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津田朱音

  朱音が異世界へ転移する前の、過去について話しておこう。


  本名 津田朱音。彼はごく普通の家庭に生まれた。銀行員の父、小学教師の母と二つ年下の妹、そして朱音の四人家族で幸せに暮らしていた。




  しかし、朱音が小学六年生の時、そこから悲劇が始まった。

 

  ある夕方の日、朱音の父と母はピアノ教室に通っている妹の青華(せいか)を迎えに行くと言って、朱音は留守番を頼まれた。


  「留守番お願いね」

  「うん! いってらっしゃい。父さん、母さん」

  「ああ、行ってきます。朱音も気をつけるんだぞ」

  「うー、分かってるよ、父さん。もう六年生なんだから」

  「そうか、じゃあ行ってくる」

  「バイバイ」


  朱音は手を振って見送る。


  それが両親との最後の会話になることも知らずに……


 

  ▽


  「遅いな、何してるんだろ」


  両親が帰ってこないまま一時間がたっていた。青華の通っているピアノ教室は、車で約十分程で着く距離だ。


  「もう八時になるよ……」


  すると、


  ……プルルル、プルルル、プルルル


  電話の音が鳴り響く。


  「……びっくりしたぁ、なんだろ」


  そう思い朱音は電話に出た。



  そして



 「え……」



  電話の相手はピアノ教室の先生だった。その先生の言葉を聞き、頭の中が白く染った。



  「あぁ、ああっ……!」

  『もしもし! 朱音君!! 大丈夫!?』



  朱音の耳には何も入ってこなかった。



  「しんだ……お父さんとお母さんが死んじゃった」



  先生からの報告は、まだ幼い朱音にとって充分過ぎる衝撃を与えた。



  その内容は、信号待ちをしていた朱音の父と母に、飲酒運転をして信号を無視したトラックが後ろから衝突したという内容だった。衝突された父と母の乗る車は大破し、二人とも即死だった。



  そんなことを聞かされた朱音は暫く呆然して、



  「うっ……うっ、ふぇぇえん! 死んじゃった! お母さんが、お父さんが死んじゃったあ!」



  朱音はその場に座り込み、迎えに来た祖母に宥められ、泣き疲れて眠るまでずっと泣きじゃくっていた。


 

  ▽


  そして両親が死んで一週間後


  朱音と青華を引き取りたいと叔父と叔母が祖母に言った。

  叔父と叔母の間には子供ができないので、是非とも朱音と成果を引き取りたいとのことだった。


  朱音としてはこのまま祖母の元で暮らしていたかったが、祖父も他界した今、何時までも祖母に負担をかけたくないとも思ったので、祖母には老人ホームへ暮らしてもらい、叔父と叔母に自分達を引き取ってもらうことにした。




  しかし、それは悪夢の始まりだった。



  引き取られて一ヶ月、朱音は叔父から虐待を受けていた。原因は叔父の少しひねくれた性格にあった。そして、その発端は実に些細なことであった。



  叔父は特に他よりも秀でた能力はなかった。つまり平凡な人間。

  そのため、自分よりしっかりとしていて面倒見の良い、尚且つ賢い朱音に嫉妬した。そしてすぐに耐え切れなくなり、あろうことか、朱音に暴力を振るうようになった。


 その行為は日に日にエスカレートしていき、食事を減らすことから始まり、殴る蹴るなどの暴行、そして最終的には熱湯をかけるなどといった事までされていた。


  それを見て叔母は恐怖し、朱音と青華を置いて出ていった。残された朱音達は、叔父に恐怖しながら生活をしていた。




  そしてある日、今まで妹である青華には暴言を吐くことはしていたが、暴力までは振るわぬ叔父であったが、とうとう青華にまで手を出そうとした。



  「クソが!」



  夜、叔父はいつもの通り朱音を殴りつけたあとにそれは起こった。


  その頃の朱音は身も心も傷つき、冷静な考えなどできない……いや、何も考えることすら出来ないほどに追いやられていた。


  そして



  「おい青華」



  叔父は青華を呼びつける。

  呼ばれた青華は、ビクッとした後に叔父の元へ近づいた。


  「な、なに」



  怯える青華に叔父は、頬を殴りつけた。





  「せ、いか……」



  それを見た朱音に、どろどろと黒い何かが朱音の中を染めていく。





  その衝撃で倒れて涙を浮かべる青華に叔父は、



  「もう朱音に飽きてきたからお前が俺の相手をしろ」


 

