#71 鼠小僧の隠れ家襲撃事件
ギルター宰相の力は絶大で鼠小僧の正体がジロキチという名前であり、アーベルトの養子であることを突き止めた。この事実に第二王子オレガ・シルファリッドは驚く。
「鼠小僧の正体がアーベルトの養子だと!? これは偶然か?」
「わかりません。アーベルトに代わって我々に復讐している可能性が大いにありますが奴の居場所を突き止めました」
「ハニットの村か……ここで二人暮らし? このプラムという女性は他国の人間か。復讐かどうか知らないが俺たちと敵対するなら徹底的に潰すまでだ」
「お待ちください。今回の行動は鼠小僧の捕縛という大義名分がございますがあなた様の騎士団を動かすとなると第二王子が今回の一件に関わっている可能性が強まります。ここは上手くやりましょう」
第二王子オレガ・シルファリッドとギルター宰相はファリース侯爵暗殺に関わった暗殺組織に再び依頼しつつ、その中に第二王子オレガ・シルファリッドの騎士団のメンバーを入れた。流石に暗殺組織だけに任せるとなると本当に依頼を達成してくれたのかわからないので、自分たちが信頼を置く人物を入れるのは当然の選択だと言える。
逆に言うとファリース侯爵暗殺の際にも同じことが行われた。ファリース侯爵の護衛が全員倒されたのは王国騎士団が関わっていたからだ。それほどまでに彼らは強い。そしてそんな彼らから逃げ切れたファリース侯爵の執事の実力もかなりのものだったと言える。
そんな化け物がいる暗殺集団が次郎吉がいるハニットの村に向かって出発する。ゴンドーラ刑務所脱獄事件からわずか数日後の深夜。ハニットの村の次郎吉たちの家が暗殺集団に取り囲まれた。家の中では次郎吉とプラムの姿と会話が聞こえてきて、家の灯りが消える。
これを見た彼らはターゲットが家にいることを確信してリーダーの男が指示出しする。
「……やれ」
暗殺集団から一斉に次郎吉の家に火炎瓶が投げ込まれ、家が火に包まれる。そして全員が武器のソーサリーファクトを起動されるが誰も家から出てくることない。そして家が崩れる音が聞こえると流石にハニットの村の人たちが異変に気が付く。これに気付いた暗殺者たちは一斉に距離を取る。
「大変だ! ジロキチさんとプラムちゃんの家が火事だぞ!」
「火を消せ! 水だ! 大人を全員起こすんだ! みんなで水を運んで火を消すぞ!」
「わかった!」
「急ぐぞ! 二人とも、無事でいてくれ!」
村人たちは総出で次郎吉たちの家の火を消して、崩れた家を見て二人を探そうとしたところでハニットの村の宿屋に泊まっていた人から待ったの声がかかる。
「みなさん! 触らないでください! 私はソリスです! 今回の火事は放火の可能性が高いので、現場保存を優先させてください」
「現場保存って……おいおい! ちょっと待て! 二人を助けに行くことぐらいさせてくれよ!」
「ダメです! 皆さんは見ていてください! 生存者の確認は私がしますから!」
村人はソリスの人の言うことを聞くことしかできず、彼の様子を見守る。そのソリスは崩れ落ちた次郎吉たちの家を捜索するが人の姿は見当たらない。そんな中、彼は地下室の存在に気が付くと村人の元に戻る。
「この家に住んでいた人たちは見つかりませんでした。恐らく運よく外出していたのでしょう。ソリスに応援を頼みましたので、この事件現場には立ち寄らないでください」
「わ、わかったよ……」
夜が明け、昼頃になるとソリスの部隊が到着し、家を漁る。当然最初のソリスは事前に村に泊まっていた騎士団の一人で到着したソリスの部隊は暗殺組織と騎士団で構成された人たちの変装だ。軍事と深く関わっている第二王子ならソリスの服ぐらい簡単に調達できる。
そもそも今回の事件で新しくソリスのコミッショナーに任命された人物はソリス経験がない王国騎士団の中でも腕前が認められた人物だった。つまり第二王子と深く関わっている人物が任命されている。これも今回の事件の狙いの一つだ。
