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俺は続けざまに右手のコーヒーに対して「FILL IN」の術式を唱えた。
双子にEnforceの術式をかけてもらっていたため「FILL IN」の術式の効果は目を見張るものがあった。
まるで幾つもの大型ダムが一斉に放水したような凄まじい量のコーヒーが生まれ、地底に流れ落ちていった。
俺はとっさにインベントリーから小型のボートを取り出して乗り込んだ。
深い所から湧くような地響きが、ボートに座っている尻にも伝わってくる
地響きは地の底で大太鼓でも打つ不気味さで少しずつ大きくなり、まっしぐらにこちらに向かってきている
地底に到達した水流は穴底の湖を溢れさせ、なおも地上へと昇ってきているのだ。
水流はいよいよ膨れ上り、俺の乗るボートにまで達し、周囲にはコールタールのような黒い海が広がっていった。
「待てよ!このまま大穴をコーヒーで一杯に満たしたら、ボートに乗ったまま地上まで楽に帰れるんじゃないか」
楽するためなら骨身を惜しまない俺は、ボートから右手を出すと水中につけたまま「FILL IN」の術式を連呼した。
術式を唱えるたびに水面は激しく盛り上り、ボートは嵐に舞う木の葉のようにもみくちゃにされながら、揺れ動く波の山を乗り越えていった。
黒い波の峰と波の谷とがかわるがわる目の前に現われる
俺はボートに必死につかまりながら上空を見上げた。
小さな四角だった青空がどんどん大きく広がっていく。
やがて、Enforceの効果が切れたようで、いくら「FILL IN」の術式を唱えても水面が上昇しなくなった。
だが、もう地上はすぐそこにまで近づいていた。
俺はボートを漕いで大穴の縁に近づいて行った。
丈高のうねりが縁の近くでひときわ激しく盛り上げる。
俺はボートを捨てて岸壁にしがみついた。
「SNEAK!」
「SNEAK」の術式を唱えると、俺の手足はカエルのようにピタッと岩壁にくっついた。
「ゲロ!ゲロ!ゲロ!」
久々にカエルの鳴きまねをしながら、俺はスイスイと岩壁を登って行った。
岩壁をよじ登ること小一時間、とうとう俺は地上へと無事に帰還したのだった。
俺は地面の上に大の字に寝転び、青空を見上げる。
「やっぱり陽の光を浴びるのは気持ちがいいなあ!俺は決めたぞ!これからは家に引きこもっていないで、毎日外に出てみんなのために働くんだ!!」
遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
大空に浮かんだ熱気球が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
俺はゆっくりと立ち上がると、俺の家族たちが乗った熱気球に向かって大きく手を振った。




