スゲーな! リリィ様
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
「おかえりー……ん? 今日はレシファも一緒なのか?」
リリィのいる王室へ戻ると、既に料理を作り終えているようでとても良い香りがしていた。
「うん、別の用事で会ったんだけど折角だからね。いきなり連れてきて悪いんだけどレシファさんのもあるかな?」
「勿論、我はいつも沢山作っておるからな!」
「ああ、そうだな」
俺は毎日リリィの作ってくれた料理(大量)をなるべく沢山食べて、残った分を翌日の朝食として頂いている。流石にリリィの作った料理を無駄にするのはもったいないからな。
「すいませんいきなり……」
レシファが申し訳なさそうに言う。
「良い、みんなと食事をするのは良いことじゃからな」
「ありがとうございます!」
「では行くかの」
食堂についた時、何やら懐かしい嗅いだことのある美味しそうな匂いがした。
「スンスン……おお! 今日は生姜焼きか?」
「うむ、アカネが食べたいと言って教えてくれたからな」
俺は料理をあまりしなかったので、リリィに俺のきた世界の料理を教えようと思っても大体の材料と調理方法しか教えてやれない。にも関わらず、リリィはそれを完璧に近い形……いや、俺が思うに完璧に作ってくれる。
なので、やっぱり魔王よりも料理人の方がむいているとたまに思ったりもする。
ーーーにしても、完璧に日本の料理を再現してくれるリリィも凄いけど、それを可能にする食材も揃ってるっつーのもすげぇな。異世界だろここ、 地球のでもあんのか?
ーーー《魔物にもいるでは無いですか。マスターが戦った時のような熊や蛇が》
ーーーそういえばいたな
ーーー《しかし、この世界の生物は地球の生態系の関係通りではありません。従って、食べる物も異なりますので肉の質などが変わっていくのです》
ーーーじゃあ、この世界の牛や豚の肉は地球の肉とは別物みたいになるってこと?
ーーー《はい。なのでこの世界の生態系の中で地球の牛や豚に位置するものが今マスターが食べている肉で地球の肉を再現しているということです》
ーーーならさ、この肉は一体どんな……
ーーー《聞きたいですか?》
ーーーいや、やっぱ怖いのでやめときます
それがもし、想像を絶する生き物だったら笑えない。
「で? どうじゃこの“しょうがやき”というものは」
「ん? ああ、いただきます」
ーーーこ、怖い。これが一体なんの肉なのか……
「どうしたのじゃ? 食べないのか?」
「い、いや、えーと……」
「うっ、もしかしてお主は我の料理に飽きてしまったのか? ……それともやっぱり美味しくなくて今まで我慢して食べてたのか?」
そう思ったのか、今にも泣きそうになるリリィ。
ーーー何やってんだ俺! リリィが俺のためにいつも料理を作ってくれているじゃないか! それを食べるのに躊躇するなんて、このバカ野郎!
ーーー《今日はいつにも増して熱いですね》
ーーーはぁ? いっつもクールに決めてるだろーが
ーーー《うわぁ……》
そんなクレルの反応を無視して俺はリリィに言う。
「んなわけねーだろ、リリィの料理は世界一。そう決まっているんだよ、少なくとも俺の中ではな。だからお前の料理を食えねぇなんて絶対にあるはずがない」
「うー、じゃあなんで食べようとしなかったのじゃ?」
スカート姿のリリィはスカートの裾をぎゅっと掴み、ムスッと頬を膨らませながら言った。
ーーーはぁ〜〜〜! 可愛い! 可愛すぎるよ! なんなんだこの生き物は!!