ゼファルコミッショナーは国王から任命された人物でどちらかというと第一王子と関りが強かった。ソリスを支配するためにはゼファルコミッショナーの存在が邪魔で第二王子の息がかかっているソリスを利用してゼファルコミッショナーを貶めることに成功した流れが存在している。
今回ソリスを利用したのも何かあれば新しいコミッショナーが握りつぶすことが出来るので、ソリスの変装とソリスの捜査権を上手く利用して次郎吉たちを消す算段をたてていた。
「地下室があったという話は本当か?」
「間違いありません。案内いたします」
ソリスに変装した人たちが次郎吉たちの家があった場所に足を踏み込んだその時だった。突如防犯のソーサリーファクトが起動し、家の周囲に結界が展開される。
「「「「罠!?」」」」
一斉に武器のソーサリーファクトで結界を破壊しようとするがもう遅い。結界の地面に幾何学的な魔方陣が展開された次の瞬間だった。魔力の大爆発が発生し、結界が吹き飛ぶ。そんな大爆発が起きたにも関わらず、次郎吉の罠に引っかかった人間たちは全員傷もなく吹き飛ぶこともなかった。
「な、何が起きた!? 全員無事か!?」
「生きてます!」
「……妙だな。ダメージも何もないぞ? ならさっきの罠はなんだったんだ? 脅し? いや警告か?」
暗殺組織の人間は冷静に次郎吉の罠を分析する。今回の罠が殺傷能力が高い爆発の罠だったら、この場にいる全員は間違いなく死んでいた。だから次同じことをしたら、爆発させるという警告だと予想した。
そんな彼らはとりあえず地下室を見に行くことにする。すると地下室には何もなく、次郎吉からの手紙だけが起こされていた。
『お前らの人生、盗ませて貰ったぜ。鼠小僧』
「なんだ? このふざけたメッセージは? 人生を盗むことなんて不可能に決まっているだろ。馬鹿か? こいつは」
確かに人生を盗むことなど不可能と言っていい。しかしこのメッセージを見た暗殺組織の人は結論を言う。
「やはりさっきの罠は脅しでも警告でもなかったか……何かしたな」
そういった人はまず自身のソーサリーファクトを起動されるとソーサリーファクトは起動しなくなっていた。さっきの魔力爆発でソーサリーファクトの魔力ラインと魔術式が吹っ飛んだのだ。しかしこれだけで人生を盗むというのはいささか無理がある。
なぜなら壊れたなら直すなり新しく買えば済む話だからだ。これは言い換えれば次郎吉が狙ったのは変えが効かない失えば人生が大きく変わるほどの物を狙ったことになる。
「ん? まさか!?」
そう考えたときに暗殺組織の人間は次郎吉が何を狙ったのか理解する。暗殺組織の人間が魔法を発動させようとすると魔法が発動しなかった。
「やられた!」
この世界において魔法のあるなしは人生を大きく変える。暗殺組織だと強さに直結するし、強さが無くなれば当然暗殺組織に暗殺を依頼する人間はいなくなる。
騎士団ではまず魔法が使えないと入団することすら出来ない。つまり今回で魔法が使えなくなった騎士たちは騎士団のクビが決定したことになる。
次郎吉たちを逃がしたことがほぼ確定し、村人に話を聞いたが引っ越しの様子はなかったという。それもそのはずで『アルバ』の手助けで引っ越しの準備を進めていたのは深夜だったので、村人が知ることは無かった。
しかも次郎吉が影を利用した映像のソーサリーファクトと声を録音するソーサリーファクトを使用して留守を偽っていたのが村人と暗殺者を騙すことにおいて効果的だった。部屋の明かりが自動的に点いたり消えたりしていたのもライトのソーサリーファクトに時間設定でソーサリーファクトの電源を管理していたからだ。そのソーサリーファクトたちも今回の爆発で全ての情報が消し飛んで壊れたソーサリーファクトというガラクタと化した。
