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 気球のバスケットから飛び降りた俺は、空中に浮かんでいた鉄鉱石の塊の上に着地した。


 少し上空には今まで乗っていた熱気球が浮かんでいる。


 窓ガラスに心配そうにこちらを見ている女の子達が顔が見えた。


 あの娘らは、例えドラゴンに殺されてもまた生き返ることができるだろう。


 だが、この異世界で生まれた赤ん坊たちはどうなるんだ。


 恐らく、赤ん坊は生き返らないと思う。


 赤ん坊はこの世界で生まれ、普通に成長し、老衰して死ぬのだと思う。


 ここでドラゴンに殺させるわけにはいかない。


「やれやれ!人の親ってのは大変だな」


 ドラゴンは気球を見つけたようで真っすぐに降下していた。


「気球の方に行くんじゃねぇよ。こっちへ来い!」


 俺はAIMの術式を唱え、ドラゴンに向かって矢を放った。


 矢は見事にドラゴンの腹に命中し爆発した。


 だが、ドラゴンはまったくの無傷で、こんな攻撃、痛くもかゆくもないようだった。


「やっぱりな。しかし、これならどうだ!」


 俺はドラゴンの眼に照準を合わせてた。


 矢はドラゴンの右目に突き刺さった。


「ギャーオーッ!」


 ドラゴン、怒りの咆哮だ。


 ドラゴンはみんなの乗った気球の横を通り過ぎ、一目散に俺の方に向かって来た。


 そして、ドラゴンは俺が乗っている鉄鉱石の塊の上にズシンと着地した。


 赤く燃えるような左目で俺を睨みつけると、口から鋭い牙をのぞかせてうなり声を上げた。


「うるせぇぞ、トカゲ野郎!お前が勝手に攻めてくるから悪いんだ。俺だってなあ、ドラゴンと戦うなんて古臭いTVゲームみたいなことしたくねぇんだよ、ボケ!!」


 俺は最強の剣、グラディウスを取り出すと両手で構えた。


「あっ!?防具つけるの忘れてた!ちょっと待って!」


 慣れないヒーローまがいのことをするもんじゃない。


 俺はインベントリーの中から最強の防具を取り出し、慌てて装備した。


 ドラゴンは口から灼熱の炎を吐き出した。


 しかし、何とか防具を着け終わっていた俺は、炎ぐらいまったくノーダメージだった。


 ドラゴンは立ち上がると、俺に噛みつこうと大口を開けて向かってきた。


「ええい!長々と戦闘シーン書くなんてメンドクサイだよ!!」


 俺はドラゴンの口の中目掛けて頭から飛び込んでいった。


「外側は固い鱗で守られているが、内側からなら倒せるだろう。名付けて一寸法師戦法だ!」


 だが、ドラゴンは俺をスルリと飲み込むほどには大きくはなかった。


 俺の身体はドラゴンの喉の所でつかえてしまった。


 ドラゴンは苦しそうに鉄鉱石の塊の上を転げまわり、俺を吐き出そうと何度も炎を吐き出した。


「へぇー。炎ってドラゴンの気管の方から出てくるんだ。肺の中から出てくるのかな?やっぱり、喉が詰まると呼吸できないのかなあ。まあ、こんなファンタジーの生物の生態なんか気にしてもしょうがねぇか」


 俺はドラゴンの喉に頭からすっぽりとはまり込み、身動きが出来なかった。


「うーん!この状態はカッコ悪いぞ。早くなんとかしないと俺にかかったEnforceの術式も解けてしまう」


 双子のEnforceの術式をかけてもらったが、結局、俺はまだ何の術式も使っていない。


 なんかの攻撃魔法とか使えたなら、それを必死に唱えたらラスボスの方も空気を読んでなんとなく倒れてくれるのだが、ほんと、俺は戦闘に向いていない。


「俺の使える術式と言えば、掘ったり、切ったり、埋めたりだからなあ…。気球のみんなが逃げるだけの時間稼ぎもできただろうし、もう死んじゃった方がはやいかなあ。いやいや。それだと最強の防具と弓矢と剣をなくしちまうことになる。そんなことしたら、香菜子達にボロクソに怒られぞ」


 はっきり言って、ドラゴンなんかより香菜子達を怒らせる方が怖い。


「なんとかここから出て、地底に落ちて行くか。下は湖だから、水の上に落ちたら死なないし………。水!そうか、昔から炎には水だ!王道ファンタジーみたいな展開だぞ!」


 俺は兜以外の防具をインベントリーの中にしまった。


(兜には水中でも呼吸が出来る効果があるからね)


 身軽になった俺は右手にコーヒーを詰めた水筒を取り出した。


 これは地底に降りる前に喉が渇いた時のために美衣奈が用意してくれたものだ。


 俺は片手で水筒の蓋を開けると、コーヒーを流した。


 俺の右の手のひらはコーヒー浸しになった。


「FILL IN!」


「Enforce」で威力が増した「FILL IN」の術式で、俺の右手のコーヒーは膨れ上がり、ドラゴンの体内で爆発的に容量を増やした。


 コーヒーは簡単にドラゴンの腹を突き破り、身体をバラバラにして外にまで流れ出た。


 俺はコーヒーに流され、鉄鉱石の塊から地底に向かってまた落下していった。


「もう、地底はごめんだぜ!」


「FILL IN! FILL IN! FILL IN! FILL IN! FILL IN! FILL IN!」


 俺は続けざまに右手のコーヒーに対して「FILL IN」の術式を唱えた。

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