05
「お、お前、本当に刺しやがったな!?信じられないよおおおお!!」
涙目の和泉は、自分の右胸に突き刺さった石の剣をつかみながら喚いた。
「どうだ?痛いか?」
「い、痛いに決まってるだろ!!やめろよ、バカ野郎!早く抜けよ!」
和泉は顔を醜くゆがめ、子供の様に涙をポロポロと流しながらも精一杯虚勢を張っていた。
「やっぱり、この世界でも傷ついたら痛いんだな。気を付けないと……」
俺は石の剣を両手で掴むと、片足で和泉の胸板をグィッと蹴って剣を引き抜いた。
和泉の傷口から真っ赤な鮮血が、ドバッと飛び出した。
「痛いよう!痛いよう!許さないからな!訴えてやる!」
「はいはい!好きにしな!」
俺は剣を振るって和泉の喉元をかき切った。
「グゲップ!!」
血反吐を履きながら、和泉は絶命した。
地面に転がった和泉の死体の上にはリンゴが1個、浮かんでいる。
別世界から転移してきた人間――――転移人と呼ばれているらしい―――が死ぬと、所持品がアイテム化してその場に散らばる。
1時間以内に拾わないと、そのまま消滅してしまう。
そう、エメナルド・タブレットに記されていた。
和泉はどこかで拾ったリンゴを、彼女にも内緒で隠し持っていたようだ。
「なんだよ、こいつ!リンゴを持ってるじゃないか!セコイ奴だ!」
俺はリンゴを拾い上げると、ポイッと真央に放り投げてやった。
「ひ、ひ、ひと殺しい……!!」
真央は震えながら後ずさりしたが、しっかりとリンゴは拾い上げた。
「慌てるなよ。見てみろ」
俺は地面に転がった和泉の死体を指さした。
和泉の死体は光り輝きながら、輪郭がぼやけてきた。
と、空中にかき消すように消滅した。
「この世界で死んだら俺たち転移人は、すぐに生まれた場所にリスポ―ンするんだ。お前ら、この世界に転移して来た時どこにスポ―ンした?」
「ス、スッポン……?」
「スポ―ンだよ!最初に気が付いた時の場所だよ」
「ど、どこだったかしら。え―と、え―と………。そうだわ!森の入り口、川のそばの砂浜だったわ」
「じゃあ、そこに行ってみな。大事な恋人はそこで再生しているはずだ」
「お、覚えておきなさいヨ!こんなことをして、タダで済むと思わないでよね!あんたなんか、コウヘイにぶち殺してもらうからね!!」
真央はうろたえながらも捨て台詞を吐いて、立ち去ろうとした。
その時だ。
森の暗がりのそこかしこから、不気味なうめき声が聞こえてきた。
ゾンビだ!
俺は慌てて空を見上げた。
空には星が輝き、満月が昇っていた。
「しまった!いつの間にか夜になっちまった!モンスタ―が沸いてくるぞ!」
暗がりにいたので気が付かなかったが、周囲はすっかり薄暗くなっていた。
俺たちはゾンビの大群に囲まれているようだ。