とにかく現場にいる彼らでは次郎吉たちがどこに逃げたのか分からず帰るしかなかった。そして今回の作戦失敗を知った第二王子と宰相は怒りに震えたが後日この任務を任せた騎士たちが魔法の使用が出来なくなっていることが判明し、正式にクビを通告した。
「そんな! お待ちください! 魔法が無くても俺たちは国のために戦えます!」
「ならお前は騎士団に所属している騎士と一対一で戦って勝てるって言うんだな?」
「そ、それは……」
「無理なんだろ? だったらお前たちは俺には必要ない。役立たずはとっとと城から出ていけ」
第二王子の厳しい言葉に騎士たちは出ていくしかなかった。こんな様子の第二王子だが重要な任務を任せられるほどの人材を今回失ったのは大打撃と言える。次郎吉もそこら辺を全て考えた上で人の命は奪わないが人の人生を終わらせる凶悪な罠を用意した。
これで第二王子と宰相、そして暗殺組織は次郎吉が魔法を使えなくさせてくる技術を持っていることが判明したことで下手に手を出すと自分たちの強さを失うことになりかねないと考える。軍事派閥でその強さを失うのは致命傷だ。これで次郎吉に手を出しにくい状況を作り出した。
しかしそれならそれで別の手を考えればいい。城から去る騎士団たちにギルター宰相はこっそり声を掛ける。
「あなたたちがこうなった原因をよく考えて、騎士団に復帰するために最適な行動を取ってみてください」
この言葉を聞いた騎士たちは脳裏に鼠小僧が浮かぶ。そして自分たちの人生を台無しにした鼠小僧への復讐を決意するのだった。
これが今回の黒幕サイドの動きだ。この動きに対して『アルバ』も動いていた。今回の黒幕が次郎吉とプラムの命を狙って来る可能性が高いと予想出来ていたことで『アルバ』も次郎吉たちのハニットの村の拠点を見張っていた。
そうなると当然次郎吉たちの拠点襲撃の犯人たちを補足することに成功している。そしてゲオリオは騎士団所属だ。当然突然魔法が使えなくなった騎士の情報やそれで騎士団をクビになった騎士の情報は耳に入る。ましてや第二王子が信頼するほどの騎士なので騎士団の中でも実力者として有名だっただけにこの情報は騎士団内ですぐに広まるのは必然だった。
(おいおい……今回の事件の黒幕って第二王子なのかよ。ジロキチもやばい奴に仕返しをしたもんだな)
流石に事情を知っているゲオリオからすると結論はこうなる。事情を知らない騎士や貴族、政治家からすると強い騎士がクビになっただけの話で終わる。問題はゲオリオがこの結論になるということはラピーシア王女も同様にこういう結論になるということだ。
「そんな……オレガお兄様がファリース侯爵を貶めたなんて……う、嘘です!」
「落ち着いてください。ラピーシア王女。まだ決定したわけではありません!」
「そ、そうですよね?」
流石に今回の事件の衝撃はラピーシア王女にとってはかなりの精神的ダメージとなった。彼女からすると第一王子は知的で素敵なお兄様であり、第二王子は強くかっこいいお兄様だった。どちらも自慢の兄であり、国王の死後は二人の王子が協力して国を運営していくと思っており、その二人をサポートするのが自分の役目だと思っていた。
それが今回の出来事を知ってしまったことで自分が思い描いていた未来予想図に大きな亀裂が走る結果となった。一方で彼女の側近のルルはこの未来が来てしまう可能性はちゃんと考えていた。国の闇と戦うということは身内の闇を知ってしまうことを意味している。当然身内に闇が無いなら知ることも無いのだが、政治の世界はそんな優しい世界でないことをルルは知っていた。
その現実を知り苦しむラピーシア王女を見て、ルルはラピーシア王女もまた近い未来大きな選択をすることになり、政治に関わる王族として成長することになると予想して城の外を見る。その時の空は暗雲に覆われているのだった。




