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ジュリアがいきなり俺に向かって右手を差し出した。
「カエル男、私の手、握って!」
「喜んで!」
何のことだかわからないが、美少女に手を握れと言われたら喜んで握るし、胸を揉めと言われたら大喜びで揉んでやる。
俺はジュリアの手を両手で強く握りしめた。
「色白で細くて小さくて、まるでお人形さんのような手だねぇ」
俺はだらしない顔でジュリアの手を撫ぜまわした。
隣に立っている香菜子がまるで汚物を見るかのような冷たい目でそんな俺を睨みつけている。
ジュリアはセクハラまがいの俺の行動など全く意に介さずに話を続けた。
「私のステータス、見える?私のprofession、見てクダサイ」
「profession?ああ、JOBのことか?」
俺はジュリアの頭の上に浮かんだステータス情報に意識を集中した。
「ふーん。やっぱりフランス語で書いてあるんだな。professionにはenchanteresseって書いてある。なんだ、こりゃ?」
「私も最初、わかりませんでした。最近、わかりました。エンチャントレス、私、魔法少女です」
「えっ!?ジュリア、魔法が使えるのか?」
「いいえ。私、魔法、使えません。チート、使えません」
「だったら何ができるんだ?」
「エンチャント。物、変える力です」
なかなかジュリアの言いたいことがわからなかったが、どうやら彼女は錬金術とは異なる体系の魔法が使えるようだ。
魔法と言っても物質を変化させる知識体系を習得しているだけで、チートが使えなくても、誰でも使えるものらしい。
「牛革、手に入れます。できます」
「えっ!一体どうやって!?」
「ゾンビ肉、大釜、グツグツ、革になります」
その場にいた全員に、時が止まったかのような驚きが走った。
あまりの意外さに、俺は騙し討ちにあったような気に陥った。
「ゾンビの腐った肉を大釜で煮込んだら皮になるのか!?」
「そんなレシピ、聞いたこともなかったわ!」
「エンチャントレスってJOBだけに伝わるレシピなんやな」
「腐った肉なら、周りに一杯散らばっているわ!」
「急いでみんな、腐った肉を集めるんだ!」
俺が倒したゾンビたちがドロップした腐った肉はそこら中に散乱していた。
時間が経つと消えてしまうため、全員で慌てて肉を集めて回った。
俺はジュリアの指示通りに鉄を使って巨大な釜を地面の上に錬成し、その周りに杉の木の棒を並べた。
「abracadabra !」
ジュリアは大釜の中に水を入れ、杉の木の棒に火をつけた。
大釜の湯がグツグツと沸騰し、ジュリアは自分のインベントリーの中から何かの花や種を放り込んでいた。
みんなは拾い集めたゾンビ肉を大釜に次々と放り込んでいった。
「la formule magique du bonheur. la formule pour etre heureux 」
フランス語で何やら呪文を唱えながら、大釜で何やら怪しげな物を煮込んでいるジュリアは、まさに正統派魔女のイメージそのものだった。
「これで球皮を錬成するのに必要な皮が手に入りそうだな。その他のパーツはできているのか」
「はい!」
熱気球のレシピを取得している美乃里が元気よく返事し、手を差し出した。
俺は美乃里の手を取り、彼女のインベントリーの中を見せてもらった。
美乃里のインベントリーの中には球皮内の空気を加熱する「バーナー」とそして人が乗るため「バスケット」の二つのアイテムが既に収納されていた。
「よし!バスケットは置いてくれ」
美乃里は自分のインベントリーからバスケットを取り出して俺の前に置いた。
俺が作る豆腐小屋そっくりの木製の巨大な籠がドンと目の間に現れた。
側面にはガラス窓や扉までついている。
「これがバスケットか?でっかいなあ!これなら全員一度に乗れるな!」
「はい!ただしこのバスケットに似合った巨大な球皮が必要となりますが」
「それなら大丈夫そうだぜ」
ジュリアが大釜の中をかき混ぜていた物体を大きな棒をすくいあげた。
ぐちゃぐちゃねとねとだった腐った肉が丈夫でしっかりとした皮に変わっている。
「よし!木材だけなら死ぬほど持ってきた。万能無限収容箱を作るから、宝物庫にあるアイテムを残らずバスケットの中に運ぶんだ。ここにある資源は根こそぎ持って帰るぞ!」
俺は嬉々としてみんなに指示をした。
そんな俺を、香菜子が懐疑的な目でじっと見つめて言った。
「あんた、私達を助けに来たのよね」
「もちろんだとも!」
「なんだか私たちはついでで、本当は資源を取りに来たみたいに見えるわよ」
ギクッ!
俺は笑って誤魔化すことにした。
「ハハハハッ!よし!全員で気球に乗って地上に帰るぞ!」




