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蛇苺  作者: 美吉鶫
6/6

これな初恋なのだろうか

◆恋患い◆

明日から三日間、中間テストだ。

勉強は誰も苦手だと思うんだけど、僕は更に苦手だったりする。

明日からテストだっていうのに、家に帰っても全然勉強に身が入らない。

なぜなら、勉強の邪魔をする(つわもの)が二匹。この部屋に居るからだ。


「あっ!こら、田中。そのフィギュア触ったら絶対許さんからね。」

僕は一番お気に入りのフィギュアを死守する。


「いいじゃん。そんなに高いもんじゃないだろう?」

「バカ言うな。これは僕が小学生の時から新聞配達して貯めたお金で

 やっと買った大事な物なんだぞ!!」


こいつらを部屋に入れるんじゃなかったと激しく後悔する。


「ふーん。じゃ、こっちはいいんだよね?」

田中は自分の好みのキャラクターであるフィギュアを手にかけようとする。

「それは触ってもいいけど、壊すなよ。」

「大丈夫、大丈夫〜。そんな簡単に壊れる訳ないっしょ。」

彼は羨望の眼差しでフィギュアを手に取ると、恍惚とした表情でそれを見つめる。

彼はどうやら微妙なパンチラが気になるらしい。

「おまいら、明日からテストだぞ! テスト!」

「別に平均以上取ればいいんだしー、それに今から頑張っても無理というものだよ。」

相変わらず熊井は屁理屈が多い。

「平均って、まだ平均点がどのくらいか判らんのに、

 どうやって平均以上取れって言うんだよ。」

「それはそうだ。アハハハハハハハ!!」


こいつら・・・、壊れとる。


「あと30分したら帰ってくれよー、僕は勉強するんだから。」

「ハイハイ、僕達は静かにしてるから、君は勉強したまえ。」

「フッ、おまいら。最下位決定だな。」

「さぁ、それはどうかな・・・?」

二人がハモる。


キメェ。こいつらキメェ。


絶対、こいつらより良い点取ってやる!!

僕は教科書を開き、今日までの要点を頭に叩き込む。

一時間が経過した時、彼らは自らの家へと帰っていった。


『フーッ、これでやっと静かに勉強に集中出来る。』


その晩は徹夜にはならなかったのだけれど、

度々襲ってくる睡魔には勝てず、僕は短い睡眠を摂る事にした。


翌朝、早く目が覚めた僕は、せっかく勉強した事をすっかり忘れてるんじゃないか?

