覚悟
「ぐっ……」
鹿に翻弄され続け、やっと動きが少し読めてきたところでそろそろ体力の限界が近づいてきた。
「ぐあああ!」
ほんの少しだけ見せた隙で、俺は蹴りを入れられ吹っ飛ばされる。
『お前の覚悟を見せてみろ』
聞き飽きた台詞も付いてくる。
一撃入れられる度に、その台詞が来るので、何回ダメージを受けたか数えられる。
ーーーこれで五十回……
それくらいに圧倒されている。
ーーーしかも一撃が強烈すぎんだろおい
そして余計なことを考えているうちに、
「くそっ!」
また重い一撃が俺を襲う。
『お前の覚悟を見せてみろ』
「うるせぇんだよ……」
ーーーこれで五十一回目……
このままでは、どうやっても勝てそうにない。
そう思い、俺はあることを考える。
ーーー『覚悟』……ねぇ
その“覚悟”について何か分かれば、何かが見えるかもしれない。
が、それと同時に
ズドォオォォン!!
鹿の攻撃を受けることになる。
ーーー取り敢えず、攻撃を受け続けることも“覚悟”になんのかな
と考えつつ、攻撃をくらう。
「いでぇ!」
ーーーでも痛いのはやだよ!
暫く攻撃を受け続け、
ーーーあれ? なんかおかしくね?
ふと疑問に思う。
ーーーあいつのバカ強い攻撃、何回も受けてんのに……
「なんで死なないの? 俺」
現に今も攻撃を受けて、滅茶苦茶痛いはずなのに、『死ぬな、これ』とは思わない。
ーーーどういうことだ?
そこで考えることに集中する。どうせ死なないから。
もし、致命傷を受けたとしても、直ぐに治すことができる。
そして俺は考える。
ーーーどうしてあいつは、俺を殺さないのか
単純にそれ程の攻撃力が無いからか?
ーーーいや、それは俺が一番わかってんだろ
あいつは殺そうと思えば、何時だって俺を殺せる。
ーーーじゃあ、ただ楽しんでいるだけなのか?
一瞬そう思ったが、
ーーーいや、それは無いか
そもそもそんな奴は、この森の強者にはなれないだろう。
ーーーじゃあなんで……
あいつは俺を殺さない。
そして“覚悟を見せろ”とか言う。
あの絶対的強者感……そこから察するに、そいつはこの森の主だと推測する。
だとすると
ーーー俺を試してるのか?
そう思った俺は、もうどれくらい受けたかわからない攻撃をくらった後、
『お前の覚悟を見せてみろ』
その台詞を聞く。
そして俺は、もうぼろぼろになった身体を起こし、
「な、ならよ……お前が言うその前“覚悟”って、なんだよ……ただそれだけ言われても困るっつの」
初めてそいつに話しかける。
そして、そいつはピタリと動きを止めた。
『やっとその言葉を口にしたか、若き愚者よ』
「口悪いな!」
無視されるかとも思ったが、反応してくれた。
どうやら正解だったようだ。
『私が言う覚悟……それは、私が守っている“宝物”を受け取る覚悟だ』
「宝物……」
ーーーやっぱりこいつがアルネスの森の主だったのか
「じゃあ、一体どんなやつなんだよ、宝物って」
俺がそう聞くと、鹿は目を閉じ、
『これだ』
と言った。
「は? 何もなーー」
そう言いかけた時、鹿の額が紅く光った。
「な、なんだ……」
そして、額から、ルビーのような五百円玉サイズの宝石がでてきた。
『これが私が守護する宝物、渡る紅玉だ』
ーーーこれがそうなのか
「その使用方法は……なに?」
聞いてばかりなので、遠慮がちに聞く。
『自分の訪問した地に一瞬で転移できるという代物だ』
「……はい?」
思わず聞き返してしまう。
『聞こえなかったのか? 自分のーー』
「わかったわかった! てか、チート過ぎんだろ!?」
ーーーこれがあればもしかして、元の世界にも……
そんなことを思ったのだが、
『お前の考えているようなことは出来ない』
鹿はそれを見透かしたように言う。
「なんでだよ……てか、俺が異世界から来たこと知ってんの!?」
この鹿には驚かされてばかりいる。
『予想はしていた。お前の行動、反応を見ればな』
ーーーな、なんつー観察力……
というより、もう心を読み取る力すらあるのかと思う。
「もしかしたら、俺以外にもいた? 異世界人」
あまりにも冷静なので、そういった経験があるのかもしれない。
『いや、今回が初めてだが』
ーーーうっすいリアクションだなおい!
そこで、いきなりあることに気がついた。
「これって、この世界の“人間界”繋がってないの?」
『繋がっている』
ーーーはぁ!?
「じゃあもうこれ、王様が言ってた転移門よりすげぇじゃん!」
あんな何人も使って発動するという手間が馬鹿みたいに思う。
『転移門? ああ、あの使い物にならない大規模魔法か』
ーーーつ、使い物になんないって……
「そ、そんなものを授かる覚悟って……」
どんなものか計り知れない。
『お前は私の仲間を殺した』
突然、絶大なプレッシャーが放たれる。
ーーーな、なんだ!?
戸惑いと、その恐怖に動揺する。
『あ奴等は少々……いや、かなり血気盛んだった。が、同時に仲間思いでもあった』
鹿は懐かしむように言う。
ーーーあ奴等……道中の狼のことか?
『そんな仲間を……お前は殺した』
鹿が一言放つ度、圧が強くなる。
「ぐぅ」
『奴らにもまだまだやりたいことがあった』
鹿は悲しむように言う。
「や、やりたいこと?」
それがなんなのか、何故か気になった。
ーーーな、なにぃ!?
俺が聞いた瞬間、今までとは比べ物にならないほどのプレッシャーが俺を襲う。
「がっ! ……はぁ!」
息もたえたえな俺に、鹿は口を開く。
『約束していたんだよ……』
すると、ふっ……とプレッシャーが消えた。
そしてまた強烈なプレッシャーが放たれ、
『いつか、この宝石を使って、メスたちの水浴びを覗こうと!!』
叫んだ。
「………は?」
ーーー《やれやれ》
いつも読んでいただきありがとうございます!
すいません、私用で一週間ぐらいお休みしますm(_ _)m




