ブツン
学院につくと俺はふと違和感を覚えた。
ーーー何かがおかしい
それは自分でもよくわからないでいた。いつもの教室。だけど何かが足りない。俺に関係のある、リリィにも関係のある人。
ーーー………人?
そう思っていると、教室に先生が入ってきた。
「おはようございます……」
先生は暗い表情をしていた。
「どうしたんです? 先生」
一人の生徒が心配して聞いた。
「皆さんに伝えたいことがあります」
すると先生は真面目な顔をして言った。
ーーーなんだ……
俺はなにか嫌な予感がした。
「レシファさんが行方不明になりました」
ーーーなにっ!?
クラスがどよめく。
そう、今日はレシファが教室にいない。これが違和感の正体だった。
「実は昨日の夜ーー」
先生の話では、昨日夜の二時半頃に突然レシファが屋敷から居なくなったそうだ。
ーーーその時って俺がレシファさんを送ってすぐの事じゃねぇか……
俺はその時、昨日レシファをもっとはやく返していれば、食事に誘わなければなどと、激しく後悔していた。
ーーー《マスター、今は悔やんでいても仕方ありませんよ》
ーーー分かってる……
俺は直ぐにレシファを捜すべく、この場から立ち去りたかった。
ーーー《ではどうします?》
ーーー決まってるだろ、今から探しに行くんだよ
ーーー《今から授業に入りますよ》
「関係ない」
そう言って俺は三階にある教室の窓から飛び降りた。
その行動を見ていた先生と生徒達は
「ツ、ツダ君!」
「おい! あいつ飛び降りたぞ!!」
「馬鹿だろ!」
「キャャャー!!」
心配する者、面白がる者、悲鳴をあげる者など様々いたが、その中の一人の男子生徒が窓から下を覗いた。
「お、おい! アイツいねーぞ!!」
覗いた生徒がそう叫んだ。
そのことに驚いたクラス全員は下を覗いた。すると、そこには飛び降りた衝撃でグシャグシャになったはずの朱音の死体は無く、飛び降りた形跡すら残っていなかったのだ。
「どういう事だよ……」
そう全員が思った。
▽
「おいあんた! 黒い髪のレシファって奴見なかったか!?」
「うぉ! なんだ?」
「いいから答えてくれ!」
「み、見てねぇよ」
「そうか……もし見つけたらそいつに魔王城に行けって伝えておいてくれ!」
「魔王城? 一体なにが……って、もう居ねぇじゃねーか」
教室から飛び降りた朱音は勿論怪我もなく、神速を使って街中を血眼になって探していた。
ーーーくそっ、ここにも居ない!
およそ三十分程で街の半分を探したが、レシファは未だに見つからない。
ーーー居ない! ここにも、居ない、居ない、居ない、居ない……一体何処なんだ!!
こうしてもう三十分かけて街の全てを探し回ったが、見つかる気配はない。
ーーー……街を出るか
そう思い、直ぐに神速を使ったまま街を出た。
▽
「はあ、はあ、はあ……」
神速などの技能は魔力を使うことは無いが、その分身体的体力の消費が激しくなる。その為、かなりの時間休むこと無く技能を行使していた朱音の体力は限界に近かった。
ーーー《マスター、少しは自分のことを心配して下さい》
ーーー今はそんなこと気にしてる場合じゃねぇ
こうして走り続けること更に三十分、様々な森を抜け、邪魔な魔物を退けて遂に……
「はあ、はあ、い、いた……」
そこにレシファがいた。
が、そのレシファは今まさに、盗賊と思われる男達に服を破られ、襲われようとしていた。
「や、やめて……」
レシファは完全に怯えきって、叫ぶことが出来ていない。
「火弾!」
俺は咄嗟に男の一人に攻撃した。
「ぐはぁ!」
その攻撃は命中し、男は倒れた。
「なんだてめぇ!!」
それに気づいた男達は俺に向かって叫んだ。
「うるせぇ! レシファさんに何してんだ!!」
そう俺が叫ぶと、
「ツダ、君……」
俺に気づいたレシファが少し嬉しそうな表情をしたが、直ぐにその表情が暗くなった。
「逃げてください……貴方一人ではどうすることも出来ません、だから早く逃げて……わ、私が時間を稼ぎますので………」
そう言ってレシファは自ら服を脱ぎ始めた。
その顔には涙を浮かべ、怯えていた。
「ま、そういう事だ。今なら見逃してやるからどっか行きやがれ」
男のひとりがそう言ってレシファに手を伸ばす。
「やめろ」
そう呟いた朱音は一瞬でレシファの前に庇うように立ち、レシファに触れようとした男の腕を掴んだ。
「なっ」
それに驚いた男は掴まれた腕を振りほどいた。それにはレシファも驚いていた。
「一体何しやがったてめぇ!」
男がまた俺に叫ぶ。
「その前にひとつ聞かせろ」
そう言った朱音は、あの時と同じようにどろどろと黒い何かが自分の中を染め上げている感覚を覚えた。
「ツダ君?」
表情は見えないが、いつもとは明らかに別人と思えるほどの様子の朱音に、レシファは不安を感じた。
「お前らは何故“レシファ”を襲った?」
“レシファ”。朱音がそう言った時、レシファはいつもと違う呼び方に本当に別人になったかのように思えてきた。
「ああ? 教えるわけねぇだろーが」
「まあ、いい。どうせこいつはここで殺すと決めたからな」
そう言った一人のリーダーらしき男が、レシファを連れ去った理由を話し始めた。
「帝国の奴から依頼を受けたんだよ。その娘が欲しいってな」
男は話を続ける。
「あいつ、結構えげつねぇ事考えるんだぜ。縛り付けて何も出来ないところを壊れるまでめちゃくちゃにしてぇってなぁ。そしてその後は回復魔術を使って治して、また犯す。それを何回も何回も……ってな。あいつ、すげぇゲスい顔してたぜ」
と、ケラケラ笑いながら楽しそうに説明した。
そして同時に、朱音の中の黒い何かはどんどん朱音を黒く染め上げる。
「まあ、俺達は別に興味なかったんだけどよぉ……」
と言って
「実際に見たら先にめちゃくちゃにしてから渡すのも悪くねぇって思ってなあ」
そう笑いながら言った男の顔は、欲望に満ちた醜い顔だった。
そして朱音の中の黒いものはどんどん侵食し……
ブツン
「また、アイツの顔……」
朱音の中で再び何かが切れた。
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