と思いつつ、学校へと向かう。


まだ誰も居ないと思っていた教室には、なぜか紺野君の姿があった。


「仲原君、おはよう!!」


「おはよう! 紺野君今日は早いんだね。やっぱりテストがあるから?」

「そういう訳じゃないけど、僕はいつも早く来るようにしてるんだ。」

「えっ、そうなの?」

知らなかった。

いつもギリギリにしか来なかった僕は、彼が一番に来てたなんて思いも寄らなかった。


「僕は中学の頃はずっと病院の中だったから

 こうして学校に来れる事がとても嬉しいんだ。

 それに、新しい友達も出来て、本当に毎日学校に来るのが楽しくて仕方ないんだよ。」


彼は笑顔で、とても嬉しそうな表情をしていた。

目を丸くして微笑むその少女の様な笑顔にまたドキッ、とさせられる。


当たり前のように平凡に生活してきた僕からは、全く想像も出来ないけれど、

彼にしてみれば、学校に来るという事は平凡な毎日なのでは無く、

新鮮な毎日、楽しい毎日なのかもしれない。


ちょっと何か忘れていたものを気付かされた様な気がした。


試験期間中は午前中がテスト、午後に一時間程ホームルームの後に下校となる。

なんとかテストは出来たけど、果たしてうまく出来たかどうかは不明・・・

お昼休みになり、いつものメンバーで席をくっ付け合う。

紺野君はあの日以来、大きめの弁当を持って来るようになっていた。


弁当箱を開けると、なぜか美味しそうなものを真っ先に僕の弁当箱へ入れてくれる。

出来合物では無い、手作りと思われる凝った小さなハンバーグ。

妙に手の込んだミニグラタン。

見た目もさる事ながら、これが中々美味い。


「ちぇー、なんでいつも仲原だけなんだよー」

毎度の如く文句を言ってるのは田中だ。


「いいじゃん、数少ないんだから。全員食えないのは仕方ないだろっ」

僕はちょっぴり勝ち誇ったように応酬する。

やはり、みんなこの件に関してはとても気になるらしい。

食い物の恨みは恐ろしいから、ぼちぼちみんなにも分けてあげられるように

紺野君にお願いしてみる。

「いつもくれるのは嬉しいんだけど、

 たまにはみんなにも分けてあげてくれないかな?」

彼は躊躇する事無くニコニコと答える。

「僕はみんなにも食べてほしいとは思うけど、いつも見てるとみんな

 仲原君のおかずを取っちゃうから、僕があげるのはしごく当然な事

 だと思うよ。」

そう言われればそうだ。

みんなその事には意義無しという感じだった。


僕は気に掛けてくれてたんだな、と紺野君の優しさにちょっと嬉しくなった。


しかし、あの連中をかくも的確に論破するあたり、

強ち(あながち)只者ではなさそうだ。

恐るべし紺野君。


食事中はテストの話で盛り上がった。

あんな引っ掛け問題は邪道だとか、人生終わりだとか

訳の判らない事を言う奴が居たり。

こうみんなとワイワイと食事をするのは実に楽しい。

今朝、紺野君が言っていた


『毎日学校に来るのが楽しくて・・・』


この言葉の意味がなんとなく判った気がした。


程なくして、みんなで校内の自動販売機へ行こうと言う事になり、

弁当箱を片付け、総勢十名程でぞろぞろと向かった。


自動販売機は本館の一階に有り、ちょっとした休憩室になっている。

病院の待合室っぽいと言う者も居るけど、

学校にこういう落ち着いた場所があるのはとても良い。


休憩室に到着すると、既に何人かの先客が居た。

三年の生徒会の面々だ。

僕達は形式ばかりの挨拶をすると、各々の好きな飲み物を買い

ベンチへと腰掛ける。


すると、上級生と思われる連中の一人がこちらに向かって歩いて来た。


「休憩中済まない、君が一年生の紺野君だよね?」


このイケメン生徒は・・・

そうだ、入学式で歓迎の挨拶をした生徒会長だ。

彼は紺野君の前に立つと、180センチは有るであろう体を

前かがみにしつつ、紺野君の顔を覗きこむ。


「あ、はい。そうですけど・・・」

紺野君が困ったような顔をする。


「僕は三年の生徒会長をしてる小泉です。お会い出来て光栄です。

 君の噂は聞いてるよ。」


なぜか握手を求めている。


突然の事でびっくりしたのか、紺野君は差し出された方とは逆の腕を差し出す。

「あ、ごめんなさい。紺野です。宜しく。」


「また改めて逢う機会があると思うから、その時は宜しく。」

小泉は両手で紺野君の手を握り、軽く会釈をすると席へと戻って行った。


なんなんだあの人は・・・


紺野君の顔を見ると、流石に面食らったのか苦笑いをしている。

「あー、びっくりした。」


そう言えば入学式以降、紺野君の事は学校でも有名なくらいにとある噂が

広まっていた。


『この学校に女の子みたいな生徒が居る。』


わざわざ彼を見に来る生徒とかも最初の頃は居たんだけれど、

今はみんな慣れたのか、話題になる事は殆ど無かった。

まあ、彼が有名人なのは依然変わりは無いのだけれど。


『改めて逢う機会があると思うから』


とか言ってたけど、何かあるのかな?

僕は疑問に思いつつも、来たメンバーで違う話題に耽っていた。



午後の短いホームルームが終わり、みんな帰宅の途に着いていく。

今日また、あの二名に部屋に来られるのは本意では無いので、

一人そそくさと帰り支度をして教室を出る。


しかし、調度廊下に出た所で紺野君の声に呼び止められた。

「仲原君、ごめん。ちょっと」

「ん?紺野君、呼んだ?」

僕は振り向きつつ、彼の方に向き直る。


「急いでる所ごめんね。実はお願いがあるんだけど・・・

 これから仲原君の家に行ってもいいかな?」


僕は少し考える。


うーん。あの二人よりは静かになるのは間違い無い。

というか、彼とプライベートで逢うのは初めてじゃないか?

彼は頭良さそうだし、もしかしたら勉強教えて貰えるかも?