  と、下衆な笑みを浮かべながら、青華の服を無理矢理剥ぎはじめた。


  「やめて!」

  「うるせぇ!」


  抵抗する青華に殴りつけた。




ーーーヤメロ……


  じわじわと朱音を黒い何かが染め上げる。


 

  「やめて……」

  「黙ってろ!」


  それでも抵抗する青華に叔父は何度も、何度も殴りつける。




ーーーヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!



  「やめ……」


  とうとう青華の意識が薄れてきた。



  「はあ、はあ、やっと大人しくなったか」



  それを確認した叔父は服を脱ぎ始め、醜い声を出しながら、青華の身体へ手を伸ばす。

 



  そして

 



  ブチン


  朱音の中の余分な感情が切断された。


  「……コロス」


  黒い何かが朱音の中を全て染め上げ、それは真っ黒な殺意に変わった。

  朱音にあるのは純粋な黒い殺意だけだった。


  朱音は台所から包丁を持ち出し、今まさに清華の貞操を奪おうとする叔父に、背後から包丁を刺した。


  「あがっ」


  突然の不意打ちに驚いた叔父だが、朱音に抵抗して掴みかかった。



  だが、




  朱音は叔父の腹に包丁を突き刺す。子供と大人の力の差は歴然。しかし、所詮は人。刃物の前には無力であった。



 叔父は抵抗する力を失った。



  ぐったりと虚ろな表情の叔父に朱音は




 「死ねよ」




  トドメをさした。



  もう息のない叔父、そして既にボロボロの朱音にはもう体力が残っていない。



  筈だった。



  「あはっ♪」

 



  朱音はまだ叔父を包丁で刺し続けている。

 


 「あはっ、あはっ! あはははは!!」

 


  もうその手は止まる気配がない。


 


  「ハハ! ハハハ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!」



  朱音はもう狂っていた。



  刺す、刺す、刺す、刺す。何度も、何度もその死体に包丁を刺し続ける。


 

 「そこまでだ!!」



 突然、勢いよく開けられた扉から何者かが入ってきた。

 


  警察だ。

 


  近所の住人が、何やら様子がおかしいと通報して警察が駆けつけたのだ。



  ……現場はかなり酷いものだった。



  裸で気絶している少女、真っ赤な血を被り不気味に笑う少年、少年の座っているもの……おそらく死体であろう原型のとどめていない何かがあった。



  警察達はその現場を見て戦慄した。



 この死体はまだ幼い少年によって出来たものなのか


  と。



  その後、直ぐに朱音達は保護された。

  保護される瞬間、朱音は糸が切れたようにフッと意識を失った。


 

  ▽


  それから三日、調査によって叔父による虐待が明らかになり、朱音は祖母に引き取られることになった。



  目を覚ました時、朱音は先日の自分の行動を、まるで他人事のように感じていた。

 この時の朱音は、あの時のように狂っているわけでもなく、いつもの津田朱音であった。



  再び祖母と再開した時、事情を全て話された祖母であったが



  「辛かったねぇ……ごめんよ、気づいてあげられなくて……」



  と、朱音達を抱きしめ、涙を流して言った。



  「おばあちゃんはえと、しせつ? に行かなくていいの?」

 

  青華が首をかしげながら言う。


  幸いにも、外傷がそれほど無かった青華はすっかり元気になっていた。



  「何言ってんだい、もうあんた達を危険な目に遭わせたくないんだよ」



  そう言って祖母は二人を撫でた。



  「おばあちゃん大好き!」

  「そうかい、嬉しいねぇ。可愛い孫にそう言われるなんて……朱音、これからは婆ちゃんと一緒でもいいかい?」

  「うん……いいよ!」



  それから朱音は転移するまでの間、()()()()黒い感情を忘れることなく、いつまたそれが現れるのか怯えながら生活していった。


 


 


 


 



 




 


 

 


 

 


 

いつも読んでいただきありがとうございます!

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