ーーー《これがクールですか》
「実はな、いつもリリィが使っている肉があるだろ?」
「うむ、それがどうしたというのじゃ」
「その肉が一体なんの肉か気になってな……」
「なんじゃ、本当にそんなことか?」
未だにムスッとしたままのリリィが言う
ーーーあ、この流れは……
ーーー《“あれ”ですね》
ーーーああ、“あれ”だな。
ーーー《この流れ、乗りますか?》
ーーーあ○り前○のクラッカー
ーーー《………》
ーーー………
「ああ、本当だ」
盛大に滑り、クレルとの沈黙に耐えきれなかったので誤魔化すようにその流れに乗った。
「本当に本当か?」
「ああ」
その流れとは………まぁ、詳しくは『魔王との出会い二』を見たら同じようなやり取りをしているから良かったら見てみてね。
とまぁ、告知はそこら辺にして、そこからリリィは俺と何かある度に『本当か?』と何回も聞いてくる。それでこちらも『ああ、本当だ』などの肯定の返事をする。そうすれば最後にはリリィの満面の笑顔、通称 天使の笑みを拝むことが出来るのだ!
……だが、全て肯定をしたら無理な事もあるのでその時は残念ながら拝むことは出来ない。
しかし、申し訳ないが否定をされて残念そうになるリリィがこれまた可愛らしいのだ……もっとも、そう思っているとクレルにひどい罵声を浴びせられるという代償(本人は俺を変態だと決めつけてご褒美だとかほざいている)つきだが……
長くなったが、俺はこの流れを天使の時間の呼んでいる。
ーーーいやしかし、我ながらひどい矛盾を覚えるぞ。魔王なのに天使ってなんだよ
「本当に本当の本当か?」
「勿論! もし嘘だったらなんでも願いを聞いてやるぞ」
そこで俺は重大な間違いを犯した。
リリィが何故かモジモジし始める。
「なんだ?」
「そ、その、なんでも聞いてくれるのじゃな?」
「ああ、そうだけど」
ーーーなんだ? リリィの様子がおかしいぞ
「な、なら、我とその、今度この街でやる魔道祭に二人きりで行かないか!」
ーーーなにぃ!? そう来たか! くそう、天使の笑みを拝めなかったぁあ!
「って、嘘だったらの話だぞ。それ」
「そ、そんなぁぁぁあ」
リリィが弱々しくへたれこんだ。
「ならさっきの話、信じてくれるか?」
「うん……」
「よしっ、じゃあ行くか! 今度一緒に」
「よ、よいのか!?」
「ああ」
「やったあ!! えへへ〜」
するとリリィはパァっと満面の笑顔、天使の笑みを発動した。
ーーーキタァァァア!!
「我はこんなにも嬉しいこと初めてじゃぞ!」
「そんなにか?」
「そんなにじゃ! ああ、二人きりか〜」
と、とても嬉しそうな顔をしている。
「それに、一応こ、恋人だしな……」
「ん? 何か言った?」
「な、なんでもない!」
「ん〜?」
ーーーはぁ、リリィも都合のいい耳の持ち主だったか……
ーーー《で、マスターはそれに振り回され、自分からのアプローチも届かず、それをじれったいと思いつつも大胆なことが出来ない残念ヒロインですか?》
ーーー残念言うな! しかもヒロインちゃうわ!! ………それより、魔道祭か、楽しみだなぁ〜
そんなことを思っていると、
「ゲフン! ゲフン!」
置き去りにされていたレシファのわざとらしい咳。これも定番の流れだ。
「そんな甘ったるいことをしていないで早く頂きますわよ! せっかくの料理が冷めてしまいますわ!」
「ああ、そうじゃな」
「では、改めて頂きましょうか」
そう言ってみんなが手を合わせて……
「「「いただきます!」」」
ーーーでは、生姜焼きを一口
パクリ
「「うまーー!!」」
ちょうどレシファも食べていたのか、俺と同じ反応をした。
そして、今宵も魔王城では三人の賑やかな食事が始まるのであった。
あ、ちなみに肉の正体は“カバ”でした。
ーーーカバってなんだ、カバって……
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次回は6月23日更新です