僕はそんな邪な思いを抱きつつ、彼の願いを了承した。


帰り道、話していると彼が意外と近くに住んでる事が判った。

プライベートな事は今まで殆ど話した事が無かったので、

ある意味貴重な情報を得る事が出来た。

そして、家に着く頃には既に勉強の事などどうでも良くなっていた。

というか、彼と遊ぶ事しか考えていなかった。

自宅に着き、母親に友達が来た事を伝えると、自室へと彼を案内する。


僕は暑苦しい上着を脱ぎ、彼にも促して衣文掛けを渡す。


「へぇ、いろんな可愛い玩具(おもちゃ)が置いてあるんだね。」


「あのー、これらはオモチャには間違いないんですけどー

 これはフィギュアっていう物でしてー。」

彼は普通の人だから知らないのは当たり前と一人納得する。


「あ、そうなんだ。テレビで良く見かけたなぁって思ったんだ。」

流石一般人。無理に僕の趣味を享受してもらおうとは思わない。


「無理やり押しかけてごめんね。」

彼はもじもじしながら部屋の周りを見渡している。

僕は小さなちゃぶ台を出して、彼に座るように促した。

しかし、立ち位置が悪かったのか、彼は体勢を崩した。


「あっ!危ないっ!」


僕は咄嗟に彼を抱き抱えるようにして、傍のベッドへと倒れ込んだ。

僕が上になるように倒れ、気付くと彼の顔がとても近くにあった。


「ご、ご、ごめん!大丈夫?」

僕は突然の出来事に焦った。

彼の顔を見ると顔を真っ赤にしながらも、優しい笑みを浮かべていた。

そして、こう呟いた。(つぶやいた)


「お願い、もう少し・・・、こうしていてくれないかな・・・」


彼から離れようとする僕のツャツの脇を軽く引きながら

彼は離れるのを拒んだ。


僕の心臓はなぜかバクバクと鼓動している。

あの時、入学した日、

彼を見た時に感じた胸の奥がキュンとなる感覚が感じられた。


『なんなんだ・・・この感覚は・・・』


たしかに彼は女の子らしい感じはある。

入学式に初めて彼を見た時、ドキッとした気持ちもまんざら嘘じゃない。


彼の髪から漂う心地良い香りが、僕の顔の周りを包む。


暫くして、彼の腕が僕の体を捕らえる。

僕が彼を抱きとめるという感じから、

逆に彼が僕に抱きつくという感じが正しいかもしれない。

さながら彼氏が彼女を労わるかの様な・・・


彼の顔に目を移す。

目を瞑り、僕に抱きついたその表情は、

まるで天使のように幸せそうな笑顔に変わっていた。

時折、強く抱きしめるように彼の腕に力が入る。


今まで女の子と付き合った事も無ければ、まともに話した事も無い、

ましてや、初恋なんてものもした事も無い僕は、

彼に、ある種の感情が芽生えた様な錯覚を覚えた。


『・・・まさか彼に、なんだろうこの感情は・・・』


自分が少し信じられなかった。


でも、僕の中で一瞬ではあるけれど、

彼が男であるとか、女じゃないとか、

そんな事はどうでもいいという感じがした。



どれくらい時間が経っただろう・・・



お互い何も話さず、何も交わさず

静かな時間が過ぎていく・・・。


しかし、


もう一人の冷静な自分が囁き(ささやき)、静寂を打ち破る。


『このシチュエーションを親に見られたら不味い。もの凄く不味い。』


と思ったが早いか、ドアが開き母親が茶菓子を持って入って来た。


「・・・。」


「あらあら、お母さん御邪魔しちゃったかしらぁ・・・

 お茶、ココに置いておくわねぇ。」


母親はそう言うと、静かに階下へと降りていった。

彼はそんな空気を悟ったのか、僕から離れる。

「ご、ごめんなさい!! 僕こんなつもりじゃ」


母親に見られたのは仕方無いとして、彼を責める理由は見当たらない。

なぜなら、原因は『事故』だったのだから。


「あははは、母親が・・・なんか誤解しちゃったみたいだね。」


お互い、離れると急に照れくさくなった。


それからは、先ほどまでの出来事を振り払うかのように、


一緒に明日のテスト勉強について教え合った。


帰り際、

お互いどういう感情だったのか、どういう風に思ったのか

確認する間も無く、僕は彼の後ろ姿を見送った。


部屋に戻り、入浴の準備をしてお風呂場へと向かう。

さっと体を洗い、湯船に体を預けた。


あの部屋での出来事が、頭の中でリフレインしている。


『彼に、男に対してあんな感情をもってしまうなんて・・・

 僕は普通じゃないのかな・・・』


僕はザブンッと頭まで一気に浸かった。


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