルンか」
『覚えたとしても、お前とはもう会うことは無かろう』
「そうかい」
『わかったのならさっさと行け』
鬱陶しそうにホルンは言った。
「へいへい」
そう言って俺は、早速宝物を取り出し、
「“○ーラ”」
魔王城へ転移した。
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